近年、クマ被害が急増している理由 気候変動による影響は?

2025-11-09 05:02 ウェザーニュース

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今秋、連日のようにクマの出没情報、被害が報道されています。環境省によると、令和7年のクマによる死亡事故は11月4日現在の速報値で12件にもなりました。今、日本のクマに何が起きているのでしょうか。

「今年の出没・被害件数は近年でも特に多い。最大の要因は個体数の増加と分布域の拡大です」と、森林総合研究所東北支所動物生態遺伝担当チーム長・大西尚樹さんは説明します。詳しく教えていただきましょう。

日本列島でクマが増加?

環境省によると、クマ類は34都道府県に恒常的に分布しており、四国を除いたすべて地域で分布が拡大しているといいます。クマ類とは北海道に生息するヒグマと、本州・四国に生息するツキノワグマです。

特に今年はクマの出没が多く、東京都西部地域でも目撃情報が寄せられるなどしています。大西さんによると「クマが増えた、というよりも分布域が回復してきているというのが正しい」といいます。

「実はニホンザルやニホンジカ、イノシシなど、ほかの大型動物の分布域も過去40年間で急速に拡大しています。ツキノワグマの分布域の広がりには共通の原因があります」(大西さん)

クマは“異常”出没しているのか?

本州と四国のツキノワグマの出没情報の増加には、中・長期的な要因と直近の要因があるといいます。

「明治時代以降の社会の大きな変化によって、クマは数を減らしました。これはニホンザルやニホンジカ、イノシシなども同様で、東北地方ではニホンザルやニホンジカが絶滅した地域もあります。

しかし、狩猟の自粛や駆除の禁止など保護政策が取られたことから、1990年代にクマの数は再び増加しはじめました。その保護していた間に狩猟者が減少し、結果としてクマの駆除が追いつかない状況になってしまいました」(大西さん)
変化しているのは狩猟者数だけではありません。

「人の生活や活動範囲が、かつてとは変わったことです。昔は、人里とクマなどが生息する奥山の間には、里山がありました。山際の柿の木や栗の木は貴重な資源であり、里山はよく整備されていました。

農業が人力に頼ったものだったため、山に近い畑にも人の出入りが多くあり、犬も放し飼いにされていました。その時代には、里山が人とクマのエリアの緩衝帯(かんしょうたい)となっていたのです。
ところが農業の機械化が進むことで畑に出る人は減りました。また、高齢化や過疎化が進むことで耕作放棄地や空き家が増え、里山に人の手が入らなくなってきました。クマにとってはエサとなる柿や栗があり藪に隠れられる、安心できる場所となってしまった。

動物の生息するエリアと人間の生活するエリアが近接し、人里にクマが少しはみ出してくるという状況が生まれました」(大西さん)

ドングリの豊凶や温暖化も影響?

では、なぜクマが人のエリアに“はみ出して”くるのでしょうか。鍵となるのがドングリの実りです。
「図のように、ブナやミズナラの実、つまりドングリが豊作の年はクマが出没することが少なく、凶作の年には出没数が増えています。

クマは秋にエサをたくさん食べて体に脂肪を蓄えます。秋のエサのなかでもエネルギー摂取量が高いのがドングリです。

ドングリが凶作の年には、クマはエサを求めて活動範囲が広くなり、人のエリアに出没することが増えます」(大西さん)
ドングリの豊凶はクマの個体数にも影響します。

「母グマは冬眠中に子グマを産み、その後1年半ほど一緒に過ごして次の夏に親離れします。ドングリが凶作の年にはエサが足りないため子グマを産みません。豊作の翌年の凶作の年に、出没数が増えるのはこのためです」(大西さん)

その年の気候などによってドングリの実り方は変わりますが、最近は地球温暖化によるドングリの豊凶の周期の変化がクマに影響しているという研究もあります。

「温暖化によりドングリの豊作と凶作の間隔が短くなり、ドングリの全体としての量が増えています。そのため、クマの出産間隔が短くなり、クマが増えやすくなっているというものです。

温暖化そのものが直接的にクマの個体数を増やしているわけではありませんが、近年のクマ増加の一因として指摘されています」(大西さん)

今年の急激な出没増は?

なぜ、今年これほどまでにクマの出没件数が増えているのでしょうか。

「⻑期的な保護政策や狩猟が少なくなったことで人への恐れが減り、奥山だけでなく中山間地・住宅地周辺までクマの生息域が広がっています。さらに、過疎化や高齢化にともなって耕作放棄地や空き家が増加し、人の管理が及ばない空間が拡大したことで、人とクマの距離が急速に縮まっています。

実際に2016年頃から、本州全域で捕獲頭数は新しいフェーズに入ったかのような増え方をしています。
加えて、今年はブナなどのドングリ類の凶作が広範囲で起きており、山中のエサ不足が出没増加を後押ししています。これら複数の要因が重なり、クマが人里に入り込む事例が頻発していると考えます。

なお、メガソーラーを不安視する声もあるようですが、ほぼ影響はありません。

メガソーラーは多くの場合、耕作放棄地や放棄された酪農地など、すでに利用されていた場所に設置されています。森林を伐採して造成することは滅多になく、仮に伐採されたとしても、半径数kmの行動圏をもつクマにとってその生活圏の一部が失われたにすぎません」(大西さん)

クマとの将来をどう考えるか?

今後は、クマが出るのが当たり前という時代に入るといいます。

「すでに東北では市街地での出没が常態化しており、東京都⻄部など都市近郊にも波及しています。今後は、全国的に同様の傾向が広がるでしょう」(大西さん)

有効な対策はあるのでしょうか。

「まず個体数の調整が不可欠です。人のエリアに現れた個体をその都度排除するだけでは限界があり、広域的に生息密度を下げる施策が必要です。

併せて、ガバメントハンター(自治体職員による専門駆除班)の常設や、地域の環境管理を担う人材の育成が求められます。研究面では、個体群動態や遺伝的多様性を⻑期的にモニタリングし、科学的根拠に基づいた管理基準を構築していくことが重要です」(大西さん)

クマ被害の急増は一つの要因ではなく、高齢化などによる人間社会や土地利用の変化、地球温暖化などの自然環境の変化など、様々な要因が複雑に絡み合って生じていて、私たちを取り巻く環境の変化がさまざまな形で進んでいることを改めて感じます。
ウェザーニュースでは、気象情報会社の立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、さまざまな情報をわかりやすく解説し、みなさんと一緒に地球の未来を考えていきます。まずは気候変動について知るところから、一緒に取り組んでいきましょう。


参考資料
大西尚樹「なぜクマの出没が増えている? 温暖化でますます増える!?」、環境省「クマ類の生息状況、被害状況等について」
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