熱中症重症度の新分類、最重症群「IV度」を追加 医療現場ではどう変わった?

2025-09-30 05:10 ウェザーニュース

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長かった猛暑もようやく落ち着いて秋の気配が漂い始めましたが、今夏も熱中症による救急搬送者は約9万9573人、死者も100人を超え、過去最多を更新しています(9月21日時点)。
日本救急医学会は増える一方の熱中症患者、特に重症者への適切な治療に対応するため、昨年9月に「熱中症診療ガイドライン2015」を9年ぶりに改定。重症度をⅠ~Ⅲ度の3段階から4段階として、新たに最重症のⅣ度を設定しました。

今夏が初の本格的な適用となった「熱中症診療ガイドライン2024」(以降「ガイドライン2024」と表記)の内容や改定による“患者側”への影響、医療現場の対応にどんな変化がなされたのかなどについて、日本大学医学部救命救急センター科長の山口順子先生に解説して頂きました。

新たに最重症のⅣ度を設定

「ガイドライン2015」が「2024」に改定されたのは、どんな背景・理由からだったのでしょうか。

「地球温暖化が進む近年は熱中症への関心が高まり、専門家からも多くの論文が発表されてきました。そこで、改めて情報を整理したうえで新たな治療指針を作成するべきだという論調が高まり、『ガイドライン2024』が策定されたようです」(山口先生)
新たな重症度「Ⅳ度」とは、どのような基準なのでしょうか。

「Ⅳ度は、これまでⅢ度としてきた重症者群のうち、『さらに注意を要する』より重い症状の患者を『最重症群』に分化したものです。

重症度Ⅰ度はめまい、立ちくらみ、生あくび、大量の発汗、筋肉痛、筋肉の硬直(こむら返り)がみられ、意識障害を認めない症状です。

Ⅱ度は頭痛、嘔吐(おうと)、倦怠感・虚脱感・ぼんやりとした意識状態(JCS≦1/※1)など、集中力や判断力の低下がみられる症状です。Ⅰ度とⅡ度の基準は『2015』から変わっていません」(山口先生)
「『2024』におけるⅢ度は『2015』同様にⅠ~Ⅱ度に加えて、【時間・場所・人の違いがわからないほどの意識障害(JCS≧2)や、歩行のふらつき・ろれつが回らないなどの小脳症状、けいれん発作】【入院経過観察や入院加療が必要な程度の肝・腎障害】【血液凝固異常】の3つの症状のいずれかを含む状態となります。

血液凝固異常は、『播種性(はしゅせい)血管内凝固』を指します。基礎疾患(今回の記事では熱中症を指す)の影響で、全身の血管に小さな血液のかたまり(微小血栓)が無数に生じる病態です。細い血管が詰まるため、血流が妨げられて、酸素や栄養などが組織に届かなくなり、腎臓や肺など重要な臓器の障害を起こし、生命に重大な危険をもたらします。
新たに加わったⅣ度はそのうち、『深部体温が40.0℃以上、かつ意思疎通が難しくなった状態(GSC≦8/※2)』を示した場合とされました。

深部体温とは脳や臓器など体の内部の温度です。深部体温を測定せずに、より迅速に重症度を判定するために、『表面体温が40.0℃以上、かつGSC≦8』の症状を『qⅣ度』とする指標も設けられました。

qⅣ度のうち、深部体温が39.9℃以下ならⅢ度、40.0℃以上ならⅣ度ということになります」(山口先生)
※1/JCS=「Japan Coma Scale(ジャパン・コーマ・スケール)」の略で、刺激に対する反応の有無で意識レベルを判定する指標。意識清明な状態を0として数字が大きくなるほど重度の意識障害であることを示す

※2/GSC=「Glasgow Coma Scale(グラスゴー・コーマ・スケール)」の略で、開眼機能・言語・運動反応を総合した意識レベルの評価指標。数値が少ないほど重篤な症状(最軽症は15点、最重症は3点、8点以下は緊急度が高い)

アクティブ・クーリングとは? パッシブ・クーリングとの違い

Ⅰ~Ⅳ度それぞれの治療は、どのようになされるのでしょうか。

「まず、パッシブ・クーリング(Passive Cooling)とアクティブ・クーリング(Active Cooling)という用語を理解しておいてください。『ガイドライン2024』ではパッシブ・クーリングを『クーラーや日陰の涼しい部屋で休憩すること』、アクティブ・クーリングを『何らかの方法で、熱中症患者の身体を冷却すること』などとしています。

『2015』では従来からのアクティブ・クーリングを、冷水浸水・アイスプールや蒸散冷却、局所冷却、胃洗浄などと示していましたが、これらが新たな治療法を含めて一括されたことになります。
熱中症の治療はⅠ度の場合、通常は現場で対応可能とされてパッシブ・クーリングを行い、口から水分と塩分・カルシウムなど電解質を補給。不十分ならアクティブ・クーリングに移行します。Ⅱ度は医療機関での診察が必要で、Ⅰ度同様の対応と、口からの摂取が難しい時は点滴で水分・電解質の補給を行います。

Ⅲ度では入院治療のうえ、アクティブ・クーリングを含めた集中的な治療。Ⅳ度ではアクティブ・クーリングを含めた『早急な』集中的な治療を行うとされました」(山口先生)

熱中症治療の現場で変わったこと

Ⅳ度の導入で、私たち一般人の熱中症対策に変化は生じるものなのでしょうか。

「『ガイドライン』はあくまで医療関係者向けの指針で、重症度Ⅰ~Ⅳは医師が判断するものですので、一般の方々の対応にことさらの変化を求めるものではありません。

これまでどおりに、積極的な水分・塩分の摂取や、体を冷やす、適度に休む、といった予防や対策を続けてください。もちろん、意識障害や自力で水分が摂れないなどの異常がある場合は、速やかに医療機関を受診してください」(山口先生)
医療現場にはどのような変化があったのでしょうか。

「『ガイドライン2024』では、現時点における熱中症治療において、Ⅲ度の中でも特に死亡率の高いケースを明記するなど、何が分かっていて何が分かっていないのかが示されました。今後は、さらに迅速で積極的な治療への介入や新たな治療戦略の策定、臨床試験の進展なども期待されています」(山口先生)

日々の最高気温は低下傾向にあるものの、熱中症の発症に大きな影響を与える昼夜の気温差が大きな気象状況は続いています。『ガイドライン2024』の概要を理解したうえで、これまで通り熱中症への予防策を継続していきましょう。
熱中症ハンドブック 予防法や対策・処置など
熱中症情報 暑さ指数(WBGT)を確認

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