五節句の最後「重陽の節句」は、なぜ「菊の節句」なの?

2025-09-09 05:10 ウェザーニュース

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今日9月9日は五節句の最後、重陽の節句。菊の節句とも称されます。

他の節句に比べてどこか印象が薄いのは、桃の節句(3月3日)の菱餅やひなあられ、端午の節句(5月5日)の柏餅やちまきなどのように、目立った「行事食」が思い浮かばないせいかもしれません。

秋の花々が各種咲き誇るなかで、なぜ菊が節句の名とされたのか、さらに知られざる9月9日の行事食などについて、歳時記×食文化研究所代表の北野智子さんに解説して頂きました。

最大の陽数「9」が重なる縁起のいい日

まず、重陽とはどういう意味の言葉なのでしょうか。

「古代中国では奇数を『陽数』として縁起のいい数としていました。中でも9月9日は最大の『九』が二つ重なることから『陽が重なる=重陽』と呼ばれて、縁起のいい日とされたのです。

日本ではこの日を『重陽の節会(せちえ)』と呼び、飛鳥時代の685(天武天皇14)年に朝廷で最初の宴が催され、奈良時代から平安時代にかけて紫宸殿(ししんでん/皇居の正殿)での儀式となりました。

江戸時代に五節句の一つとして幕府の式日(しきじつ)となり、武家や庶民にも重陽の節句が広まっていきました」(北野さん)
菊酒
重陽の節句が菊の節句と呼ばれるのはなぜなのでしょうか。

「この節句が中国から伝わった風習で、不老長寿の妙薬とされる菊の花びらを杯に浮かべて酒を飲み、菊の料理を食べて、長寿を祈ったことに由来します。

古くから愛でられてきた菊は、独特の香りを持ち、霊力が高い花とされ、漢方薬としても用いられていました」(北野さん)

和え物やおひたし、天ぷらで頂く食用菊

食用菊のおひたし
重陽の節句の行事食には、どのようなものがありますか。

「やはり菊の美しさや香り、味を楽しむ菊尽くし料理でしょう。食用の黄菊をほぐして茹で、すし飯に混ぜた美しい彩りの菊花ずし、揚げたてを塩で頂く菊花の天ぷら、菊の花びらを添えた和え物やおひたし、お吸い物などですね。

食用菊の主な品種は、青森県八戸市の特産で、江戸時代から八戸市を中心に食用されてきた黄色い『阿房宮(あぼうきゅう)』、紅紫色の品種としては、こちらも江戸時代からの山形県の特産品である『延命菊/もってのほか』、新潟県には白い色の『仙人菊』、薄紫色の『かきのもと/おもいのほか』などがあります。

刺身の彩りとしてよく添えられている小菊も、食用菊の一種です」(北野さん)
栗ご飯も重陽の節句の行事食だった
菊酒はどのようにして作るのでしょうか。

「まず黄菊を入手して、日本酒に菊の花びらを浸して香りを移したり、氷砂糖と一緒に焼酎に漬け込んでおいたりします。いろいろ試してみて、自分好みの味わいの菊酒を見つけてください」(北野さん)

重陽の節句に栗ご飯を炊く家庭も多いようですね。

「旧暦の9月9日は、現在の10月上旬頃。栗はこの時季が旬でおいしい食材ですから、江戸時代に庶民の間で重陽の節句の行事食として栗ご飯が広まりました。そのため、9月9日は『栗の節句』とも呼ばれていました」(北野さん)

長寿を祈る「菊の被綿」

菊の花に綿を被せる「菊の被綿」
行事食以外に、重陽の節句の慣習にはどのようなものがありますか。

「風流な習わしとして『菊の被綿(きせわた)』があります。9月8日の夜、庭の菊の花に綿を被せて夜露を染み込ませておきます。翌9日の朝に、菊の香りが移った綿で身体をなでて長寿を祈ります。

また、9日に摘んだ菊の花びらを天日干しにして、詰め物にして作った枕を『菊枕』と呼びます。菊枕で寝ると、好きな相手が夢に現れるとされ、女性から男性への贈り物に用いられました。菊枕の香りは頭痛や目の病に効くともいわれます」(北野さん)

「残暑厳しい折、長寿を祈りつつ飲む菊酒は、その香気が夏の疲れを癒してくれるように思います」と、北野さんは言います。
重陽の節句にちなんで、菊の花をかたどった様々な和菓子も店頭に並んでいます。未成年者やお酒の飲めない人も、旬の主菜に食用菊の天ぷらや和え物、お吸い物などを添え、栗ご飯と共に頂いて、今年最後の節句を祝ってみてはいかがでしょうか。
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参考資料
『三省堂 年中行事事典』(田中宣一・宮田登編/三省堂)、『暮らしのならわし十二か月』(白井明大著/飛鳥新社)、『和のしきたり 日本の暦と年中行事』(監修:新谷尚紀/日本文芸社)、『植物でしたしむ、日本の年中行事』(湯浅浩史/朝日新聞出版)、『二十四節気の暮らしを味わう 日本の伝統野菜』(木村正典著/G.B)、『おりおりに和暦のあるくらし』(旧暦くらし研究会著/角川書店)、『日本の七十二候を楽しむ―旧暦のある暮らし―』(白井明大著/東邦出版)
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