気象リスクが企業の労働生産性に与える損失

2026-04-16 13:56 ウェザーニュース

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近年の気候変動により、猛暑・強風・熱帯夜といった現象が増加し、屋外作業や物流・製造現場の労働生産性を低下させています。こうした影響は「プレゼンティーズム」(出勤しているが体調不良等でパフォーマンスが低下する状態)として現れ、企業にとって見えにくい経済的損失となっています。

本記事では、学術論文をもとに、東京・大阪を対象として2023年〜2025年における気象主要3要因(熱ストレス・強風・熱帯夜)による労働生産性損失時間を試算しました。

出勤しているのに、働けていないープレゼンティーズムという見えないコスト

気象リスクによる生産性低下は、欠勤のように表面化しにくく、プレゼンティーズムとして蓄積していきます。

例えば、高温環境下での作業は、重篤な症状に至らなくても判断力や作業効率を着実に低下させます。さらに屋外では強風も大きな負荷となります。風の圧力は風速の2乗に比例するため、わずかな風の強まりでも姿勢維持に必要なエネルギーは大きく増加します。その結果、無意識のうちに本来の作業へ割ける集中力や体力が削がれていきます。

また、影響は勤務時間内にとどまりません。熱帯夜による睡眠の質の低下は翌日のパフォーマンスに影響し、花粉や気圧の変化に伴う不調は継続的に集中力を妨げます。これらは個人の努力だけで解決できるものではなく、積み重なることで企業全体の損失につながる可能性があります。

天候による労働生産性低下の実態

ウェザーニューズでは、WBGT(暑さ指数)とILOの生産性低下曲線を用いて、東京と大阪における2023〜2025年の熱ストレスによる損失時間を試算しました。作業強度は、製造ラインや物流現場を想定した300Wを基準としています。

その結果、東京では3年間の平均損失時間が約272時間となり、8時間労働換算で年間約34営業日分の労働力が熱ストレスの影響を受けている計算になります。大阪ではさらに影響が大きく、平均約317時間、年間約40営業日分に相当します。
複数の要因による労働生産性低下
そのほかに想定される要因についても試算を行いました。例えば、熱帯夜による睡眠負債は、東京では一人当たり年間平均12時間、大阪では20時間の影響が見込まれます。また風の影響については、東京で年間平均12時間、大阪で27時間と試算されました。

これらの影響により、朝の時点ですでに数%のパフォーマンス低下を抱えたまま業務を開始し、さらに午後の環境条件によって効率が大きく低下する可能性があります。一つひとつの影響は小さく見えるかもしれませんが、複数の要因が重なり合うことで、重層的かつ相乗的にパフォーマンスへ悪影響を及ぼすことが懸念されます。

事業インパクトの試算

これらの損失を、従業員100名・時給2,500円で試算すると、影響の大きさがより具体的に見えてきます。3年平均では、東京で約7,404万円、大阪では約9,092万円規模の生産性損失となります。

さらに、猛暑の影響が大きかった2023年単年では、東京で約8,474万円、大阪では約1億173万円に達しました。特に大阪では、100名規模の企業において年間1億円規模の機会損失が発生していた可能性があり、気象リスクが経営に与える影響の大きさがうかがえます。

対策のカギは予測を活用した気象リスク管理

従来の対策である水分補給や休憩の徹底に加え、「いつ・どの作業を行うか」を調整することも有効です。

WBGT予測を活用すれば時間帯ごとのリスクを事前に把握でき、リスクの高い時間帯は屋内や軽作業へ、比較的低い時間帯に屋外作業を配置するなど、「作業の順番と配置」を見直すことで負荷を分散できます。

1日の作業時間のうち午後ピーク時間帯(約1.6時間=労働時間の約20%)の作業強度を最適化した場合の効果を、3年間平均ベースで試算しました。300W(製造ラインや物流現場での通常作業)から200W(事務・検品・軽い運搬など)へシフトした場合、削減効果は東京で約23.3時間(約5.8万円/人・年)、大阪で約27.9時間(約7.0万円/人・年)となります。
さらに、400W(重量物運搬や屋外での高負荷作業)の作業を200W相当へ分散した場合には、東京で約37.1時間(約9.3万円/人・年)、大阪で約44.6時間(約11.2万円/人・年)の削減効果が見込まれます。

こうした考え方は現場作業に限らず、テレワークやフレックス制度の活用にも応用できます。例えば、気象条件に応じて出社時間を前倒し・後ろ倒ししたり、高リスク日は在宅勤務へ切り替えたりすることで、従業員の負担軽減と生産性維持の両立が期待できます。

従業員の安全と「ウェルビーイング」を両立させる新たな仕組み

気象リスク管理は、台風などの災害対策だけではなく、従業員の安全で快適な職場づくりにつながり、エンゲージメント向上や離職防止、健康経営・ESG経営の実践にも寄与します。

「ウェザーニュース for business」は、防災を軸に全社員を対象とした安否確認機能を備え、災害時の迅速な対応をサポートしますが、日常的にもその価値を発揮します。例えば、猛暑や花粉などの予測に基づく注意喚起や、気象状況に応じたテレワークの推奨により、従業員の体調管理を組織的に支援し、プレゼンティーズムの改善に貢献します。さらに、強風や熱中症リスクの高い時間帯を把握することで、現場の安全確保と業務効率化にもつながります。防災対策を日常の働きやすさと生産性向上へとつなげる手段として、ぜひご活用をご検討ください。
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本記事の試算は、参考文献および複数の前提条件に基づく参考値です。
風速による低下率:0〜5 m/s: 0% / 5〜10 m/s: 20% / 10〜15 m/s: 65% / 15 m/s以上: 100%
熱帯夜による低下率(前夜の最低気温):25〜27.9°C: 3.2%低下 / 28〜29.9°C: 6.3%低下 / 30.0°C以上: 12.7%低下

参考文献:
国際労働機関(ILO)(2019)『Working on a warmer planet: The impact of heat stress on labour productivity and decent work』
高井佑旗ほか(2020)「睡眠の経済分析」大阪経済大学 岡島成治・森本敦志研究会
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