山の天気はなぜ変わりやすい? 登山時に知っておくべき「危険な雲」のサイン

2025-09-13 05:10 ウェザーニュース

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9月に入って登山シーズンもたけなわ。名峰と称される山々や人気の縦走路はもとより、近年ブームの「低山」なども多くの登山客でにぎわっています。

登山の際に最も注意が必要なのが、平野部に比べて“変わりやすい”とされる山の天気です。

自らの身を守り、周囲に負担をかけないためにも、なぜ山の天気は変わりやすいのか、さらに登山時に知っておくべき天候急変のサインなどについて、株式会社ヤマテン代表取締役で山岳気象予報士の猪熊隆之さんに詳しく解説して頂きました。
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なぜ、山の天気は変わりやすい?

山の天気が変わりやすい理由から教えていただけますか。

「山岳地帯、平野部にかかわらず、天気が崩れる前には雲ができます。雲は空気中に浮かぶ水蒸気を含む湿った空気が上昇するにつれて冷やされ、水や氷の粒に変わって雲になります。

山岳地帯でこの空気の上昇、いわゆる上昇気流が発生しやすいことが“山の天気が変わりやすい”理由です。

平野部で雲が作られるのは、低気圧や前線の周辺に上昇気流が生じることが主な原因です。ところが山岳地帯では低気圧や前線が接近してこなくとも、簡単に湿った空気が上昇してしまうのです」(猪熊さん)
それはなぜなのでしょうか。

「湿った空気が作られやすいのは海の上です。海上は海水から蒸発した水蒸気がたまり続けますから、常に湿った空気で満たされています。この湿った空気が風に吹かれて山の麓へ運ばれると行き場を失い、斜面に沿って上に向かいます。その際に上昇気流が発生して、雨雲が作られやすくなるのです。

平野部では上昇気流は起きにくいので、湿った空気が運ばれてきても雨雲は簡単には作られません。ところが山岳地帯は上昇気流が生じやすく気温も低いので、すぐに雨雲ができてしまうのです。

これが山の天気が変わりやすい、つまり天候が崩れ急変しやすい理由といえます」(猪熊さん)

危険な“やる気のある雲”の見極め方

雲には様々な形のものがあります。天気の急変、急な雷雨や強風をもたらす可能性が高い雲には、どのようなものがあるのでしょうか。

「私は“やる気のある雲”と“ない雲”という呼び方で、雲の危険性を判別しています。

“やる気のある雲”の代表は夏場によく見られる入道雲で、もくもくと湧き立つように上方へ向かって大きく成長していくタイプの雲をいいます。

“やる気のない雲”は雲海のように横方向に広がっていたり、綿雲(わたぐも)のように浮かんでいても次第に消えていったりするタイプです。

“やる気のある雲”は豪雨や突風、落雷などをもたらす危険な積乱雲へと変化します。雲の“やる気”を判別するためには、雲の様子を詳しく観察することが大切です」(猪熊さん)
天気急変を知らせる“やる気のある雲”の特徴を教えてください。

「まず、雲の最頂部(てっぺん)の形がカリフラワーやソフトクリームなどに似ていることが、“やる気のある雲”の特徴といえます。

さらに10分後など一定の時間が経過してから雲の最頂部の高さが増していたら、“雲のやる気も高まっている”といえるでしょう。

また、雲の底が少し前より暗さを増している場合も、危険な雲の特徴です。

登山の際に、このような“やる気のある雲”が周辺に発生していたら、激しい雷雨の襲来する可能性があると考えてください。

“やる気のある雲”の存在が確認されたら、沢筋や高い木から離れて窪地や避難小屋など、より安全性の高い場所への避難を早急に心がけましょう」(猪熊さん)
天気急変の危険度が高いのは、具体的にどのような雲なのでしょうか?

「最頂部に頭巾のような雲ができていたり、弧を描いたようなアーク状の雲が見えたり、黒い雲から冷たい強風が吹いてきたりしたら、今すぐにでも雷を伴った激しい雨が降る可能性が高いと考えてください。これらは『危険度A』のもっとも“やる気のある雲”です。

また、暗い雲の底に凹凸ができていたり、雲のてっぺん付近に透き通った筋状の雲が見えたりしたら、数分から数十分後に激しい雷雨の可能性があります。これらは『危険度B』の雲です」(猪熊さん)

どの方角の雲を見れば良い?

登山の際にはどの方角の雲や空の様子を眺めれば良いのでしょうか。

「『風上側を見る』ことが基本になります。天気図から事前に風向きを予測することも可能ですが、現地での確認がなにより重要です。雲は上空の風に流されていますので、“やる気のある雲”が風上側に見えたら、天候急変が近い可能性が高まります。

『西側を見る』ことも大切です。日本列島の上空には夏の一時期を除いて西から東へ向かう偏西風が吹いていますので、西側に雲が広がっている時に周辺の天候が崩れる可能性が高まります」(猪熊さん)
雲の流れる方角や風向きを知るためのコンパスは必須アイテム
山の天気は、海側から風が吹くときに崩れやすいので、日本海に近い山では、「日本海側の空を見る」ことも重要だといいます。

「日本海上空に帯状の入道雲が連なっている場合、日本海からの風(主に東日本は西風、西日本では北風)が吹いていると本土に近づく恐れがあり、天気が急変する原因となるからです。

一方、太平洋側の山では、西風が南風や東風に変わった時、天気が急変する傾向があります。

地図で自分がいる位置を確認したうえで、周囲が開けた場所ならコンパス(磁石)で風向きを把握し、風の流れが確認できない谷間や樹林帯などなら隙間から空を見上げて、雲の流れる方向を確認してください。もし海側から風が吹いていれば、注意が必要です」(猪熊さん)

高山・低山にかかわらず、雲の状態をよく観察して天候急変のサインを見抜き、安全な登山を楽しみましょう。
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取材協力
猪熊隆之氏/株式会社ヤマテン代表取締役。気象予報士。『ヤマテンチャンネル』では、登山の安全と楽しさを高めるための情報を届けている(https://www.youtube.com/channel/UCdl4pfoWmvUCUc3K8CwqNLA)

危険度が高い雲の写真:ウェザーリポート(ウェザーニュースアプリからの投稿) 上左 上中 上右 下左 下右
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