南海トラフ地震の臨時情報や台風の影響による買いだめ、インバウンド消費や輸出の増加、減反政策など、さまざまな要因が重なったためとされていますが、気になるのが昨年の猛暑の影響です。
気候変動がコメにどのような影響を与えるのか、専門家に詳しく教えていただきましょう。
気候変動がコメにどのような影響を与えるのか、専門家に詳しく教えていただきましょう。
コメ不足・品質変化の背景に酷暑?
農林水産省によると2023年度の主食用のコメの収穫量は661万t、全国の作況指数は101(平年値は100)です。ただ、「小池精米店」(東京・原宿)三代目店主・小池理雄さんによると、「消費者に直接コメを届ける精米業者の立場からすると、昨夏の酷暑の影響はあった」といいます。
「私たち精米業者は、一般的に玄米で仕入れて精米して売ります。ところが2023年産の玄米は、米粒の背中や腹に背白・腹白と呼ばれる白い筋が入っているものが多く、精米した際の歩留まり(玄米から白米に精米したときの重さの割合)があまりよくなかったのです。暑さによる『高温障害』が原因と考えられます。
もちろん産地の環境や生産者さんの技術などによってもばらつきがあるものですが、例えば弊社が仕入れている新潟県産コシヒカリは品質が目立って悪く、魚沼産のコメは1等がなく2、3等だけと、かつてない状況でした(※1)。
三重県産のように例年と変わらず良い出来のものもありましたが、ひどい暑さの影響は多かれ少なかれどの産地にもあったようです」(小池さん)
(※1)1等は整粒割合が70%以上/被害粒・死米・着色粒・異種穀粒および異物(稲わら、もみ殻など)混入の計15%以下、2等は整粒60%以上/被害粒など20%以下、3等は整粒45%以上/被害粒など30%以下。含有水分は1~3等とも15%以下
「私たち精米業者は、一般的に玄米で仕入れて精米して売ります。ところが2023年産の玄米は、米粒の背中や腹に背白・腹白と呼ばれる白い筋が入っているものが多く、精米した際の歩留まり(玄米から白米に精米したときの重さの割合)があまりよくなかったのです。暑さによる『高温障害』が原因と考えられます。
もちろん産地の環境や生産者さんの技術などによってもばらつきがあるものですが、例えば弊社が仕入れている新潟県産コシヒカリは品質が目立って悪く、魚沼産のコメは1等がなく2、3等だけと、かつてない状況でした(※1)。
三重県産のように例年と変わらず良い出来のものもありましたが、ひどい暑さの影響は多かれ少なかれどの産地にもあったようです」(小池さん)
(※1)1等は整粒割合が70%以上/被害粒・死米・着色粒・異種穀粒および異物(稲わら、もみ殻など)混入の計15%以下、2等は整粒60%以上/被害粒など20%以下、3等は整粒45%以上/被害粒など30%以下。含有水分は1~3等とも15%以下
気候変動はコメにどう影響する?
農研機構農業環境研究部門グループ長の石郷岡康史さんも、「2023年は夏季の全国平均気温が過去最高となり、一等米比率の全国的な低下がみられ、著しい高温となった北陸から東北地方にかけては、一等米比率が過去に例がないレベルで低下した」とします。
農業生産の現場では、気候変動の影響が現れてきているといいます。石郷岡さんによると、コメについては、収量と品質の両方への影響があり、良い面も悪い面もあるといいます。
「二酸化炭素濃度上昇により、光合成によるバイオマス生成量は増加、つまり“よく実り”ます。温暖化により北日本で冷害が減少すれば、増収要因となります。これらは、コメの収量を増やす要因といえます。
一方、温度が高いと作物が早く発育してしまい十分生長できなかったり、開花期に高温になると受粉がうまくいかず実りが悪くなったりして、減収の要因となります。
また、品質への影響は、出穂後に登熟期間の高温による白未熟粒の発生や、高温乾燥による胴割粒の増加、間接的にはカメムシなどの害虫の増加による斑点米の増加があります」(石郷岡さん)
すでに被害が現れているのが、出穂後の実が大きくなる「登熟期間」に高温になることによる白未熟粒発生の多発です。
「猛暑年となった2010年には全国的に白未熟粒が大規模に発生し、多くの府県で一等米比率が大きく低下しました。以降、近年は猛暑が頻発する傾向が続いています。前述した2023年も顕著でした。収量に関しては、高温による減収は統計値にはまだ明確には現れていません」(石郷岡さん)
農業生産の現場では、気候変動の影響が現れてきているといいます。石郷岡さんによると、コメについては、収量と品質の両方への影響があり、良い面も悪い面もあるといいます。
「二酸化炭素濃度上昇により、光合成によるバイオマス生成量は増加、つまり“よく実り”ます。温暖化により北日本で冷害が減少すれば、増収要因となります。これらは、コメの収量を増やす要因といえます。
一方、温度が高いと作物が早く発育してしまい十分生長できなかったり、開花期に高温になると受粉がうまくいかず実りが悪くなったりして、減収の要因となります。
また、品質への影響は、出穂後に登熟期間の高温による白未熟粒の発生や、高温乾燥による胴割粒の増加、間接的にはカメムシなどの害虫の増加による斑点米の増加があります」(石郷岡さん)
すでに被害が現れているのが、出穂後の実が大きくなる「登熟期間」に高温になることによる白未熟粒発生の多発です。
「猛暑年となった2010年には全国的に白未熟粒が大規模に発生し、多くの府県で一等米比率が大きく低下しました。以降、近年は猛暑が頻発する傾向が続いています。前述した2023年も顕著でした。収量に関しては、高温による減収は統計値にはまだ明確には現れていません」(石郷岡さん)
適応策として、田植え、品種、水管理に変化
高温によるコメの品質低下を防ぐことは、各産地で大きな課題となっており、さまざまな気候変動への適応策が講じられています。例えば、田植えの時期の移動です。
「遅植えで、登熟期が高温のピークの後になるようにする場合が多いです。早期作を実施する地域では、田植えを早めることで高温を回避する場合もあります。
ほかに、発育の仕方の異なる品種を選んで登熟期間が高温のピークに当たらないようにしたり、同じレベルの高温でも白未熟粒の発生が少ない高温耐性品種を育てるケースもあります」(石郷岡さん)
田植えが行われた後にも、水管理や肥料などにより高温被害の軽減が図られています。
「水管理としては、出穂期や登熟期に水を張ったり水を抜いたりする間断灌漑(かんだんかんがい)を適正に行うことで、根を健康に保ちます。用水が十分に使用できる場合、かけ流しにしたり、日中に深く水を張ることで高温を回避します。
肥培管理としては、生育状況に応じた追肥や減肥などを工夫します」(石郷岡さん)
もちろん、高温に強い品種の開発、転換といった対策も長期的な目線では欠かせません。
「遅植えで、登熟期が高温のピークの後になるようにする場合が多いです。早期作を実施する地域では、田植えを早めることで高温を回避する場合もあります。
ほかに、発育の仕方の異なる品種を選んで登熟期間が高温のピークに当たらないようにしたり、同じレベルの高温でも白未熟粒の発生が少ない高温耐性品種を育てるケースもあります」(石郷岡さん)
田植えが行われた後にも、水管理や肥料などにより高温被害の軽減が図られています。
「水管理としては、出穂期や登熟期に水を張ったり水を抜いたりする間断灌漑(かんだんかんがい)を適正に行うことで、根を健康に保ちます。用水が十分に使用できる場合、かけ流しにしたり、日中に深く水を張ることで高温を回避します。
肥培管理としては、生育状況に応じた追肥や減肥などを工夫します」(石郷岡さん)
もちろん、高温に強い品種の開発、転換といった対策も長期的な目線では欠かせません。
今後のコメの状況は?
今年は夏の酷暑や台風、大雨などがありましたが、農林水産省は2024年のコメの作柄について、「良」が青森県、「やや良」が北海道など11道府県、新潟県など31の都府県が「平年並み」になるとする見通しを示しました(※2)。
今後も気候変動は進んでいくと予測されていますが、日本のコメ生産はどうなっていくのでしょうか。
「温暖化条件でのコメ生産という観点から、生産者、行政、研究機関の連携のもとで影響評価と適応効果に関する知見を共有し、地域の実情に応じた最適な適応技術の導入を図ることが必要でしょう。
また、異常気象の影響に迅速に対応するため、気象予報や衛星リモートセンシング技術を活用した栽培支援システムを活用することで、即時取得できる気象情報に基づいた適切な栽培管理や障害回避のための対策を講じることが可能になると考えています」(石郷岡さん)
コメは縄文時代から、夏に高温、多雨となる気候条件のもとで栽培が広まってきました。この「コメ騒動」で主食であるコメの大切さをあらためて感じた人も多かったのではないでしょうか。
コメの生産量は、気温、降水、台風などによって変わりますが、今後は気候変動による影響も考えておく必要があるでしょう。
ウェザーニュースでは、気象情報会社の立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、さまざまな情報をわかりやすく解説し、みなさんと一緒に地球の未来を考えていきます。まずは気候変動について知るところから、一緒に取り組んでいきましょう。
» 特集 ウェザーニュースと考える地球の未来
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(※2)8月15日現在。「良」が対平年比106%以上、「やや良」が105~102%、「平年並み」が101~99%、「やや不良」が98~95%に相当
今後も気候変動は進んでいくと予測されていますが、日本のコメ生産はどうなっていくのでしょうか。
「温暖化条件でのコメ生産という観点から、生産者、行政、研究機関の連携のもとで影響評価と適応効果に関する知見を共有し、地域の実情に応じた最適な適応技術の導入を図ることが必要でしょう。
また、異常気象の影響に迅速に対応するため、気象予報や衛星リモートセンシング技術を活用した栽培支援システムを活用することで、即時取得できる気象情報に基づいた適切な栽培管理や障害回避のための対策を講じることが可能になると考えています」(石郷岡さん)
コメは縄文時代から、夏に高温、多雨となる気候条件のもとで栽培が広まってきました。この「コメ騒動」で主食であるコメの大切さをあらためて感じた人も多かったのではないでしょうか。
コメの生産量は、気温、降水、台風などによって変わりますが、今後は気候変動による影響も考えておく必要があるでしょう。
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(※2)8月15日現在。「良」が対平年比106%以上、「やや良」が105~102%、「平年並み」が101~99%、「やや不良」が98~95%に相当