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最初は黒と赤の2色のみだった? 鯉のぼりの3つの秘密

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2022/05/04 11:56 ウェザーニュース

おだやかな空に鯉のぼりが高く舞っています。明日、5月5日は端午(たんご)の節句です。女児の桃の節句(3月3日/ひな祭り)とともに、男児のすこやかな成長と健康を願う伝統行事です。

端午の節句は、童謡や唱歌などに歌われて親しまれてきました。でもどのような伝統行事? と改めて問われると、正確に答えられる人は少ないかもしれません。この点について、熟練した職人の手で五月人形やひな人形を制作している秀光人形工房(東京都江戸川区)に話を伺いました。

そもそも端午の節句・桃の節句の「節句」とは、中国の自然哲学である陰陽五行説に由来する季節の変わり目のことです。これは1月7日の「人日(じんじつ)」、3月3日の「上巳(じょうし)」、5月5日の「端午」、7月7日の「七夕」、9月9日の「重陽(ちょうよう)」の五節句が定められ、奈良・平安時代から貴族階級の間に定着していきました。

中国の龍門伝説から生まれた鯉のぼり

旧暦の〈端午〉は気温差が激しく、人々が病気にかかりやすい季節だったそうです。

「このため古くから薬効が強く魔除けに使われた菖蒲(しょうぶ)を家に飾り、菖蒲酒を飲む風習がありました。同時に邪気を遠ざける意味合いから座敷に武具を飾り、外には戦場で士気を高めた吹き流しを立てました。これが端午の節句の始まりです」(秀光人形工房)

端午の節句は江戸時代になると、武家社会に広く浸透していきます。「菖蒲」の音が「尚武」(武芸を尊ぶこと)に通じるとして重んじられたためだといいます。

もともと武家社会には、男児が生まれると旗指物(はたさしもの)や幟(のぼり)を立てる風習がありました。これが鯉のぼりに変化したのは、「黄河上流の龍門の滝を登った鯉は龍となる」とされる中国の龍門伝説に由来するそうです。つまり鯉は立身出世の象徴として尊ばれ、武家社会では子供の成長を鯉に託したというわけです。

「近世、男児の成長を願う風習は、武家社会から庶民階級にも広がっていきます。庶民は甲冑や武具を持てませんので、紙や木材で模して家に飾りました。

これがしだいに小型化して精巧になり、武者人形=五月人形へと変化。端午の節句の〈内飾り〉となったのです。立身出世を願った鯉のぼりも〈外飾り〉として定着して今日に至っています」(秀光人形工房)

鯉のぼりは真鯉と緋鯉の2色のみだった!?

♪屋根より高い鯉のぼり
 大きい真鯉はお父さん
 小さい緋鯉は子供たち
 おもしろそうに泳いでる♪

これは誰もが口ずさんだ端午の節句の童謡「こいのぼり」の歌詞です。でもちょっと不思議に思われませんか? なぜ、お母さん鯉が出てこないのでしょう。

「現在の鯉のぼりは、緋鯉がお母さんを表現しています。つまり黒=お父さん、緋=お母さん、青=子供という色分けです。

確かに童謡に歌われていないのが不思議ですね。ですが、この童謡が作られた明治時代、現実には青い鯉が存在しないため、鯉のぼりは真鯉と緋鯉の2種類しかなかったのです。それに明治時代は厳然とした父長制の時代です。母親の入る余地はなかったのかもしれません」(秀光人形工房)

秀光人形工房によると、現在のカラフルな鯉のぼりが生まれたのは戦後、それも1964年の東京オリンピックが契機ということです。

「黒・緋、これに青・緑など様々な色が加わったのは、五輪マークの五色のシンボルからヒントを得た若手職人のアイデアだといわれています。

ちなみに、『次男や妹が生まれたらどうすれば良いか』という質問をいただくこともありますが、最初のセットにはない緑などの色を足すことをお勧めしています」(秀光人形工房)

先端に付いている飾りの正体

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先端にある「矢車」と「籠玉」(回転球)
もう一つ。鯉のぼりには不思議な飾りが付いています。上部で回転する風車みたいな「矢車」、それに最上部の「籠玉」(回転球)です。

「これは〈招代〉の代わりに付けられたものです。階級社会であった江戸時代には、上流階級でないと招代を付けることが許されませんでした。

しかし、何も付けないわけにはいかないので、神棚に上げるお榊や杉の葉をてっぺんに結わえて代用し、庶民階級が豊かになってくると、丸い籠玉を揚げるようになりました。そして華やかな矢車が生まれると、一気に主流となって今日に至っているのです」(秀光人形工房)

こうして鯉のぼりの発生や変遷を見てくると、お子さんのいる家庭で揚げられる鯉のぼりに対する見方が変わってきます。大空を泳ぐ鯉のぼりには、日本人の自然観や価値観が表現されているのです。大切にしていきたい文化ですね。

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参考資料など

取材協力/秀光人形工房(https://www.hinakoubou.jp/)