水揚げの約9割が死滅? 温暖化の影響で冬の味覚、カキが大ピンチ!?

2025-12-13 10:51 ウェザーニュース

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12月に入って冬の気配が強まり、温かな鍋ものなどに欠かせないカキ(牡蠣)が旬を迎える時季になりました。

ところが今シーズンは、養殖カキ生産量全国一の広島県で水揚げされたうちの9割が死んでしまった海域があるなど、特に瀬戸内海を中心に大量死が発生し、「カキが大ピンチ」との危機感が高まっています。

カキの大量死の現況や原因、今後の見通しなどについて、まとめてみました。

水揚げの約9割が死滅、瀬戸内海で大きな被害

養殖カキの産地別生産量割合は、1位の広島県が59.8%、3位の岡山県が7.8%、4位の兵庫県が5.6%など、瀬戸内海エリアが全国の約80%を占めています(水産庁2023年データ、2位は宮城県の13.7%)。
カキのへい死率(水揚げ時に死んでいた割合)は一般に3~5割とされています。ところが、水産庁が11月下旬に「養殖カキのへい死の状況」についての聞き取り調査を行ったところ、広島県中東部と広島湾南部で6~9割、愛媛県や香川県で5~9割、兵庫県で「概(おおむ)ね8割」の大量死が報告されました。

広島湾北部も「例年並みかやや多い」、岡山県でも「例年より多い」など、今シーズンの瀬戸内海での被害状況が深刻なものであることが確認され、一方で瀬戸内海以外のカキの産地として知られる地区(東北・三重・福岡)では、「特段のへい死は確認されなかった」としています。

原因は海水の高温・高塩分化?

カキの大量死の原因について水産庁の調査では共通して、地球温暖化に伴うとみられる「高水温」の影響が挙げられていました。

広島県保健環境センターによると、広島湾(水深0~0.5m)の水温は10年あたり0.17℃のペースで上昇しています。閉鎖海域の瀬戸内海は太平洋に面した三陸地方などに比べて海流による水温低下の影響を受けにくいため、この100年間でプラス1.28℃とされる日本の平均海面水温の上昇よりも高い値です。
猛暑が続いた今夏は海水温の上昇が著しく、広島県立水産海洋技術センター(呉市)地先海域の平均水温は7月25.0℃、8月27.2℃、9月27.0℃でした。いずれも平年値(7月23.1℃、8月25.7℃、9月25.4℃)を大きく上回っています。

カキは夏場に精子の放出・産卵期を迎え、“体力”が大きく消耗します。今夏のように水温が高い状態が長引くと、一度産卵したのちに再び成熟して産卵を繰り返すことから疲弊が重なります。それが今シーズンの大量死の大きな原因のひとつになったとみられています。
さらに原因として、「高塩分」と「エサ不足」も挙げられています。瀬戸内海沿岸はもともと降水量の少ない地域ですが、今年は梅雨が短かかったことや台風の上陸・接近もなかったために、河川からの真水の流入量が極端に少なくなりました。

そのためカキの養殖海域に、高塩分化による“脱水症状”と、河川水に含まれる栄養分の流入低下による“食糧不足”に見舞われてしまったのです。特に大きな河川がない広島県東部は、降水量の少なさによる悪影響が顕著だったようです。

専門家からは、風向きの影響で循環が妨げられた海水内の酸素不足を要因とする見解も示されています。

流通・消費者側は今後の価格高騰を懸念

極端な品薄でカキ料理の値上げを余儀なくされる飲食店も(写真/時事)
都内近郊の大手スーパーの鮮魚コーナーには例年どおり、「広島県産」加熱用カキのパッケージが置かれていました。
「数日前に初めて、今シーズンに水揚げされた広島県産と兵庫県産の生ガキが入荷しました。昨シーズンに比べていまのところ価格はほぼ変わりませんが、入荷量は少なく、身も小ぶりでした。東日本の店舗で多く提供されている宮城県産については、価格、入荷量、大きさとも例年と変わらない状況です。

ただし、今後の瀬戸内海産カキの入荷見通しはまったく立っておらず、お客様ともども価格の高騰を懸念しているところです」(店舗の鮮魚担当マネージャー)

生ガキやカキフライ、カキ鍋などを提供する飲食店でも、極端な品薄から値上げに踏み切る店舗も出てきています。

今後の対応について、東広島市の養殖業者などを視察した鈴木憲和農林水産大臣は、11月18日の会見で「生産現場の皆さんが先が見通せるような対応を、できる限り早く打ち出させていただきたいと思う」と述べています。

高水温に耐えられるカキも?

今後も避けられない温暖化による海水温上昇に対して、カキ養殖業者側もさまざまな対応策に取り組んでいます。
高水温への耐性に優れた「若狭うららかき」(写真/小浜市漁協)
たとえば福井県の小浜市漁業協同組合は、福井県立大学海洋生物資源学部や地元業者と共同で、高水温への耐性に優れた新たなブランドマガキ「若狭うららかき」を完成させ、今年5月に初の試験販売を開始しました。

「今年の小浜湾の海水温は8月が30.9℃、9月上旬が32℃と例年より高く、夏場の天然イワガキ『若狭の岩牡蠣』も身が小さめで出荷時期が短縮されました。これから水揚げされる養殖マガキの稚貝も主力の三重県産に大きな影響はなかったものの、広島県産は8割がすでにへい死してしまいました。

しかし『うららかき』は、小浜湾産の『若狭こはるかき』を親にした産卵しない三倍体という種苗を使い、『シングルシード』という稚貝を1粒ずつばらして育成する方式で育てています。

そのため猛暑を経てきたいまも、稚貝の大量死に見舞われることなく生育状況は順調で、来年の3月頃から出荷の見込みです」(小浜市漁協業務課長の松下卓也さん)
シーズンを迎えたカキの動向から目が離せない状況です。

ウェザーニュースでは、気象情報会社の立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、さまざまな情報をわかりやすく解説し、みなさんと一緒に地球の未来を考えていきます。まずは気候変動について知るところから、一緒に取り組んでいきましょう。
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