大船渡市の山火事では市面積の10%近くが焼失
大船渡市の山火事は2月26日、市内赤崎地区で発生、市は979世帯の住民2424人に対して避難指示を発令しました。地上・空中からの懸命な消火活動と、3月5日の26.5mmというまとまった降雨によって火勢は弱まり、9日に「延焼の恐れがなくなった」として鎮圧が宣言。10日にはすべての避難指示が解除されました。
しかし、火災によって1人が死亡、市の面積の9%にあたる約2900haが焼失。210棟の建物(空き家を含む)が被害を受け、うち76棟が全壊という、平成以降で国内最大規模の山火事となりました。
しかし、火災によって1人が死亡、市の面積の9%にあたる約2900haが焼失。210棟の建物(空き家を含む)が被害を受け、うち76棟が全壊という、平成以降で国内最大規模の山火事となりました。

大船渡市では2月の降水量が2.5mmで、平年より93.9%減という少雨の状況でした。さらに3月4日まで20日間連続で乾燥注意報が発表、強風注意報もたびたび発表されていました。これらの気象条件が大規模な山火事にどのような影響を与えたのでしょうか。
「火災拡大の要因は、極端な乾燥、強風、落葉・落枝や下草など火災の原因となる燃料が溜まっていたこと、林床の燃焼が高い木に燃え移り『樹冠火(じゅかんか)』が起きたこと、斜面上方に燃えるのが速かったこと、斜面での消火活動が難しいことなどでした。
特に極端な乾燥と強風は大きな要因だったといえます。
周辺海水面の水温が上昇していたことで北西からの季節風の循環が高まり、さらなる強風を招いたことも要因のひとつといえるでしょう」(串田教授)
「樹冠火」とは、どのような現象なのでしょうか。
「火災拡大の要因は、極端な乾燥、強風、落葉・落枝や下草など火災の原因となる燃料が溜まっていたこと、林床の燃焼が高い木に燃え移り『樹冠火(じゅかんか)』が起きたこと、斜面上方に燃えるのが速かったこと、斜面での消火活動が難しいことなどでした。
特に極端な乾燥と強風は大きな要因だったといえます。
周辺海水面の水温が上昇していたことで北西からの季節風の循環が高まり、さらなる強風を招いたことも要因のひとつといえるでしょう」(串田教授)
「樹冠火」とは、どのような現象なのでしょうか。

「山火事には地表火と樹冠火という2種類があります。地表火は地表近くの落葉や下草といった下層植生だけが燃えるもの。高い木まで燃えるものを樹冠火といいます。
地表火の場合は比較的小規模な火災で済みますが、風の影響を強く受ける樹冠火が起きるとかなり大規模になります。燃焼パワーが激しいので、隣の木への燃え移りや飛び火も激しくなってしまいます」(串田教授)
大船渡市はリアス式海岸特有の、急斜面が海に落ち込む地形です。それも影響しているのですね。
「意外かもしれませんが、斜面では基本的に火が燃え広がるのが速くなるのです。キャンプファイヤーなどを見るとわかるように、火には上に向かって燃え広がる、どんどん空気を突き上げていくという特徴があります。それが斜面に関しても当てはまり、斜面の下から上に向かって火が広がります。
しかも火が燃えると上昇気流が発生します。すると斜面全体に火を押し上げるような力が働き、火が斜面に沿って登っていくような広がり方をします。
傾斜が強ければそれが激しくなりますので、燃え広がる速さがいっそう速まる、しかも上昇気流は風を引き起こしますので、それで火勢も強くなっていきます。
大船渡市の例に限らず、地球温暖化が進むと、冬の日本でも極端な乾燥、強風の気象が増えて、山火事が起こりやすくなります」(串田教授)
地表火の場合は比較的小規模な火災で済みますが、風の影響を強く受ける樹冠火が起きるとかなり大規模になります。燃焼パワーが激しいので、隣の木への燃え移りや飛び火も激しくなってしまいます」(串田教授)
大船渡市はリアス式海岸特有の、急斜面が海に落ち込む地形です。それも影響しているのですね。
「意外かもしれませんが、斜面では基本的に火が燃え広がるのが速くなるのです。キャンプファイヤーなどを見るとわかるように、火には上に向かって燃え広がる、どんどん空気を突き上げていくという特徴があります。それが斜面に関しても当てはまり、斜面の下から上に向かって火が広がります。
しかも火が燃えると上昇気流が発生します。すると斜面全体に火を押し上げるような力が働き、火が斜面に沿って登っていくような広がり方をします。
傾斜が強ければそれが激しくなりますので、燃え広がる速さがいっそう速まる、しかも上昇気流は風を引き起こしますので、それで火勢も強くなっていきます。
大船渡市の例に限らず、地球温暖化が進むと、冬の日本でも極端な乾燥、強風の気象が増えて、山火事が起こりやすくなります」(串田教授)
地球温暖化で世界的に山火事が多発

世界的にも森林火災が多発しています。世界資源研究所のデータによると、20年前は世界の森林の焼失面積は400万ha前後でしたが、2023年には約1200万haを記録し、3倍近くも増大しました。
記憶に新しいところでは今年1月に発生したアメリカ・ロサンゼルスの大規模火災があります。こうした世界的な山火事の増加も、地球温暖化が影響していると言います。
「地球温暖化が進むと、世界の多くの地域で極端な乾燥、強風が増えて、山火事の発生や拡大が起こりやすくなります。
また、気温が高いと土や植物の水分が空気中に蒸発しやすくなるので、空気の乾燥だけでなく土や植物の乾燥も進み、さらに燃えやすい状況となってしまうのです。
ロサンゼルスの場合も大船渡市と同様に、極端な乾燥、強風、落葉・落枝や下草など火災の原因となる燃料が溜まっていたことが、火災拡大の要因と考えられます。
地球温暖化が進むと北米の各地域で極端な乾燥、強風の気象が増えて、山火事が拡大しやすくなります。
そのほか、南米のブラジル、ボリビア、アルゼンチン、パラグアイ、ペルー、チリなどでは2024年に高温乾燥下で、合わせて日本の国土面積の2.3倍にあたる86万平方kmの草原や森林や湿原が燃えました。人工衛星による観測が開始された1998年以降で最大の火災面積になりました。
干ばつにより、アマゾン流域河川の水位は過去最低の水準となり、南米では水不足が深刻化しました」(串田教授)
記憶に新しいところでは今年1月に発生したアメリカ・ロサンゼルスの大規模火災があります。こうした世界的な山火事の増加も、地球温暖化が影響していると言います。
「地球温暖化が進むと、世界の多くの地域で極端な乾燥、強風が増えて、山火事の発生や拡大が起こりやすくなります。
また、気温が高いと土や植物の水分が空気中に蒸発しやすくなるので、空気の乾燥だけでなく土や植物の乾燥も進み、さらに燃えやすい状況となってしまうのです。
ロサンゼルスの場合も大船渡市と同様に、極端な乾燥、強風、落葉・落枝や下草など火災の原因となる燃料が溜まっていたことが、火災拡大の要因と考えられます。
地球温暖化が進むと北米の各地域で極端な乾燥、強風の気象が増えて、山火事が拡大しやすくなります。
そのほか、南米のブラジル、ボリビア、アルゼンチン、パラグアイ、ペルー、チリなどでは2024年に高温乾燥下で、合わせて日本の国土面積の2.3倍にあたる86万平方kmの草原や森林や湿原が燃えました。人工衛星による観測が開始された1998年以降で最大の火災面積になりました。
干ばつにより、アマゾン流域河川の水位は過去最低の水準となり、南米では水不足が深刻化しました」(串田教授)

山火事の発火原因はどのようなものが考えられるのでしょうか。
「北米を除いたほとんどの地域では、火の不始末などの人為的なものがほとんどです。北米では、火災面積ベースでは大半が落雷によります。地球温暖化によって雷が増加していることもあり、山火事が発生しやすくなっています」(串田教授)
さらに、降雪の減少による乾燥化も注意が必要です。
「雪の積もる地域では、地球温暖化により雪解けが早まったり初雪が遅れたりすると、土地が乾いている季節が長くなり、山火事が起こりやすくなります。
近年の地球温暖化により、世界の火災による森林焼失面積が増加しています。森林焼失面積の増加は、特に北方森林で顕著です」(串田教授)
「北米を除いたほとんどの地域では、火の不始末などの人為的なものがほとんどです。北米では、火災面積ベースでは大半が落雷によります。地球温暖化によって雷が増加していることもあり、山火事が発生しやすくなっています」(串田教授)
さらに、降雪の減少による乾燥化も注意が必要です。
「雪の積もる地域では、地球温暖化により雪解けが早まったり初雪が遅れたりすると、土地が乾いている季節が長くなり、山火事が起こりやすくなります。
近年の地球温暖化により、世界の火災による森林焼失面積が増加しています。森林焼失面積の増加は、特に北方森林で顕著です」(串田教授)
山火事リスクは2050年までに50%増加
地球温暖化と森林火災のメカニズムは「負の連鎖」と呼ばれているようです。
「通常の場合、森林は火災の直後から植生回復を始めます。最初は草が生えて、次第に低木が混ざり、ついには元通りの森林に回復します。
しかし近年は、元通りの森林に回復しない場合が生じてきました。元通りに回復する前に再び火災を受けてしまうのです。
このような事態に陥ると、森林の劣化をもたらし、森林が小さくなった分だけ二酸化炭素(CO2)の大気への放出が増加します。
過去20年間で、世界の火災による森林焼失面積は大きく増加しています。
地球温暖化の進行→極端な乾燥の増大→森林火災の増大→大気の二酸化炭素濃度の上昇→地球温暖化の進行という『負の連鎖』が、加速度的に地球温暖化を進める構造になっているのです」(串田教授)
「通常の場合、森林は火災の直後から植生回復を始めます。最初は草が生えて、次第に低木が混ざり、ついには元通りの森林に回復します。
しかし近年は、元通りの森林に回復しない場合が生じてきました。元通りに回復する前に再び火災を受けてしまうのです。
このような事態に陥ると、森林の劣化をもたらし、森林が小さくなった分だけ二酸化炭素(CO2)の大気への放出が増加します。
過去20年間で、世界の火災による森林焼失面積は大きく増加しています。
地球温暖化の進行→極端な乾燥の増大→森林火災の増大→大気の二酸化炭素濃度の上昇→地球温暖化の進行という『負の連鎖』が、加速度的に地球温暖化を進める構造になっているのです」(串田教授)

森林火災そのものによる二酸化炭素の放出が「負の連鎖」に影響しているわけではないのですね。
「森林火災で燃えた時に出た二酸化炭素の量をカウントすると、世界全体の年間排出量の2~3割になります。以前はどんなに燃えても必ず森というのはいつか回復するのだから、元通りになった時点で完全にリセットされる、ニュートラルになっているんだという考え方が主流だったのです。
注意しなければいけないのは、ここでいう『森林火災の増大が二酸化炭素濃度を上昇させる』とは、回復した分も全部含めてという点で大きな問題だということです。地球温暖化によって、焼失の後に元通りまで回復されなくなった森林が増えているのです」(串田教授)
国連環境計画(UNEP)が2022年に発表した報告書では、地球温暖化によって森林火災の発生リスクは2030年までに14%、2050年までに30%に急上昇、2100年には50%に達するとされています。
「森林火災で燃えた時に出た二酸化炭素の量をカウントすると、世界全体の年間排出量の2~3割になります。以前はどんなに燃えても必ず森というのはいつか回復するのだから、元通りになった時点で完全にリセットされる、ニュートラルになっているんだという考え方が主流だったのです。
注意しなければいけないのは、ここでいう『森林火災の増大が二酸化炭素濃度を上昇させる』とは、回復した分も全部含めてという点で大きな問題だということです。地球温暖化によって、焼失の後に元通りまで回復されなくなった森林が増えているのです」(串田教授)
国連環境計画(UNEP)が2022年に発表した報告書では、地球温暖化によって森林火災の発生リスクは2030年までに14%、2050年までに30%に急上昇、2100年には50%に達するとされています。
山火事の約7割は1~5月に集中
山火事を予防する方策は、実際にとられているのでしょうか。
「日本に関していえば、今回の大船渡市の火災がきっかけになるのではと思っています。例年、日本全体で1000件くらい山火事がありますが、焼失面積はすべて合わせても約700haでした。
ところが今回は地球温暖化を大きな要因として、一度にその4倍の被害が顕著に現われたことで、政府や各自治体も『今後何らかの対策をしなければならない』という流れになっていくでしょう」(串田教授)
具体的にどんな予防策が考えられますか。
「山火事は燃え広がり始めてからだと、どんなに多数の人員や最新の消防車などを投入しても鎮圧・鎮火はなかなか難しい。ですから、事前に予防対策をとることが大事だと思います。まず落葉や下草など燃え広がる原因となるものを除くこと。防火帯の適切な設置も含まれます。
それと、当然ですが火の使い方に気を付けることです。日本を含めて世界各地では、野外で火を使うことが生活の一部になっています。
そのため、完全になくすというのは無理だと思いますが、火災が起きやすい天候になったら注意喚起をこれまで以上に徹底して、場合によっては『火を使わないでください』と要請したり、火災の多いカナダのように『山に入ってはだめだ』と立ち入りを禁止したりすることも必要になってくるのではと思います」(串田教授)
林野庁のまとめでは、山火事の約7割が冬から春(1月~5月)にかけて集中して発生しています。春先は行楽や山菜採りに山に入る人が増えるほか、農作業に由来する枯草焼きなどが山林に飛び火することも原因となっているといい、この先も注意が必要です。
地球温暖化を少しでも抑制するために、私たち一人ひとりが火の取り扱いについて考え、野外でのたばこの火の不始末など小さな行動にも気を配ってみてはいかがでしょうか。
ウェザーニュースでは、気象情報会社の立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、さまざまな情報をわかりやすく解説し、皆さんと一緒に地球の未来を考えていきます。
» 特集 ウェザーニュースと考える地球の未来
» お天気ニュース記事をアプリで見る
「日本に関していえば、今回の大船渡市の火災がきっかけになるのではと思っています。例年、日本全体で1000件くらい山火事がありますが、焼失面積はすべて合わせても約700haでした。
ところが今回は地球温暖化を大きな要因として、一度にその4倍の被害が顕著に現われたことで、政府や各自治体も『今後何らかの対策をしなければならない』という流れになっていくでしょう」(串田教授)
具体的にどんな予防策が考えられますか。
「山火事は燃え広がり始めてからだと、どんなに多数の人員や最新の消防車などを投入しても鎮圧・鎮火はなかなか難しい。ですから、事前に予防対策をとることが大事だと思います。まず落葉や下草など燃え広がる原因となるものを除くこと。防火帯の適切な設置も含まれます。
それと、当然ですが火の使い方に気を付けることです。日本を含めて世界各地では、野外で火を使うことが生活の一部になっています。
そのため、完全になくすというのは無理だと思いますが、火災が起きやすい天候になったら注意喚起をこれまで以上に徹底して、場合によっては『火を使わないでください』と要請したり、火災の多いカナダのように『山に入ってはだめだ』と立ち入りを禁止したりすることも必要になってくるのではと思います」(串田教授)
林野庁のまとめでは、山火事の約7割が冬から春(1月~5月)にかけて集中して発生しています。春先は行楽や山菜採りに山に入る人が増えるほか、農作業に由来する枯草焼きなどが山林に飛び火することも原因となっているといい、この先も注意が必要です。
地球温暖化を少しでも抑制するために、私たち一人ひとりが火の取り扱いについて考え、野外でのたばこの火の不始末など小さな行動にも気を配ってみてはいかがでしょうか。
ウェザーニュースでは、気象情報会社の立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、さまざまな情報をわかりやすく解説し、皆さんと一緒に地球の未来を考えていきます。
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