日本庭園や森の景色が変わる!? 温暖化がコケ(苔)に与える影響

2025-09-14 12:55 ウェザーニュース

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9月に入ってからも2日連続で35℃以上の猛暑が全国200地点となるなど、厳しい暑さが続いています。この暑さにより異変が起きつつあるのが、日本庭園に風情を添えるコケ(苔)だといいます。

長年コケの研究を続けている福井県立大学恐竜学部恐竜・地質学科教授の大石善隆先生は、「京都の庭園で状況をみていますが、今年は雨が少なく、暑い日が続いたことからコケの生育状況が例年より悪化している」と警鐘を鳴らします。

温暖化がこのまま進行すると、近い将来にコケが消えることも懸念されています。

日本の風景にあるコケ

庭園でもよく見る「スギゴケ」
コケの美しさは独特の生態によるところがあるといいます。

「コケは、植物の非常に古い特徴を残しています。地面や石に生えているように見えるのは、『仮根』で張りついているだけ。

根や体全体に水などを運ぶシステムをもたず、体の表面全体から水や栄養分を吸収しています。だからこそ、土のない木の幹や石の上でも生育できるのです」(大石先生)

森林や山など自然豊かなところだけでなく、身近な場所にもコケは見られます。

「都市部でも緑地や公園の樹幹はもちろん、ちょっとしゃがめば道端のアスファルトやコンクリートにもコケは見つけられます。

日本は湿潤な気候のために、世界でもコケが豊かな地域です。世界には約2万種のコケがあるといわれていますが、日本にはその約1割にあたる1800種ほどが生育しています」(大石先生)
別名「苔寺(こけでら)」と呼ばれる西芳寺(さいほうじ)をはじめ、祇王寺(ぎおうじ)、三千院(さんぜんいん)、東福寺(とうふくじ)など、美しい苔庭が多くある京都は、コケの種類も豊富です。

京都府自然環境保全課によると、日本全国に生育しているコケの約3割の560種が京都府で確認されています。中には絶滅のおそれのある希少な種もあるといいます。

ただ、近年懸念されるのが温暖化がコケに及ぼす影響です。

「コケは、気体の交換や水の吸収を体の表面から直接行うなど、複雑なシステムを持たず、非常に単純なつくりをしています。そのため、コケは環境にとても敏感な生物なのです。

温暖化やヒートアイランドによる気温の上昇による環境の変化で、乾燥に弱いコケが消えたり、苔庭の景観に影響が出ています」(大石先生)
京都の年間猛暑日日数は特に増加傾向にあります。2024年は54日を数え、それまでの記録を大きく上回りました。今年はさらにハイペースで、9月13日時点で昨年の記録を上回る59日に達しています。

「もし何も対策しなければ、より地球温暖化の影響は強くなり、30年後には京都のコケの緑は大きく失われてしまう恐れもあります」(大石先生)
環境の変化は暑さだけではありません。

「1960年代には年間に60回ほど発生していた霧の発生が、近年はほとんど見られなくなりました。

ヒートアイランドの影響で夜間から明け方も気温が下がりにくくなり、気温差が小さくなったことで霧の発生回数が減少したと考えられています。

霧の減少は、コケにとって一大事です。コケは体の表面から水分を吸収するため、朝露や霧は大切な給水源です。霧の減少は、コケへのダメージに直結します。

こうした環境の変化によって、京都は苔庭が維持されにくい環境になりつつあるのです」(大石先生)

温暖化はコケに影響するか?

以前、大石先生が京都市内の苔庭を調べたところ、気温が高くて湿度が低い市街地の庭園で、乾燥に弱いスギゴケの仲間が枯れるなどしていたといいます。

大石先生らの研究チームは、地球温暖化がコケに与える影響を調べるため、中央アルプス北部にある演習林で実験を行いました。

「地球温暖化の影響を受けやすい森林限界(森林を形成できなくなる限界線)で、人工的に加温処理を行った『温暖区』をつくり、亜高山帯から高山帯に分布するチシマシッポゴケと冷温帯から亜高山帯に分布するセイタカスギゴケやその他のコケを6年間観察しました。
対象区(人工的に加温していない)と比べて、温暖区ではセイタカスギゴケは増加し、チシマシッポゴケは大きく減少しました。温暖化が進むと、亜高山帯に分布するコケが広がり、高山帯に分布するコケは減っていくことが予想される結果となりました」(大石先生)
コケの変化は、そのほかの生き物にも影響が少なくないといいます。

「コケは森林生態系の中で、水や栄養分の循環に大きな役割を果たしています。

例えば、コケは雨や霧から直接水や栄養分を吸収できるために、土のない倒木の上などでも生育できます。コケの下に水や栄養分が供給されて菌類や細菌類が活発になり倒木の分解が進んだり、他の植物の種子の苗床のようになったりするのです。

実験から、温暖化により山岳のコケの組成が変化することが示されました。温暖化により森林でコケの種類に変化が生じれば、森林の生態系に影響が及ぶ可能性があるのです」(大石先生)

コケの変化がもたらすもの

今後ますます温暖化が進むと予想されています。私たちが親しんできた日本庭園や森のコケはどうなるのでしょうか。

「今後、温暖化やヒートアイランドの進行によって、コケの生育環境は悪化し、美しい苔庭を維持することはますます難しくなるでしょう。しかし、その背後にはさらに深い意味があります。
コケのように環境変化に敏感に反応する生物を『指標生物』といいます。指標生物は、環境を考える上でとても重要です。例えば、ヒートアイランドが進むと、コケはいち早く反応するなど、変化の初期段階から応答します。

こうした指標生物の変化のサインを見逃してしまうと、環境はさらに悪化し、やがて人間の生活にまで深刻な影響を及ぼすほどの変化へとつながりかねません。
そう考えると、コケの変化は『ささやかな警告』であるともいえます。 小さなコケの声に耳を傾けることは、未来の環境を守ることにつながっていくのでしょう」(大石先生)

温暖化の影響は私たちの生活にも大きな変化をもたらす可能性があります。ウェザーニュースでは、気象情報会社の立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、さまざまな情報をわかりやすく解説し、みなさんと一緒に地球の未来を考えていきます。まずは気候変動について知るところから、一緒に取り組んでいきましょう。
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参考資料
大石善隆他「コケの温暖化への応答:中緯度の森林限界における実験」、京都府府民環境部自然環境保全課「コケから考える未来へつなぐ京都の自然環境と文化」
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