天候急変がもたらす山の危険! 避けたい3大リスクとその対策

2025-09-19 05:10 ウェザーニュース

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近年、健康志向もあり、登山に注目が集まっています。「レジャー白書」(日本生産性本部)によると、全国の登山者数を年間約500万人としています。この夏も人気の山や低山トレッキング、ハイキングコースなどがにぎわいを見せています。

一方で遭難者数も増加しており、2022年の山での遭難者は3506人(警察庁まとめ)と、過去最多を数えました。気候変動に伴う天候急変の多発も大きな一因とされています。

天候急変がもたらす山の危険の“3大リスク”とその対策について、株式会社ヤマテン代表取締役で山岳気象予報士の猪熊隆之さんに解説して頂きました。
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山の天候で避けたい3大リスクとその対策

山岳事故の原因の多くに天候の急変が挙げられています。山の天候で特に注意すべきポイントは「低体温症」と「沢の増水」、「落雷」の3つです。それぞれに潜むリスクとその対策を教えて頂きました。

(1)低体温症

まず最初に挙げられるリスクは「低体温症」です。

「過去数十年間の気象が原因とされる山の遭難事故で最も多いのが、低体温症によるものです。低体温症とは体の中心部の体温が35℃より下がった状態に陥り、次第に正常な感覚が失われていって、死に至る可能性もある症状です。

低体温症が起きやすい気象条件としては、風が最も大きく影響します。風速が1m/s(秒速1m)強まるごとに体感温度が1℃下がるとされており、平均風速が15m/s以上になると、低体温症のリスクが高まります。

続いて危険なのが雨による衣服の濡れです。雨や雪、汗も含めて服が濡れると蒸発の際に熱が奪われてしまうので、どうしても体温が下がってしまいます。

気温も10℃以下になると低体温症のリスクが高まります。特に急激に気温が下がっていくと人間はより寒さを感じ、体温低下にも影響していきます。風と雨と気温の低下、特に風と雨が強まると低体温症が起こりやすくなるといえるでしょう」(猪熊さん)
「低体温症は発症時の自覚症状がほとんどなく、周囲も気づきにくいため、現場での対応が難しい疾病です。ですから、登山の際には晴れの予報であっても雨着と防寒着を必ず持参して、『風雨が強まった時には歩かない』ことが鉄則です。濡れた服は着替えて、炭水化物や糖分をこまめに摂るようにしてください。

もし天候急変に襲われたら、初期症状である震えが始まった段階で、体全体の保温を心がけてください。震えの止まりは中心部の体温が34℃より下がった状態を示しますので、山の現場での対処が難しくなります。

“震えぐらい大丈夫”と同行者に遠慮したり無理をしたりせず、震えが起きたらすぐにグループ登山なら仲間に訴え、単独行であれば風雨を避けられる場所で保温と加温に努め、炭水化物や糖分を摂るようにしてください」(猪熊さん)

(2)沢の増水

2つ目は「沢の増水」です。

「気象が原因のリスクとして、急な豪雨などによる沢の増水が挙げられます。普段は普通に渡れる沢や、水のない沢でも激しい雨が降ると、水嵩(みずかさ)がましたり、鉄砲水が発生することがあります。

さらに、増水した沢を無理に渡ろうとすると、水流に押されたり、沢床(さわどこ)の石で滑ったり、深い穴でバランスを崩したりして、流されることがあります。

沢が増水したときに渡れなくなる場所がないか、必ず事前に登山道を確認し、大雨が降っているときはそのようなルートは避けるようにしましょう」(猪熊さん)
「沢の増水に伴う事故は、積乱雲が発生した際に起こりやすくなります。天気予報の『大気の状態が不安定』『上空に寒気が入る』『暖かく湿った空気が入る』が、積乱雲の発生に要注意といえるキーワードです。

特に夏場の山岳部では地上と上空に温度差が生じて上昇気流が発生しやすく、積乱雲発達の基になります。予報にこれらの言葉が示されていたら“早出早着”を心がけ、登山自体の中止もためらわないでください。

雨の日に近づいてはいけない場所として、普段は涸(か)れていても沢の近くや土砂崩れが起きやすい崩壊地、ガレ場(大きな岩などが積み重なっている所)が挙げられます。雪渓上も霧で見通しが悪くなったり落石の音が聞こえにくくなったりするので、非常に危ない場所といえます」(猪熊さん)

(3)落雷

3つ目は「落雷」です。登山中に雷の音が聞こえたら、落雷のリスクが高いと思って備える必要があります。

「落雷も積乱雲が引き起こす大きなリスク要因です。山で雷に遭遇したら、まずは近くの山小屋や避難小屋に入るのがもっとも安全な方法です。もし近くになければ、谷あいなど近くの低地へ逃げてください。

また、高さ4m以上の木があれば、避雷針代わりにするとよいでしょう。木のてっぺんを45度以上の角度で見上げる範囲で幹から4m以上離れた空間が比較的安全な保護範囲とされています。ただし、側撃を受ける危険性があるので、保護範囲内でも枝葉から最低でも2m以上は離れてください」(猪熊さん)
「落雷が発生したら両足を開いて立ったり、地面に寝そべったりせずに、低い姿勢をとってください。両耳に手をあてて、両足のかかと同士をつけた状態でつま先立ちにし、できるだけ体を小さくしてかがみ込みます。

特に落雷の可能性が高い場所として高い木の下のほか、尖(とが)った山頂やピナクルと呼ばれる突き出た岩が挙げられます。岩場など滑落の危険がある場所も、近くの落雷の衝撃で体が飛ばされ、重大事故につながる可能性が高まりますので近づかないようにしてください」(猪熊さん)

気候変動によって特に大気の状態が不安定になりがちな夏の時季、急な豪雨や強風、落雷の発生が増加しています。低体温症、沢の増水、落雷の3大リスクと対策を理解し、安全な登山に務めましょう。
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取材協力
猪熊隆之氏/株式会社ヤマテン代表取締役。気象予報士。『ヤマテンチャンネル』では、登山の安全と楽しさを高めるための情報を届けている(https://www.youtube.com/channel/UCdl4pfoWmvUCUc3K8CwqNLA)
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