「おせち」と呼ぶようになったのはいつから? おせち料理に込められた意味

2026-01-01 09:50 ウェザーニュース

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2026年1月1日、新年が明けました。各家庭の食卓にはその家に伝わる手作りやあるいはデパート、料亭などから届いたおせち料理が並べられていることでしょう。

ウェザーニュースで「お正月にお節を食べる?」というアンケート調査を実施したところ、「食べる」と答えた人が7割近くを占める結果となりました。
「食べる」と回答した人たちのコメントを見ると、「手作り派」や「購入派」、さらに「一部手作り+一部購入」など、趣向も分かれているようです。

多種多彩な食材が盛り込められたおせち料理ですが、それぞれの料理や食材に意味が込められていることをご存じでしょうか。

おせち料理の歴史や一つひとつの食材に込められた意味などについて、歳時記×食文化研究所代表の北野智子さんに詳しく解説して頂きました。

節日の神饌下がりを用いた直会料理が発祥

まず、「おせち」とはどういう意味の言葉なのでしょうか。

「おせち料理は現在、正月料理として認識されていますが、本来の『おせち』は『御節供(おせちく)』が略された言葉で、節日(せちにち)に神に供える食べ物のことです。
江戸時代中期の書物『俚諺集覧(りげんしゅうらん)』には、『せち、節日の食膳を節供(せちく)といふを略せる也。俗におせちといふ』とあります。

節日とは正月や五節供などの祝いを行う日のこと。五節供(五節句)とは、1月7日の『人日(じんじつ)』、3月3日の『上巳(じょうし)』、5月5日の『端午(たんご)』、7月7日の『七夕(たなばた)』、9月9日の『重陽(ちょうよう)』をいいます。現在は『節句』と表記されますが、古くは『節供』でした。

節日には農産物や水産物を神饌(神への供え物)とし、これを江戸では喰積(くいつみ)、京坂では蓬莱(ほうらい)と呼びました。三方の上に白米を盛り、熨斗鮑(のしあわび)、搗(か)ち栗、昆布、野老(ところ)、馬尾藻(ほんだわら)、橙(だいだい)、海老などを飾ったものです。

この蓬莱・喰積飾りの神饌を下げて直会(なおらい=祭事の後の宴会)の食材とし、おいしく食べられるように調理したものが、現在のおせち料理の原型とされています」(北野さん)

正月料理に特化されたのは、江戸後期から

本来は正月に限らず、節日の直会に出される食べ物が「おせち」だったのですね。正月料理のみを「おせち」と呼ぶようになったのはいつ頃からなのでしょうか。

「元日の祝いは奈良時代から宮廷行事になり、雑煮やおせちを祝食する風習は室町時代に始まったとされています。江戸後期からおせちの呼び名は、節日のうちで最も重要な正月の料理に特化されるようになりました。“めでたさを重ねる”重箱詰めスタイルは、明治時代からのようです。

正月は歳神さまを迎えて五穀豊穣を祈る農耕儀礼で、年神さまに供えた『祝い肴』を下げて家族一同で祝食しました。祝い肴は江戸時代に入ると、関東では数の子、黒豆、田作り、関西では数の子、黒豆、たたきごぼうの3種が『三つ肴』と称され、おせちの代表格とされました。

当時これらの食材は比較的手頃で、手に入れやすかったので、質素な暮らしをしていた江戸の庶民たちも、この3種の祝い肴と餅さえあれば、正月は迎えられたようです。また、3種ともに乾物なので、こも俵に詰めて山間部まで運ぶこともできたので、日本全体に広まっていったといいます」(北野さん)

5種類に分けられるおせち料理

縁起やおめでたい語呂合わせのある料理が詰められている
おせち料理は「祝い肴」「口取り」「焼き物」「酢の物」「煮しめ(煮物)」の5種類に分けられ、どれも“冷えてもおいしく頂ける”料理です。

それぞれの重箱への詰め方には“しきたり”があり、現在主流の三段重では、祝い肴と口取りは一の重、焼き物や酢の物は二の重、煮しめは三の重とされています。

「海の幸、山の幸が詰まったおせち料理には、一つひとつに縁起やおめでたい語呂合わせがあり、それらを食べることによって、新しい年の開運や招福、無病息災を祈ってきました。

日本には言葉の宿す意味合いで禍福(かふく=災いと幸せ)が左右されると信じられてきた『言霊(ことだま)信仰』があり、おせちなど伝承的な行事食には特に縁起のいい名が選ばれています。

代表的な22品の食材の縁起、由来は次のとおりです」(北野さん)

各料理・食材に込められた意味は?

【祝い肴】
▼数の子

たくさんの子に恵まれますようにと子孫繁栄を願って。

▼黒豆
マメ(健康で働ける状態)に暮らせますように。

▼田作り(ごまめ)
片口鰯(カタクチイワシ)の稚魚を干したもので、田んぼ作りの肥料にすると5万俵も採れ、「五万米」の字があてられたのが由来。豊作祈願を願う。

▼たたきごぼう
地中深く真っ直ぐに、しっかりと根を伸ばすことから、一家安泰の縁起物。また、「開きごぼう」ともいわれることから、「開運」を願って。
【口取り】
▼紅白かまぼこ

紅(赤)は魔除けで白は清浄の意味があり、神饌の赤米・白米を表しているともいわれている。昔から日本では、紅白は最も縁起の良い組み合わせだった。

▼伊達巻
巻物にたとえて、知識が増えるようにとの願い。

▼きんとん
「金団」とも書かれることから、黄金にたとえられて、豊かな一年であるようにとの願いを込めて。

▼海老
長寿を願う縁起物。 

▼棒鱈
「たらふく」と呼ばれるタラ。お腹一杯食べる魚にあやかり、食べ物に困らないように。

▼とこぶし
「ふくだめ」とも呼ばれ、福が貯まるようにとの願いを込めて。
【焼き物】
▼鯛(たい)の塩焼き

鯛は「めでたい」に通じることから。

▼鮭の塩焼き
サケは東日本の「年取り魚」。川を下っても生まれた故郷の川に戻ってくることから、神聖な魚とされてきた

▼鰤(ぶり)の照り焼き
ブリは西日本の「年取り魚」。成長と共に「ツバス→ハマチ→メジロ→ブリ」(関東ではワカシ→イナダ→ワラサ→ブリ」)と名前が変わる「出世魚」にちなみ立身出世を願う。
【酢の物】
▼紅白なます

お祝いの水引をかたどり、家族の平和を祈ったものとされる。

▼酢れんこん
穴が開いていることから、将来の見通しが開けるように。

▼菊花かぶ
カブを菊の花に見立てた酢の物。菊は邪気を祓(はら)い、寿命を延ばすといわれていることから。

【煮しめ・昆布巻き】
▼昆布巻

「喜(ん)ぶ」にかけて喜びを願う縁起物。

▼くわい
芽が出ますようにとの願いを込めて。
里芋の一種で親芋と子芋がくっついている「八つ頭」
▼八つ頭
里芋の親芋(種芋)が分球せずに、親芋と小芋、孫芋が一つの大きな塊となる品種。人の頭に立つ人物になれるようにとの願いを込めて。

▼里芋
小芋がたくさんつくことから、子宝に恵まれるようにとの願い。

▼高野豆腐
高野豆腐の煮しめに焼き目をつけ、盾に見立てた「盾豆腐」があり、武運の願掛けとも(関西ではほとんど見かけない)。

▼こんにゃく
馬を御(ぎょ)すために轡(くつわ)に付けた手綱に見立て、飾り切りした「手綱こんにゃく」も武運の願掛けと思われる。

関西には「睨み鯛」の風習も

おせち料理にまつわる“豆知識”のようなものは、何かありますか。

「焼き物では、鮭の塩焼きは秋の遡上の際に獲って塩蔵したサケを用います。これは『塩引き鮭』と呼ばれ、かつては高価なものだったので、お正月に大切に食べられました。

関西には『睨み鯛(にらみだい)』という風習があります。化粧塩をふった大きな鯛を焼き、大皿に飾ったもので、正月三が日は箸を付けずにただ眺めるだけとしたことが由来です。

祝賀に訪れた客人の前に運ばれ、客は、真新しい箸、エラのところをちょんとつつくというのが、縁起担ぎの風習だったといいます。

大阪の私の実家でも『睨み鯛』の風習は残っていました。ただし三が日ではなく、元日だけ箸を付けなかったように記憶しています。酒も飲まない子どものくせに、この鯛をむしって(特に頭とカマの部分)お湯を注いで食べる、『新年の潮汁』が大好きでした」(北野さん)

おせち料理の食材それぞれに、深い縁起が込められていたことがわかりました。好き嫌いは控えてすべてを食し、新たな一年の幸せを願いましょう。

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参考資料
『江戸 食の歳時記』(松下幸子/筑摩書房)、『祝いの食文化』(松下幸子/東京美術)、『日本の「行事」と「食」のしきたり』(新谷尚紀監修/青春出版社)、『ニッポンの縁起食 なぜ「赤飯」を炊くのか』(柳原一成・柳原紀子/NHK出版)、『和のしきたり 日本の暦と年中行事』(新谷尚紀監修/日本文芸社)、『野﨑洋光の縁起食』(野﨑洋光/中日映画社)、『たべもの起源事典』(清水桂一編/東京堂出版)
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