気候変動問題の専門家・江守正多さんが気になった、今年の温暖化関連トピックス

2025-12-28 05:10 ウェザーニュース

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「地球温暖化」「気候変動」という言葉は、今では老若男女の多くが知る言葉になりました。誰にとっても身近な問題になったためといえそうですが、とりわけ今年(2025年)はこれらの言葉を実感として受け止めた人が多かったのではないでしょうか。

今年の温暖化関連ニュースを4つ取り上げ、気候変動問題の専門家である江守正多さん(東京大学 未来ビジョン研究センター教授)の監修のもと振り返ってみましょう。

【1】地球温暖化の影響もあった「2025年の猛暑」

今年の夏は非常に暑い日が多かったですね。それはいろいろな記録が更新されたことでもわかります。

8月5日に群馬県伊勢崎市で最高気温41.8℃を記録したほか、歴代最高気温ランキング20に入る記録を次々に更新しました。この日は14地点で40℃を観測し、同じ日に40℃を観測した地点数としては統計史上最多になりました。

「北海道でも40℃近い気温が記録されました。エアコン設備の少ない地域ですから、住民の皆さんはなおさら大変な思いをされたでしょう」(江守さん)
日本の過去の気温を見ると、1933年に山形市で観測された40.8℃が、長い間、日本の最高気温でした。この記録は2007年に岐阜県多治見市と埼玉県熊谷市で40.9℃を観測するまで、74年間も破られませんでした。

「2007年以降は、40.9℃(2007年)→41.0℃(2013年)→41.1℃(2018年)と、5〜7年に0.1℃ペースで更新されていましたが、今年は一気に0.7℃も更新されました。これは約35年分も先を行くペースで更新されたことを意味します。
気温は年によって気圧のパターンの特徴が異なるため、年ごとに不規則に変わります。しかし、長期的傾向として捉えても、上昇してきていることは明らかです。

去年、今年と続く酷暑は、ベースに地球温暖化があり、そこに高温をもたらす気圧や海水温のパターンが重なったことから起こりました。本来なら、ある程度の“暑い夏”ですんだはずの現象が、温暖化により“記録的な酷暑”になったのです。こういったことが世界中で起きています。

この異常な暑さの背景には、人間活動に起因する温室効果ガスの排出があります。そのことが地球温暖化をもたらしています」(江守さん)

【2】進む「季節感のズレ」

気象庁の用語では、9月から11月を「秋」と呼んでいます。二十四節気では、8月7日ごろが立秋で、ここから秋が始まります。

しかし、とりわけ近年は、8月上旬を「秋」と感じる人は北海道でも少ないでしょう。

それどころか、ウェザーニュースが今年9月に実施したアンケートの結果によると、「近年の9月の体感は夏」と答えた人が93%もいて、気象庁が呼ぶ「秋」と実感が合わなくなりつつあるともいえます。
「温暖化によって、日本の夏の平均気温は、変動を繰り返しながら上昇しています。

今年は特に上振れした状況だったものの、長期的に見ても100年あたり1.38℃の割合で上昇しています」(江守さん)
日本には四季があるといわれますが、近年は春と秋がなくなって『二季』になったんじゃないか、という声も聞かれます。

そうした実感を受けてか、今年の「現代用語の基礎知識選 2025T&D保険グループ新語・流行語大賞」の10語の一つに「二季」が選ばれました。

「季節感が変わってきているという実感を多くの人が持っているのだと思います。『二季』は、たった2音でそのことを端的に表す、すごいキーワードです。

科学的にいえば、季節をどう定義するかにもよりますが、この先も春と秋がなくなってしまうということはありません。

しかし、平均気温が上昇すれば、今までよりも、春は早く訪れ、夏は長くなり、秋は遅く訪れ、冬は短くなります。それに伴って、桜の開花が早まったり、紅葉が遅れたりすることなどが起こるでしょう」(江守さん)

【3】スポーツ界も地球温暖化対策に動き出している

地球温暖化はスポーツの場にも、深刻な影響を及ぼしています。

これまでにない高気温、局地的な豪雨や雷、想定を超える強さの台風の発生などによって、スポーツ大会が中止に追い込まれたり、延期になったり、時間短縮を余儀なくされたりしています。
学校の体育も、夏は中止になったり制限されたりすることが増えています。小学校の運動会がこれまでの春から秋、あるいは晩秋に変更されるケースも増えています。熱中症対策などを考えてのことです。

こうした事態を受けて、スポーツ界にも動きが見られます。
たとえば、プロ野球界は2008年から「NPB Green Baseball Project(グリーン・ベースボール・プロジェクト)」を始めています。これはプロ野球界が実施している温暖化防止活動で、今年は「2025年グリーンリストバンド」を販売し、売上金の一部を緑化活動に役立てるなどしています。

また、サッカーのJリーグは2026-27シーズンから、これまでの春開幕・秋閉幕の「春秋制」から、欧州主要リーグと同じ「秋春制」へ移行します。目的の一つは、近年の地球温暖化による夏の猛暑を避けることです。
ほかにも、「気候アクション」と銘打って、地球温暖化対策に取り組んでいます。

Jリーグ執行役員でサステナビリティ領域担当の辻井隆行さんに加えて、それぞれ元プロサッカー選手でJリーグ特任理事の中村憲剛さん、内田篤人さん、小野伸二さんたちが中心になり、気候変動問題や環境問題の啓発活動をしています。

江守さんはこれらの人たちとも気候変動問題で語り合ったことがあります。

「Jリーグのレジェンドの方々に気候変動の話を聞いていただいたのは、ぼくにとっても得難い経験でした。

サッカーも暑さなど気候変動の影響を直接受けているので、彼らも実感があるのでしょうが、ぼくの話をまっすぐ受け止めていただいたと思います。

Jリーグも温室効果ガス排出削減などの気候変動対策に組織的に取り組み始めています。彼らの思いがサポーターの皆さんにも伝わることによって、大きな動きにつながることを期待しています」(江守さん)

【4】世界の新設の発電設備は再生可能エネルギーが多くなっている

ドイツ北東部にあるジーツィング郊外の畑に建設された太陽光発電所(2025年11月3日撮影、写真/AFP=時事)
石炭・石油・天然ガスを燃やす火力発電は大量の二酸化炭素を排出し、地球温暖化の要因の一つになっています。

そのため、太陽光、風力、水力、地熱などの二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーによる発電へ転換していく必要があります。

その点、世界的に見ると、好ましい状況が見られます。
「世界では、近年、発電所を新しく造るときは、ほとんど再生可能エネルギーによる電源になっています。今年発表されたデータによると、特に2024年は顕著で、2024年に新設された設備容量の9割以上が再生可能エネルギーによるものでした。

世界の再生可能エネルギーを牽引しているのは中国です。中国は自国の新設電源の多くを再生可能エネルギーで賄うだけでなく、再生可能エネルギーの設備を大量に生産し、発展途上国を含む世界各国に輸出しています。

電源設備の中国依存が強まっていくという問題は別に考える必要がありますが、世界で再生可能エネルギーの活用が増えていることはよい傾向です」(江守さん)
今年は地球温暖化対策の国際ルールである「パリ協定」の採択から10年の節目の年でもあります(パリ協定は2015年10月に採択)。

このことに関し、江守さんは「日本を含め世界各国の温暖化対策は十分ではありませんが、それでも、この10年で温暖化を止めなくてはいけないという認識は世界的にかなり広まってきました。来年、2026年以降は、この認識をいっそう広めていくことが非常に大切です」と話します。
温暖化の影響は私たちの生活にも大きな変化をもたらす可能性があります。ウェザーニュースでは、気象情報会社の立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、さまざまな情報をわかりやすく解説し、みなさんと一緒に地球の未来を考えていきます。まずは気候変動について知るところから、一緒に取り組んでいきましょう。
特集 ウェザーニュースと考える地球の未来
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監修/江守正多 東京大学 未来ビジョン研究センター 教授(@seitaemori)
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