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秋の夜長に「紅葉百人一首」5首
平安時代の雅な自然観

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2021/10/31 08:14 ウェザーニュース

秋が深まると、紅葉を愛(め)でたくなってきませんか? 紅葉に惹きつけられるのは、古(いにしえ)の人々も同じだったのでしょう。

たとえば、鎌倉時代前期の歌人、藤原定家(ふじわらのていか/さだいえ)撰の「百人一首」には、紅葉そのものを詠んだ歌が5首載っています。

この「百人一首」は藤原定家が京都の小倉山(おぐらやま)の山荘で撰したため、「小倉百人一首」とも呼ばれます。

「百人一首」に載っている「紅葉の歌」を見ていきましょう。
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これらの短歌の「紅葉」はすべて「もみじ」と読みます。和歌の次には、作者名と出典を載せています。

【1】奥山に 紅葉踏み分け 鳴く鹿の 声聞くときぞ 秋は悲しき

▼猿丸太夫(さるまるだゆう) 『古今和歌集』

▼訳:奥深い山で紅葉を踏み分けながら鳴く鹿の声を聞くとき、秋はひときわ物悲しく感じられる

▼解説:紅葉を踏み分けているのは人(作者)、鹿、その両方とする説があります。

鳴いている鹿は牡鹿(おじか)です。オスがメスを求めて鳴いているのです。

一面に降り積もった紅葉と物悲しく響く鹿の鳴き声。作者同様に、そこに秋の悲しさや寂しさを感じる人も多いのではないでしょうか。

【2】このたびは 幣(ぬさ)もとりあへず 手向山(たむけやま) 紅葉の錦 神のまにまに

▼菅家(かんけ) 『古今和歌集』

▼訳:今回の旅では、幣を用意できておりません。代わりに、手向山の紅葉を神に捧げますので、神の御心(みこころ)のままにお受け取りください

▼解説:作者の菅家は菅原道真のことで、彼が宇多上皇のお供をして奈良に行ったときに詠んだ歌です。

「幣」は布や紙などを細かく切ったもので、神に捧げられました。

「手向山」は、京都から奈良に抜ける途中にあった山とも、固有名詞ではなく、神に「手向け」をする山の意ともいわれます。

このときの旅は突然のことだったのでしょう。神に捧げる幣が用意できていないので、代わりに紅葉を神に捧げます、と道真は詠んでいます。「紅葉の錦」は、美しい紅葉を錦織に見立てた表現です。

山、そして、自然への畏敬の念が感じられる歌です。

菅原道真はこののち、九州の太宰府に流され、失意のうちに没しました。

【3】小倉山 峯(みね)の紅葉葉(もみじば) こころあらば 今ひとたびの みゆき待たなむ

▼貞信公(ていしんこう) 『拾遺和歌集』

▼訳:小倉山の峰の紅葉よ、もしおまえに心があるのなら、どうか、もう少し、次の行幸(みゆき/ぎょうこう)まで散らずに待っていてほしい

▼解説:作者の貞信公は藤原忠平のことです。彼は摂政、関白、太政大臣を務め、藤原氏全盛の礎を築きました。

藤原忠平は宇多上皇のお供で大堰川(おおいがわ)に出かけたことがありました。その際、「この美しい紅葉を息子の醍醐天皇にも見せてあげたい」との宇多上皇の言葉を受けて、藤原忠平が詠んだ歌です。

「どうか、もう少し、散らずに待っていてほしい」と、藤原忠平は紅葉に語りかけ、祈っているのでしょう。

擬人化した自然に向き合う姿には、忠平の、さらには、日本人の自然観が表れているのではないでしょうか。

【4】山川に 風のかけたる しがらみは 流れもあへぬ 紅葉なりけり

▼春道列樹(はるみちのつらき) 『古今和歌集』

▼訳:山の中の川に風がかけたしがらみとは、流れきれずにたまっている紅葉だったのだな

▼解説:「山川」は「山の中を流れる川」のことで「やまがわ」と読みます。「やまかわ」と読むと、「山と川」の意味になってしまいます。

「しがらみ」は、水流をせき止めるために、川の中に打ち並べた杭(くい)の横に木の枝や竹を結びつけたものです。

ここから転じて、「世間のしがらみ」「人間関係のしがらみ」など、まつわりついて離れないものにも使われるようになりました。

しがらみは本来、人間が作るものですが、春道列樹は風がしがらみを仕掛けたと詠んでいます。

紅葉が川の途中でせき止められている。それを「風のしわざ」と感じる感性はどこか優雅です。

【5】嵐吹く 三室(みむろ)の山の 紅葉葉(もみじば)は 竜田(たつた)の川の 錦なりけり

▼能因法師(のういんほうし)『後拾遺和歌集』

▼訳:嵐が吹き散らす三室山の紅葉は、竜田川の川面(かわも)を彩る錦の織物だったのだな

▼解説:三室山(別名/神南備山=かんなびやま)は今の奈良県生駒郡斑鳩町(いこまぐんいかるがちょう)竜田にある山で、竜田川は今の奈良県北西部を流れています。

この歌は実際の景色を詠んだものではないといわれます。三室山の紅葉が竜田川に流れ込むのは、地理的にありえないと考えられるからです。

虚構であっても、川面に浮かぶ彩り豊かな美しい紅葉が目に浮かぶほど、輝きのある歌です。


紅葉を目にしたら、古の歌を思い浮かべてみるのも楽しいでしょう。もちろん、自作の歌を詠んでみるのもよいでしょう。

深まる秋をいろいろな形で満喫したいものです。
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参考資料など

『百人一首 今昔散歩』(著者/原島広至、中経出版)、『一冊でわかる百人一首』(監修/吉海直人、成美堂出版)、『百人一首(全) ビギナーズ・クラシックス 日本の古典』(編集/谷知子、角川学芸出版)、『百人一首が面白いほどわかる本』(著者/望月光、中経出版)、『齋藤孝の親子で読む百人一首』(著者/齋藤孝、ポプラ社)、『眠れないほどおもしろい百人一首』(著者/板野博行、三笠書房)