関東部門
審査員コメント▶実に楽しい作品です。桜花に囲まれて進む鉄道車両が撮れる最上のポイントを、探し出した作者の努力が実りました。こうした客観的必然性にプラスして、朝日の光線が花を射すという天気の偶然性(いや、計算されていたのかも)が、花の美しさをさらに盛り上げています。手前の花から車両、そして遠くの花にまでピントを合い、なおかつ走行する車両を明確に止められる速いシャッタースピードが功を奏しました。花に囲まれた隙間に、電車が顔を出した瞬間を写すタイミングの良さが、完成度を高めているのです。梅、あるいは桃の花の濃い紅色が、中央の主役である白い桜の美しさを引き立てています。右下方に白く光るレールが希望の明日へ誘うように、見る者を浮き浮きとした気分にさせてくれます。
北陸・信越部門
審査員コメント▶技術面からいえば、夜間撮影において、桜の淡紅色を美しく表現するのは大変に難しいことです。なぜなら、昼間の太陽光線ではなく、偏った発色をする人工照明に頼るからです。その点を克服して、桜を輝かせることに成功しています。この作品の一番の特色は、北極星を中心に回転するように星の軌跡が美しく描き出されていることです。このような技術は、一朝一夕に、いや一夜で習得できる技ではありません。芸術面では、星の美しさを見せつつも、あくまでも桜を主役としてしっかり表現されている点が重要です。作品の魅力としては、画面の右下方に少しだけ都会の風景が写っていて、単に桜と星との造形写真ではなく、風景写真としてのスケール感が巧みに表現されていることでしょう。桜咲く星夜のファンタジー世界に思わず引き込まれてしまいます。
東海・山梨部門
審査員コメント▶手前から乾いた石や眼前を流れる黒く引き締まった川の質感があり、白く波立つ急流、対岸の枯れ草と緑の草々、そして主役の桜、さらに残雪の富士山と5分割に構図された奥行きの深さを段階的に表現しています。それらの各パートにおける色の彩度、明度の高さが、ドラマティック、かつ明解な絵柄を生み出しています。芸術面では、やや屈み込んだアングルから撮っているので、川の白く波立つ瀬の動感や、桜並木のボリューム感、富士山のスケール感が折り重なって、絢爛豪華な世界を描き出しているといえます。この地を訪れれば、滔々と流れる瀬の音を聞きながら、対岸の美しい桜花を眺め、遠く富士の山を仰ぎ見ていられる――しばし俗世の憂さを忘れる、そんな幸せな気分にさせてくれます。
近畿部門
審査員コメント▶琵琶湖畔に植えられた一本の桜樹を背景としたシンプルな構図の作品です。しかし、なかなかどうして計算され尽くした技巧が見てとれます。水平線に広がる空を背景に淡い紅色の桜樹を大胆に写し込み、水面をバックに湖面に糸を垂らす釣り人を配置。昼前の時間帯、湖岸に桜樹の影が真っ直ぐ落ちたのを活かすべく、少し俯瞰したカメラアングルを選択した作者の力量・センスは抜群です。色彩のバランス感覚も申し分ありません。芸術面では、単純明快で静的な構図だからこそ、画面からすこぶる上品かつ上質な心が伝わってきます。この作品の魅力は見る者にして、一本の桜の下で湖面に向かってのんびりと、釣り糸を垂れている春の日の気分をそこはかとなく感じさせてくれるところでしょう。
中国部門
審査員コメント▶川の中央の水面近くから、川・空・岸辺の桜・アブラナ科の花、それらが映る水面をX字形に構図した大胆さが、迫力たっぷりのフレーミングにまとまっています。各々の要素を色鮮やかに写し出しているのは、PLフィルターを絶妙な加減で駆使したからでしょうか。技術力の伴った素晴らしい表現です。芸術面では、散った桜の花弁を左下部に写し込んで、時の移ろいも感じさせます。その花弁が、空の青さを反射させて、なんともいえない色味を帯びています。独自の豊かなセンスが滲み出ています。この作品を見ていると思わず堤防沿いの道からフェンスを乗り越え、川のそばに降りたくなりませんか。想像力をさらに働かせると、自分が川を泳ぐ魚か、または蛙か、さらに茶碗に乗って川を下る一寸法師にでもなった気分にさせてくれます。明るく、平和な世界が描かれており、見飽きることのない作品となっています。
四国部門
審査員コメント▶左手前に見える濃い紅色の里桜、下方に曲折する石畳の先の白色のソメイヨシノ。遠くの瀬戸内海や離島、そして白い雲を浮かべる青空、すべての配置がバランス良くまとまり、見事というしかない力量です。そして、それら被写体の共通性のない変化たっぷりの色彩が、絶妙な釣り合いを保っているのです。芸術面では、丘の上から望む雄大なスケール感が抜群で、一流の風景画に仕上げられていて、完成度の高い作品といえます。この作品を眺めていると、盛春の昼下がり、桜の園の石畳の道をたどり散策するという、楽しさを擬似体験させてくれます。この場合、人物が一人も写っていないのが幸いして、さらに画面の中へと没入できます。
九州部門
審査員コメント▶手前の桜、対岸の桜、そして遠くの山、空の雲、すべてにピントがシャープに合っていて、奥行き感を表現したパースペクティブ(透視図)描写に成功しています。それらすべての色彩が鮮やかに引き出されており、春の色合いの表現として美しい。さらに付け加えるなら、空の青、それを映す川面の青が脇役となり、桜の美しさを最大限に盛り立てています。芸術面では、完璧と言って良い正統派構図の作品であり、何度見ても味わい深く、見飽きることはありません。雲の粗密も独特の模様を描いていて、春の青空に妙味が加わっています。画面内に人の姿がまったく写っていないのは偶然なのでしょうか。桜花咲き乱れる、春うららの川のほとりを、独り占めして散策するという、この上ない喜びが、画面からひしひしと伝わって来る秀作です。
審査員コメント▶近景の桜から遠景の対岸まで、2つの被写体にピントを合わせ、奥行き感たっぷりに立体空間を結像させることに成功しています。また、中景の水面の映り込みが、対岸の見えていない上部までも構図に組み込んだ点も、遠近感に深みを与えていて効果的です。芸術面では、柔らかい光芒によって、画面全体が淡いパステル調にまとまり、春の麗かさがうまく表現されています。やわらかな風景を反射させた凪の水面は、まるで時が止まっているかのようです。この作品は、大きな画面・プリントであらためて鑑賞してみたいと思わせる秀作です。