地球温暖化のウソ? ホント?(22)
海の森「ブルーカーボン」が二酸化炭素を吸収する!?

2025-09-21 05:10 ウェザーニュース

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地球温暖化の主な原因である二酸化炭素の削減に役立つといわれる「ブルーカーボン」。

一方、「グリーンカーボン」という言葉もあります。

「青のカーボン」と「緑のカーボン」。これらと地球温暖化とはどのような関係があるのか、気候変動問題の専門家である江守正多さん(東京大学 未来ビジョン研究センター教授)の監修のもと見ていきましょう。

Q1/「ブルーカーボン」って、なに? 「グリーンカーボン」との違いは?

◆A/ブルーカーボンは大気中の二酸化炭素を吸収する方法として、期待が高まっています。

ブルーカーボンやグリーンカーボンの「カーボン」は「炭素」のことです。

地球温暖化の主な原因は二酸化炭素です。その二酸化炭素を吸収することがブルーカーボンおよびグリーンカーボンです。吸収された二酸化炭素自体をブルーカーボンやグリーンカーボンということもあります。
海草の一種であるアマモ。光合成によって二酸化炭素を吸収する(提供/周南市水産振興課)
ブルーカーボンとグリーンカーボンの違いは、二酸化炭素を吸収して取り込む場所の違いです。

ブルーカーボンは、海藻や海草、マングローブなどの植物が海中や海辺の二酸化炭素を吸収することです。海藻や海草、マングローブなどの植物がたくさんあるところを指して「海の森」ということもあります。「ブルー」は海の色にちなんで付けられました。

一方、グリーンカーボンは草や木などの陸の植物が二酸化炭素を吸収することです。「グリーン」は森林や草原などの陸上の植物の緑色にちなんでいます。

二酸化炭素を吸収しているのは草木などの陸の植物。そう思う人は多そうですが、海の植物も同様の役割を担ってくれています。これがブルーカーボンです。
ブルーカーボンについて、江守さんは次のように話します。

「水中では酸素に触れないために有機炭素は分解されにくく、単位面積あたりの炭素蓄積のポテンシャルが陸上の森林よりも高いという特長があります。そうしたことがあり、ブルーカーボンは大気中の二酸化炭素を吸収する方法として、近年、期待が高まっています」

図のように、1年間あたり(2014〜2023年の10年間平均)の大気中には97億tの炭素が人間活動による化石燃料の燃焼で大気中に排出されていますが、主に森林などの植物によって陸域では21億t、海域では29億tもの炭素を吸収しています。

Q2/日本各地でブルーカーボンの取り組みが行われているって、本当?

◆A/本当です。山口県や岩手県の海岸などで行われ、成果を上げています。

日本では、すでにさまざまなブルーカーボンを活用した取り組みが進められています。

たとえば、岩手県洋野町(ひろのちょう)の海岸には、ウニなどを育てるために人工的に掘った溝の増殖溝(ぞうしょくこう)があります。その増殖溝で藻場が創出され、保全されています。
山口県周南市にある大島干潟(提供/周南市水産振興課)
山口県の徳山下松港(とくやまくだまつこう)では、浚渫(しゅんせつ/河川や港湾などの水底をさらって土砂を取り除くこと)で出た土を使って大島干潟という人工干潟を造成し、藻場が育ちました。藻場は海底にコンブやアマモなどの藻が繁茂している場所です。

また、セブン-イレブン記念財団は2011年度から、アマモを増やして東京湾を豊かな海に再生する活動に取り組んでいます。アマモは酸素を放出することで海水を浄化する働きを持つ海草です。

「これらはいずれも、ブルーカーボンのとてもよい事例だと思います。

ブルーカーボンやグリーンカーボンは『生態系の保全・再生・創出』を通して、二酸化炭素の吸収量を増加させ、気候変動対策に貢献する取り組みといわれますが、それだけでなく、ネイチャーポジティブに注目することも重要です。

ネイチャーポジティブは『自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させること』で、日本語では『自然再興』といいます。ブルーカーボンやグリーンカーボンはネイチャーポジティブにも大きく関係しています」(江守さん)

Q3/ブルーカーボンに関係する制度「Jブルークレジット」って、なに?

◆A/藻場の再生活動などで二酸化炭素の吸収量を計算して、登録する制度です。

Jブルークレジットは、藻場や干潟の再生活動などで実際に二酸化炭素がどのくらい大気から吸収されたかを計算して、その量をクレジット化して(証明書にして)登録する仕組みです。

Jブルークレジットのクレジットは企業や地方自治体などの団体が購入できて、自分たちの活動で排出した二酸化炭素の埋め合わせをすることができます。
また、クレジットは売買することもできて、その売上金は海の環境保全活動や子供たちの海洋教育などに活用されています。

「地域単位で見ると、地域活性化や生態系保全の取り組みの活動資金をクレジットを通して得られるのは、お金の流れの仕組みとしてよいと思います。

ただ、国全体で見ると、ブルーカーボンで吸収できる量はあまり多くないので、その規模感をうまく伝えながら振興するのがよいでしょう」(江守さん)

Q4/ブルーカーボンは地球温暖化に歯止めをかける切り札になるの?

◆A/ブルーカーボンだけで温暖化は止められませんが、複合的なメリットがあります。

「Q1でお話ししたように、大気中の二酸化炭素を吸収する方法としてブルーカーボンに期待が高まっていますが、これだけで十分なわけではありません。

実際には、人間がブルーカーボンを増やすためにアプローチできる沿岸域の面積は限られているし、増やした炭素がどれだけ固定され続けているか計測するのも難しいため、期待のしすぎには注意が必要です。

ですから、ブルーカーボンが地球温暖化に歯止めをかける切り札になるかと問われれば、その答えは『否』です。

地球温暖化を止めるための本丸はエネルギーシステムの転換です。つまり、化石燃料中心のエネルギーの仕組みを、再生可能エネルギーなどを活用して、二酸化炭素を出さない仕組みに切り替えることが最も大切です。
大島干潟(山口県周南市)に生息するアマモとメバルの稚魚(提供/周南市水産振興課)
ただし、もちろんブルーカーボンにはすばらしい点が多数あります。

二酸化炭素を吸収するだけではなく、生態系や水産業によいし、地域のコミュニティーで自然に触れ合う機会としてもよいなど、複合的なメリットがあります。それらのメリットに注目して取り組むことに意義があると思います」(江守さん)

ブルーカーボンは地球温暖化対策に有効ではありますが、ブルーカーボンだけで温暖化問題が解決できるわけではありません。

ブルーカーボンのよい点を理解して、促進していくことが大切といえるでしょう。
温暖化の影響は私たちの生活にも大きな変化をもたらす可能性があります。ウェザーニュースでは、気象情報会社の立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、さまざまな情報をわかりやすく解説し、みなさんと一緒に地球の未来を考えていきます。まずは気候変動について知るところから、一緒に取り組んでいきましょう。
特集 ウェザーニュースと考える地球の未来
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監修/江守正多 東京大学 未来ビジョン研究センター 教授(@seitaemori)
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