長野県で発生した突風事故時の気象解説(速報)

2025-05-30 08:24 ウェザーニュース

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5月21日(水)17時50分頃、長野県内で列車に突風で飛ばされたとみられる小屋が衝突し、乗客3人が死傷する事故が発生しました。走行中の鉄道事故で乗客が亡くなったのは、2005年に山形県のJR羽越線で特急列車が脱線し、乗客5人が死亡した事故以来です。今回の突風をもたらした積乱雲と当時の風の状況について、気象庁レーダーやウェザーニューズの解析データなどをもとに考察しました。

下層の気温が相対的にかなり高い状態

9時・21時の地上天気図と9時の高層天気図(500hPa、850hPa)
この日の日本周辺では、オホーツク海に冷たい空気の渦が居座り、東北北部や西日本では曇りや雨となっていました。一方、東北南部から関東甲信北陸では午後にかけて晴れて日差しが多い状況でした。夜にかけて西日本から東日本へ上昇気流が形成されやすい環境が整い、本州には暖かく湿った空気が流れ込んでいました。

特に輪島付近では、上空5800m付近がマイナス12℃(平年より2~3℃高め)に対し、上空1500m付近がプラス17~18℃(平年より7~8℃も高い)となっており、下層の気温がかなり高く、上空との気温差が大きな状態でした。この大きな気温差が、後に積乱雲が急激に発達する重要な要因となったと考えられます。

気温上昇による局地的な低気圧の形成

長野県では、正午頃はまだ空気が乾燥していましたが、晴れて地上気温が上昇し、上空との気温差が非常に大きくなって空気が極めて不安定な状態になりました。この時点では雲をほとんど伴わない乾燥した対流が起きていたと考えられます。

その後15時頃から中層・下層に湿った空気が流れ込み始め、積乱雲が一気に発達しやすい環境が整いました。この湿った空気は、上空の湿度の高い空気の接近と、松本付近に形成された熱的低気圧への新潟県側からの風の吹き込みによるものでした。
当時の雨雲レーダーと風の様子(ウェザーニュースProより)
実際に15時頃から剣が峰・乗鞍岳方面で積乱雲が発達し、北東方向へと移動・伝播していきました。17時50分頃には長野市・須坂市の北東側で最も発達し、雹などの氷粒子を含む強い積乱雲となりました。

3つの条件が重なった

下層の暖かさによる強い不安定、午後からの湿った空気の流入、地形や風のぶつかり合いなどによる上昇気流の形成という3つの条件が重なったことが、長野県での積乱雲の急激な発達と組織化につながったと考えられます。

突風発生のメカニズム解析

事故が発生した17時50分の時点では、小屋とみられるものが線路上にあったという情報があることから、今回の突風は17時50分より前に吹いたと思われます。また、小屋は線路の北側にあり、北寄りの風で飛ばされた可能性が高いと推察できます。

当時の雨雲レーダーを見ると、事故現場付近では17時30分から17時55分頃にかけて、非常に強い雨を降らせる積乱雲が通過していました。
さらに詳しく調べるために、突風発生場所の南側に位置する車山(諏訪市)に設置されている気象庁のレーダーが観測した※ドップラー速度を描画しました。

雨雲は北東方向に移動していましたが、画像を見ると、積乱雲進行方向前面に向かって吹き込む北寄りの風(画像の青色部分)が解析されていました。積乱雲の進行方向の南西寄りの風と、この北よりの風がぶつかり※ガストフロントが形成されており、積乱雲発達に伴い積乱雲に向かって吹き込む前方流入風がさらに強まったとも考えられます。

一方、非常に狭い範囲で発生する※ダウンバーストが発生していた場合、その規模が小さすぎてドップラーレーダーでは捉えきれていない可能性があります。

※用語解説※

ドップラー速度:レーダーから見て風が近づいてくる速度(接近成分)と遠ざかる速度(離散成分)を測定したもので、風の強さと方向を知ることができます。竜巻やダウンバーストなどの危険な風の現象を早期に発見するために気象レーダーで観測されています。

ガストフロント:積乱雲から吹き降ろされた冷たい空気が地面に当たって水平に広がる際に形成される、冷たい空気と暖かい空気の境界線のことです。この境界では急激な風向・風速の変化や突風が発生し、航空機の離着陸や屋外活動に危険をもたらすことがあります。

ダウンバースト:積乱雲から冷たい空気が勢いよく地面に向かって吹き降ろし、地面に当たって水平方向に広がる現象です。地上では中心から放射状に吹き出す非常に強い突風となり、建物の損壊や航空機事故の原因となることがある危険な気象現象です。

情報をいち早く入手、その後の予測を確認

雨雲レーダー&落雷
現段階では、今回の突風の詳細なメカニズムまでは解明が難しい状況ですが、レーダーデータを解析すると、突風のリスクを示唆する風は観測されていました。ただし、検知して伝達などができた場合も、現地周辺では既に突風が発生した後となることが多くなります。観測や解析技術、情報伝達といったインフラ側の充実と合わせて、情報を活用した対策ルールの整備が重要と言えそうです。

また、突風をもたらす恐れのある雨雲自体の発生は早い段階から捉えられ、21日16時42分には長野県北部・中部に竜巻注意情報が発表されていました。今回の雨雲は、落雷も伴い、視界を遮るほどの激しい雨を降らせていました。そうした強度の強い雨雲や、落雷の情報をリアルタイムに入手し、安全な場所への避難・待機などの判断をお願いします。

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