世界初の研究成果、地球温暖化は紅葉の「時期」だけでなく「色づき」にも影響!?

2025-10-18 05:02 ウェザーニュース

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昨年と今年の夏の暑さはここ何年かのなかでも特に強烈だったのではないでしょうか。夏だけでなく、秋が短くなったり春先から夏のような暑さになったりと、季節感がゆらいでいるように感じられます。

その年の気温は紅葉に影響を与えるものですが、温暖化によって長期的な変化が起きつつあるといいます。私たちがこれまで親しんできた秋の景観への影響について、気候変動適応センター気候変動影響観測研究室主任研究員・小出大さんに教えていただきます。
全国の紅葉見頃情報・予想

秋の紅葉に起きている変化?

日本の年平均気温は1898〜2024年は100年当たり1.40℃の割合で上昇していて、特に1990年代以降は、記録的な高温となる年がよくみられます。気温上昇の影響を受けているとされるのが、カエデの紅葉です。
気象庁が行っている全国51地点の観測によると、1953年以降の紅葉・黄葉日は年ごとに変化があるものの、10年当たり3.1日程度遅くなっています。

紅葉とは、モミジに代表されるような落葉広葉樹が、葉が落ちる前に色が変わる現象です。

「これらの植物では、春に葉のなかで緑色と黄色の色素が合成されます。そして、秋になると緑色の色素は分解され、また赤色の色素が合成されることで葉の色に現れるのが紅葉です。

近年は温暖化の影響から全国的に紅葉の遅れが顕著になっています。例えば紅葉の名所である京都では、これまで見頃のピークは主に『11月』でしたが、『12月』にずれ込むようになってきました。

また、日本の高山帯では驚いたことに紅葉がみられない年も出現するなどしています。高山帯の紅葉は重要な観光資源ともなっています。そのため紅葉の色づきの強さと気候条件との関係を解明する必要があると考えました」(小出さん)

温暖化は時期だけでなく色づきにも影響?

小出さんらの研究チームは、紅葉の色づきについて詳しく調べるため、大雪山旭岳、北アルプス室堂、中央アルプス極楽平の3ヵ所の高山帯における定点カメラで、高山植生の色の変化を1時間おきに撮影されたデータを使って解析を行いました。

「得られた画像データと、現地の気象観測データなどから平均気温、最高・最低気温、降水量、日照時間、全天日射量の月別値、最深積雪深などのデータを使って統計モデルを作り、年による紅葉の色づきの強さにどの要因が関わっているのか解析しました」(小出さん)
「その結果、春先に葉が広がり始める日である『展葉日(てんようび)』が紅葉の色づきの強さに大きく影響することがわかりました。雪解けが遅く春の展葉日が遅い年ほど紅葉の色づきが強く、鮮やかな紅葉になるのです」(小出さん)

なぜ、展葉日が遅いと紅葉が鮮やかになるのでしょうか。

「私たちは、葉の寿命の影響が関係しているのではないかと考えています。

冬が暖かくて雪解けが早く、展葉日が早い年では、秋に紅葉する時期には冬の寒い年よりも古くなった葉になっています。年老いた葉っぱでは色素の合成や分解がスムーズに進まないため、紅葉の色づきが悪くなる可能性が考えられます」(小出さん)

温暖化で日本で紅葉の将来に不安?

温暖化はますます進んでしまうと予測されています。将来、秋の美しい紅葉が見られなくなる可能性もあるのでしょうか。
「同じモデルを使って将来の紅葉の色づきの強さを予測したところ、温暖化に伴う展葉日の早まりによって、全体に色づきが弱くなっていく傾向が明らかになりました。特に、温暖な低標高域で色づきの減少が顕著でした。

将来予測について、色づきの減少程度は気候シナリオや時期によって大きく異なりましたが、最も温暖化が顕著なシナリオ(RCP8.5/ 21世紀末の世界平均気温が工業化以前と比べて4℃上昇する可能性が高いシナリオ)では、全体に15%程度の色づきの減少が多くの地域で予測されました」(小出さん)
中央アルプス極楽平における色づきの良い年と悪い年における実際の景観とその将来変化予測(VARI:15%減少)に基づく合成画像 ※出典/「温暖化による春の早まりは高山帯の紅葉の色づきを弱くする ―定点カメラ画像データに基づく将来予測―」
予測される色づきの変化(VARI値)を、極楽平における景観写真に合成した画像では、紅葉のコントラストが抑えられています。

「紅葉の色づきは長期的な気候変動より、“暑い年”か“寒い年”なのかなど年ごとの気温変動による影響が強く現れます。色づきの悪い年では、紅葉景観の見栄えはすでに大きく低下しています。しかし、色づきのよい年であっても、温暖化の影響により、景観の見栄えや鮮やかさが低下してしまうことが示唆されました。

これまでは、主にどの時期に紅葉が起きるのかを対象として、気温や日射量などの環境条件との関連が解析されてきました。

今回色づきの強さについて明らかにできたのは学術的にも新たな視点を開いたものであり、生態系における変化の連鎖やそれに伴う人間の経済や文化の側面への影響を切り開くきっかけになると考えています。

温暖化が進むなか、今後は土壌分解系や生態系の生産性等への影響や、紅葉狩りなどの観光や文化的活動への影響、さらにより低地における紅葉の色づきメカニズムとの比較など、さらなる紅葉メカニズムの解明が必要と考えています」(小出さん)

気候変動の影響は様々なところで様々な形で現れているのだと感じます。自然の営みの変化を見逃さないようにしたいですね。

ウェザーニュースでは、気象情報会社の立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、さまざまな情報をわかりやすく解説し、みなさんと一緒に地球の未来を考えていきます。まずは気候変動について知るところから、一緒に取り組んでいきましょう。
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参考資料
国⽴環境研究所、森林研究・整備機構森林総合研究所・信州⼤学「温暖化による春の早まりは高山帯の紅葉の色づきを弱くする ―定点カメラ画像データに基づく将来予測―」文部科学省及び気象庁「日本の気候変動 2025 — 大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書 —」
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