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地球温暖化のウソ? ホント?(5)温暖化を止めるために「我慢しなくていい」って、本当?

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2024/03/30 05:01 ウェザーニュース

地球温暖化を食い止めるには「節電などのために我慢しないといけない」と思っていませんか? そのような我慢や辛抱抜きには対策はできないのでしょうか。

“答え”を気候変動問題の専門家である江守正多さん(東京大学 未来ビジョン研究センター教授/国立環境研究所 上級主席研究員)に聞きました。

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Q1/一人一人が節電して、エコバッグを持つような生活をすれば、温暖化は防げるの?

◆A/それらも大切なことですが、それだけでは不十分です。

「節電することやエコバッグ(マイバッグ)を持って買い物をすることは、もちろんよいことです。

個人が生活の中でできることはそれだけではありません。たとえば、『リサイクルを推進する』『ペットボトル飲料の代わりにマイボトルを携帯する』『自動車よりも自転車や公共の交通機関を利用する』『地産地消を心がける』ことなどもそうです。

地球温暖化と地産地消って、何が関係あるの? と思う人もいるかもしれませんが、海外産の食べ物は輸送するためにエネルギーを使いますよね。でも国産、できれば近場で作られた農産物などであれば、使われるエネルギーは少なく済みます」(江守さん)

個人でできることは、ほかに次のようなことがあります。
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▼白熱灯や蛍光灯をLED照明に買い換える
白熱灯や蛍光灯に比べて、LED照明は消費電力が少なく、排出する二酸化炭素も少ないです。さらにLED照明の寿命は長いという特長があります。

▼エアコンや冷蔵庫を買い換える
家の中で電気を特にたくさん消費している電化製品はエアコンと冷蔵庫です。たとえば、20年前の冷蔵庫を最新のものに買い替えた場合の電気代は、年間で約1万円も節約できます。電気代の節約は温室効果ガスの排出削減も意味しています。

購入する際はもちろんお金がかかりますが、長い目で見ると、お得になることもあります。

▼冷蔵庫の開閉回数を減らし、設定温度を適切に調整する
冷蔵庫の省エネ(省エネルギー)対策は、設定温度を適切にして、ドアの開閉回数や開けている時間を減らすことがポイントです。

周囲の温度が22℃の環境で設定温度を「強」から「中」にすると、年間で61.72kWhの省エネになり、電気代約1,910円の節約につながります(資源エネルギー庁「無理のない省エネ節約」より)。

また、冷蔵庫にモノを詰め込みすぎないよう注意しましょう。

これらのことをするだけでも、省エネ効果は大きく、二酸化炭素の排出量を減らせます。

「しかし、社会のすべての人が自主的にこれらを徹底して行うことを期待するのは、実際には難しいです。そして、もしそれができたとしても、残念ながら温暖化を止めるための排出削減量にはまったく足りないのです」(江守さん)

では、やっぱりもっともっと努力が必要で、我慢しなくてはいけないということなのでしょうか。

Q2/地球温暖化を止めるために、便利な生活をやめなくてもいいって、本当?

◆A/本当です。便利な生活を手放す必要も、ストイックに我慢する必要もありません。

「『温暖化を止めるためには、便利な生活を我慢することが必要だ、辛抱が大切だ』と思っている人が多いようですね。

『あなたにとって、気候変動対策は、どのようなものですか?』と尋ねた、2015年の国際的な調査によると、『多くの場合、生活の質を脅かすものである』と答えた人は世界平均で約27%だったのに対して、そう答えた日本人は60%もいました。

一方、『気候変動対策は、多くの場合、生活の質を高めるものである』と答えた人は、世界平均で約66%だったのに対して、そう答えた日本人は17%しかいませんでした」(江守さん)
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「この調査結果から、日本人は気候変動(地球温暖化)に対する対策をネガティブにとらえている人が多いことがうかがえます。しかし、温暖化対策をネガティブにとらえる必要もストイックに向き合う必要もないと、私は強く言いたいですね。

先ほど見たように、白熱灯や蛍光灯をLED照明に変えて、冷蔵庫の設定温度を適切にするだけでも地球温暖化を止める役に立つわけですから。

もちろん、夏の暑い日などにエアコンを適切に使うことはまったく問題ありません。我慢して使わず熱中症になったら、それこそ大変な事態です」(江守さん)

Q3/温暖化は個人のちょっとした努力と工夫で止められるの?

◆A/残念ながら個人の努力や工夫だけでは十分ではありません。社会の仕組みを変える必要があります。

「温暖化対策をネガティブにとらえる必要はないし、ストイックな生活を送る必要もないとは言いましたが、今まで見たような方法だけで温暖化を止められるわけではありません」(江守さん)

では、どんなことをする必要があるのでしょうか。

「ここからは大きな話、というか、世の中の仕組み、システムの話をします。仕組みやシステムを変えようという話です。

私たちが生きている21世紀、令和の時代の社会は、大量のエネルギーを必要としています。便利な暮らしはエネルギーの大量生産と大量消費を前提にしていて、これによって、二酸化炭素が大量に排出され、この二酸化炭素が主に温暖化をもたらしています。

快適で便利な暮らしを追求すると、相当なエネルギーが使われることは仕方がない、となると社会の仕組み自体をエネルギーを使っても二酸化炭素が出ないように変えればよいのです」(江守さん)

なるほど、と膝を打ったものの、どうやって?

「エネルギーを太陽光発電、太陽熱の利用、風力発電、水力発電、地熱発電、バイオマス発電といった再生可能エネルギーで供給すれば、エネルギーをどんなに使っても、二酸化炭素は排出されないですよね。

たとえば、再生可能エネルギーを使って電気自動車を何万台走らせても、二酸化炭素は出ないから、それによって地球を温暖化させることにはならないのです」(江守さん)
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これは夢のある話で、明るい未来が開ける話でもあるように思いますね。

「もちろん、エネルギーを今すぐに100%、再生可能エネルギーに変えることは現実的ではないし、いろいろな問題も起きています。

たとえば、日本では、森林を伐採して、太陽光パネルをたくさん並べる太陽光発電が増えましたが、それによって、環境が破壊され、土砂崩れの危険が増したという問題も起きました。

再生可能エネルギーで作った電気は高く売れるというルールができて、乱開発が起きてしまったのです。また、利用者の電気代が上がるという問題も起きました。

そうした問題や課題もあるのですが、修正、改善しながら、再生可能エネルギーへの移行を進めていくことが大切です。

さらに、エネルギーの大量消費自体も、省エネ製品を普及させる仕組みを作るなど、社会の仕組みの変化によって減らしていくことができます」(江守さん)

Q4/私たちが世の中の仕組みを変えられるって、本当?

◆A/本当です。2022年には地球温暖化対策に貢献する法改正を市民が後押しした例もありました。

日本は民主主義の国。ということは、世の中の仕組みを民意で変えられるはずですね。温暖化対策についても、民意で変えることができるのでしょうか。

「できますよ。参考になる、よい事例があります。2022年6月、温暖化対策に不可欠な新築の建物の断熱基準を義務化する、改正建築物省エネ法という法律(正式には、脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律)が国会で成立したのです。

これによって、今後、家を建てる場合は、省エネ住宅にしないといけなくなりました。二酸化炭素排出の削減に自動的につながる仕組みが一つできたといえます。

この改正には、一部に根強い抵抗があったようですが、市民が声を上げて、署名活動を行いました。地元選出の議員に意見を言ったり、彼らに専門家の話を聞いてもらったりした結果、法案は速やかに可決して、成立しました。市民の意思と行動が法案の成立を後押ししたと思いますね」(江守さん)

地球温暖化を止めるために、ほかに大切なこととして、江守さんは次のようなことを挙げます。

▼周囲の人と地球温暖化について話す
家族、友人、同僚などと、まずは話題にすることが大切です。SNSなどで発信するのもよいでしょう。

▼地球温暖化のニュースをチェックする
ニュースアプリや新聞などで、地球温暖化に関する最新の情報に触れましょう。

▼環境に配慮した企業の商品を選んだり、応援したりする
温暖化対策に積極的に取り組んでいる企業があります。RE100(事業に使う電気を再生可能エネルギーで100%まかなうことを目指す企業など)やJCLP(持続可能な脱炭素社会の実現を目指す日本の企業グループ)などに加盟している企業をチェックするのもよいでしょう。

▼選挙のときに候補者に意見を尋ねる
国政選挙、地方選挙問わず、立候補者に温暖化対策についての意見を聞いてみましょう。実際に京都市長選挙のときに、大学生や高校生といった若い人たちが立候補者に気候変動対策を尋ねて、その回答などをインターネット上に公開したこともあります。

「『石器時代が終わったのは石がなくなったからではない』という、サウジアラビアの石油大臣を務めた人物の名言があります。

これは青銅器や鉄器が出てきて、これらのほうがよいから、これらに変わっていったということです。とても含蓄(がんちく)のある言葉だと思います。

同じように、再生可能エネルギーという次世代のエネルギーが出てきたのだから、化石燃料に頼る時代から卒業して、『次の時代へ行こう』と提案したいですね」(江守さん)

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地球温暖化対策は必ずしも「我慢」が必要なものではありません。江守さんは、地球温暖化に関心をもって、身の回りのできることから取り組み、世の中の仕組みを変えていくことが大切だと解説しています。

ウェザーニュースでは、気象情報会社の立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、さまざまな情報をわかりやすく解説し、みなさんと一緒に地球の未来を考えていきます。まずは気候変動について知るところから、一緒に取り組んでいきましょう。

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監修/江守正多
東京大学 未来ビジョン研究センター 教授。国立環境研究所 地球システム領域 上級主席研究員