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医師と気象予報士のタッグで実現した「天気痛予報」開発の裏側とは

のべ15.8万人の症状報告と気象データとの関係を徹底分析

2022/06/22 12:12 ウェザーニュース

天気や気圧の変化によって引き起こされるという頭痛などの体の不調「天気痛」。
天気痛のリスクを予測するウェザーニュースの「天気痛予報」はどのようにしてできたのか。開発までの道のりを、ウェザーニューズ予報センターで天気痛予報を担当する大塚靖子(おおつか やすこ)気象予報士に聞きました!

開発のきっかけは「社員の気付き」

天気図には現れない微細な気圧の変動を観測

「2011年に気圧のセンサーが搭載されたスマートフォンが発売されて、0.02秒間隔で気圧の計測ができるようになり、社員が色んなところで気圧を測りまくっていたんです」(大塚さん)

地下鉄の中で測ったり、エレベーターに乗って測ったり、時には台風の眼の中に入って測ったり…とにかく様々な所で気圧を測っていたといいます。
気圧を細かく測っていくと、天気予報で用いるよりもっと短い周期の気圧の波が観測でき、特に台風が来る前には、振幅はとても小さいものの周期性のある気圧の変動があったそう。

「その時に、周りでちらほら「頭が痛い」や「なんか調子が悪い」と不調を訴える社員がいて、「気圧の変化と体調に何か関係がありそうだ」という仮説が浮上しました」(大塚さん)

さらに検証を進めるため、「血圧も気圧と同じ圧力の仲間だから」と血圧計を巻いて電車に乗り、血圧の変化と気圧の変化を見比べた社員もいたそうです。
調査を進める中で気圧医学の第一人者である佐藤純医師の本に出会い、2018年から佐藤医師との共同開発を開始します。

ユーザーの症状報告を徹底分析

「ウェザーニュース」アプリのユーザーを対象にアンケートを実施

気圧と体調の関係を探るために、まずはスマホアプリ「ウェザーニュース」を通じて体調に関するアンケートを行い、のべ15.8万人のユーザーの皆さんから症状の報告を集めて分析しました。

すると、台風本体が接近する2〜3日前から痛みや体調不良を感じる方がいることが明らかになります。この結果は、気圧が大きく変化する前の晴れている時から発症するという佐藤医師の患者さんとの訴えとも一致していました。
台風本体が接近する2〜3日前から不調を感じる方が増加

さざ波ののように押し寄せてくる「微気圧変動」

「積乱雲や、低気圧や台風などの積乱雲の塊の周辺には小さな気圧の変動「微気圧変動」が伝播していて、大気の条件によって遠くまでさざ波のように押し寄せてきます。この「微気圧変動」が関係しているのではないかということがわかりました」(大塚さん)
日本の南の海上から微気圧変動が伝播してくる様子
(左図:微気圧変動を可視化したもの、右図:天気図)

1日2回の周期で繰り返す「大気潮汐」

さらに「決まった時間に度々頭痛がする」という患者さんの訴えについても分析を進めると、1日2回の周期で繰り返す「大気潮汐」が関係するのではないかということがわかってきました。

「「大気潮汐」は、太陽の光が地球の大気を暖めることで起こる周期的な気圧の変動で、12時間周期で決まった時間にアップダウンを繰り返す気圧の波として観測されます。この「大気潮汐」の変動幅が通常よりも大きくなった時に、痛みや不調の原因になると考えています」(大塚さん)
ウェザーニュースの天気痛予報では、天気図に現れるレベルの気圧の変化のほか、微気圧変動と大気潮汐の3つの要素から、天気痛予報のリスクを算出しています。

2年の歳月をかけて完成した「天気痛予報」

一躍人気の機能へ

佐藤医師との共同開発を開始してから2年、ついに2020年3月に「天気痛予報」をリリースします。リリース以降、多くの方にご利用いただき、アプリの人気機能の一つに仲間入りしています。特に2020年6月のアップデートで登場した「天気痛アラーム」の登録者は現在約30万人にものぼります。

「天気痛の症状に悩まれている方の多さを感じています。天気痛は、その症状で生活に大きな影響が出てしまいます。人によっては1日寝込んでしまったり、やりたいことができなかったり。「天気痛予報」を通じて、快適に過ごせる日を少しでも増やすためのお役に立てたらと思っています」(大塚さん)

症状の分析で、よりパーソナルな予報へ

2年間で蓄積したデータを分析中

現在、大塚さんはこの2年で蓄積してきたユーザーからの症状報告を分析中。
大きな気圧の変化で症状が出やすい方、大気潮汐で発症する方、微気圧変動で症状が起きやすい方、どれにも当てはまらない方など、人によって様々だと言います。

「嬉しいことに「当たっています」「助かっています」という声も多くいただいています。ただ、症状には個人差があり、ご自身の症状と合わないとフィードバックをいただくこともあります。今はより多くの方が症状を感じる基準で予報をしていますが、今後は個々の症状に合わせたよりパーソナルな予報にしていきたいと思っています」(大塚さん)

天気痛予報を参考に事前の対策を!

セルフチェックシートでご自身の症状を分析

天気痛予報では、天気痛のリスクを3時間ごとに「安心」「やや注意」「注意」「警戒」の4段階で表示しています。
ご自身の体調変化などのパターンと照らし合わせて、天気痛の発症する前に予防薬やマッサージなどで対策をしてみてください。

また「もしかしたら天気痛かも」という方には「天気痛チェックシート」がおすすめ。

10個のチェック項目で、天気痛の可能性を3段階で診断します。天気痛ドクター・佐藤純医師からの詳しい解説も見ることができます。ぜひ一度お試しください。

佐藤純医師(天気痛ドクター)と共同開発

この天気痛予報は気圧医学の第一人者である、佐藤 純(さとうじゅん)医師と共同開発しています。

佐藤 純(さとうじゅん):医師/医学博士、愛知医科大学痛みセンター客員教授、中部大学生命健康科学部教授、パスカル・ユニバース(株)CEO

1987年 名古屋大学大学院医学研究科修了
1987年-1991年 米ノースカロライナ大学留学
名古屋大学助手、准教授を経て、2013年 同大教授
2016年より愛知医科大学客員教授
2018年より中部大学教授(兼任)

気象変化と慢性疼痛、自律神経の関係が専門
愛知医科大学病院 痛みセンターにて 2005年より天気痛・気象病外来を開設
気圧医学の第一人者、日本疼痛学会理事、日本運動器疼痛学会理事、日本生気象学会理事などを歴任
天気痛ドクターとしてTV、雑誌等マスコミで活躍中、著書多数