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なぜ、”気象変動”とは言わないの?
「気象」と「気候」の違いとは

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2024/01/22 05:03 ウェザーニュース

近年はニュースなどで、「気候変動」という言葉に触れる機会が増えています。気候変動とは、一般的に気温などの気象の変化を指しますが、「気象変動」とはいいませんね。

「気象」と「気候」。よく似た言葉ですが、実は意味するところは異なります。

今回は「気象」と「気候」について、ウェザーニュースLiVE「地球天気予報」の解説を務める、ウェザーニュース予報センターの森田清輝(以下、モリタ)と一緒に考えてみました。

「雨模様」の意味をご存じですか?

天気予報の世界では情報を正しく伝えるために、言葉のセレクトに一定のガイドラインがあるのをご存知でしょうか。

「曖昧性を可能な限り排除する目的のガイドラインで、例えば〈雨模様〉があります。広く使われる言葉ですが、天気予報にはあまり出番がありません。

この言葉の正しい意味は〈曇り空で雨になるかもしれない天気〉、つまり〈雨が降りそうな様子〉です。しかし、文化庁が行っている〈国語に関する世論調査〉の結果では、多くの人が〈小雨が降ったりやんだりしている様子〉と捉えていることがわかりました。

世代によってもこの言葉の正答率は異なり、70代以上では約46%が正しく理解しているのに対し、50代では約26%です。

つまり〈雨模様〉は捉え方が曖昧なため、天気予報向きの言葉ではないのですね」(モリタ)

短期間が「気象」、長期間が「気候」

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「雨が降りそうな様子」と「小雨が降ったりやんだりしている様子」では、だいぶ意味が違います。「気象」と「気候」についても同じことが言えるのでしょうか。

「〈雨模様〉のように意味合いが異なるわけではありません。同じ大気の状態を指す言葉ですが、観測のスパンが違うのです。気象は短時間、気候は長期間をカバーする言葉です。

例えば、私たちが毎日見ている気象予報は、主に今日や明日の天気を扱っています。つまり、1日とか1時間とか、もっと細かいと10分などの大気の状態です。

では、この1週間や1か月間の傾向はどうでしょう。晴れた日もあれば、地域によっては雪の降った日もありましたよね。皆さん自然と、ここ1週間や1か月間の気温や天気を統計して考えたんじゃないでしょうか?

さらに進んで、この1年間の傾向はどうでしたか? 今年はまだ始まって1か月も経っていないので、2023年で考えてみましょう。やはり夏の暑さが印象に残っている人が多いのではないでしょうか。だいたい1年間の大気の状態を統計して考えています。

では、最後に、ここ数年はどうでしょうか? こう聞かれるとこのように答える人が多いのではないですか?

『近年はいつも暑い』『近年は雨が多い/激しい』。これは、数年から数十年くらいの大気の状態を統計して考えた場合ですね。

1日単位で見た時は気象でした。これを、どんどん長くしていきましたね。長い期間を統計して見てみる、この視点が気候です。

毎年の変化の中には、もちろん暑い年もあれば、寒い年もある。雨が多い年もあれば、少ない年もある。これは自然の変化として当たり前のことです。それらを統計してみると"大体このくらい"というのが気候の目線なのです。

このような傾向を何十年も集めると、過去の『大体このくらい』と現在の『大体このくらい』が変わってきます。そして、将来の『大体このくらい』も大きく変わってしまいます。これが気候変動です」(モリタ)

気候が変わると風土も変わる

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地球温暖化によってコメの栽培適地が変わるおそれも
気候変動は私たちの「暮らし」にも大きな影響を及ぼします。

「私たちの風土は、日本特有の気候や地勢などの上に作られています。そのため、地球温暖化が進むと、これまでの風土のもとで定着した文化や地場産業などが失われるおそれがあるのです。

例えば漁労。日本近海は黒潮・親潮・対馬暖流の3潮流に囲まれ、沿岸部では地域色豊かな漁業が行われてきました。エリアや季節によって水揚げが異なるため、日本独自の多様な魚食文化が育まれてきました。

しかし、地球温暖化によって流路の変化が懸念されています。秋の風物詩として食卓を飾ってきたサンマ(秋刀魚)の漁獲量は近年激減し、その一因が地球温暖化による海水温の上昇とみられているのです。

その他、冷水性のサケやスルメイカの水揚げも減少傾向に。反対に暖水性のブリなどは生息域が北上しています。

漁労に限らず、コメやリンゴ、ミカンなどの農業分野でも、温暖化によって栽培適地が変わりつつあります。

日本の農業は、独自の気候的特性を活かして、適地適作で特産品づくりに取り組んできましたが、地球温暖化が進行すると、その『適地』に変化が起きることが懸念されているのです」(モリタ)

地球温暖化の進行は、私たちが長い時間をかけて育んできた環境を脅かしつつあります。未来の地球を守るためにも、まずは気候変動問題に関心を持つことから始めてみませんか。

ウェザーニュースでは、気象だけでなく、気候に関する情報も積極的に発信しながら、持続可能な社会の実現に貢献していきます。


▶ 森田 清輝(もりた きよてる)

ウェザーニュース予報センター所属のベテラン気象予報士。現在は、24時間生放送の気象情報番組ウェザーニュースLiVEで「地球天気予報」コーナーの解説を務める。


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