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写真家・水野克比古氏に教わる、桜写真の簡単撮影テクニック

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2024/03/30 09:00 ウェザーニュース

寒の戻りで桜の開花が平年より遅れていましたが、今週末から来週にかけて西日本や東日本では開花ラッシュとなりそうです。

春のシンボルともいえる桜の写真をより美しく撮影するにはどうしたらいいのか。桜の名所として知られる京都をテーマにした写真集を多数出版する「京都写真」の第一人者・写真家の水野克比古さんに「桜写真の簡単撮影テクニック」を解説して頂きました。
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「順光がよし」は過去の話!?

ウェザーニュースが「お花見する時間帯」に関するアンケート調査を行なったところ、「昼間」が78%で、「夜」(13%)や「朝」(9%)を大きく上回りました(2024年2月27~28日実施、9,553人回答)。

日中にお花見する人がダントツで多いという結果でしたが、日中は光の強い時間帯になります。桜を撮影する際には、この光が大きなポイントとなるようです。

「京都が名所として知られている紅葉と同じように、やはり桜を撮影する際にも『光』を意識することが大切です。

昔は太陽を背にして被写体にレンズを向ける『順光』がよしとされていました。しかし、近年はレンズの多層膜コーティングの技術が進み、レンズ内の乱反射も少なくなっています。

そのため、太陽に相対する『逆光』の状態でもハレーションやゴースト(円形の光の帯)が生じにくく、桜の美しさを写し取れるようになりました」(水野さん)

幹によりそうように撮影して透過光を捉える

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透過光で撮影した作例(鴨川の山桜)
逆光でも美しい写真が撮れることを生かすためには、具体的にどのような撮影ポイントを見つけるのがいいのでしょうか。

「立入禁止の場所に入らない、桜の根を踏まない、ほかの人の邪魔にならないように注意することは最低条件ですが、そのうえで、できる限り桜の花びらに近づき、幹によりそうような心持ちで撮影することです。

桜は崖や堤防を強化するために植えられていることが多く、アプローチも坂になっていて近づきにくいことが多いのですが、道路の近くに枝を広げている箇所も少なくありません。

そこから枝の間や花びら越しに透ける、太陽の『透過光』を上手に捉えることで、桜の姿が浮き立って見える、美しい姿を撮影することが可能になります」(水野さん)

光を通しやすい桜の種類とは?

桜にもさまざまな種類がありますが、花びらが光を通しやすかったり通しにくかったりするものがあるのでしょうか。

「ソメイヨシノやシダレザクラや山桜などの桜は花びらが薄く、透過光を通しやすい種になります。

これに対して遅咲きのヤエザクラは花びらが厚いので、ソメイヨシノなどと比べて透過光が通りにくい種です。それらの特徴をよく理解して、透過光がつくる桜の美しさを捉えてみてください。

江戸時代の国学者・本居宣長(もとおりのりなが:1730-1801年)の和歌に、『敷島の大和心を人とはば朝日に匂う山桜花』(一部現代語表記に書き換え)という有名な作品があります。『日本人である私の心とは、朝日に照り輝く山桜の美しさを知る、その麗しさに感動する』という意味で、私の好きな歌です。

桜の花びらに近づいてみると、この歌が思い出されて、すがすがしい気持ちにさせられます。透過光を効果的に使い、桜の美しさに感動した気持ちを自身の作品で表現してみてください」(水野さん)

「マジックアワー」の最高の瞬間

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マジックアワーに撮影した作例
具体的に「光」を効果的に用いるためのテクニックを、水野さんの作例の比較により解説して頂きました。

まず、紅葉はもちろん桜の名所としても知られ、常に多くの観光客でにぎわう渡月橋(とげつきょう)の桜の情景です。

渡月橋の名は鎌倉時代、東山から昇り嵐山に沈む月を眺めた亀山上皇(90代天皇、在位1260-1274年)が、『くまなき月の渡るに似る』と感銘したことが由来とされています。

「ある年の3月末の夜明け前、午前5時台に十五夜の満月が嵐山に沈む様子と、ソメイヨシノの満開が終わりかけた頃を合わせて、渡月橋の左岸側から撮影したものです。

日の出と日の入り前後は『マジックアワー』『ブルーアワー』とも呼ばれ、空の光の状態が大きく変化する時間帯です。月と桜をともに美しく撮影するためには、暗いとだめですし、明るすぎても月が『昼行灯(ひるあんどん)』のようにぼんやりして存在感がありません。

同じマジックアワーでも、左の作例は渡月橋を強調するために、より明るい日の出の時刻に近い時間帯で撮影しました。一方の右の作例は、その20分ほど前に撮影したものです。写真全体を暗いイメージにすることで、より桜が強調されます。

渡月橋の日の出は東山にさえぎられて、いわゆる『京都の日の出の時刻』より15分ほど遅れ、この日は5時50分頃でした。

マジックアワーといえるのはその40分前から10分前ぐらいまでの間ですので、そのなかで最高の光の状態になる瞬間を捉えるのは難しいのですが、実におもしろいものです。ぜひ挑戦してみてください」(水野さん)

右の作例では、桜の右側がより明るく見えますが、なぜでしょうか。

「当日の『あるがまま』といえる状態で、街灯や交差点の信号機の光が当たっているからです。

なお、撮影時にフラッシュをたくことは絶対にNGです。渡月橋は人気の桜の撮影スポットですので、夜明け前でも数十人が集まっていることも少なくありません。ほかの撮影者の障害になりますし、桜の花びらも真白く飛んで写ってしまいます」(水野さん)

次の満月は4月24日でウェザーニュースの嵐山の満開予想日は4月2日なので、今年2024年は満月と満開の桜との共演は難しそうですが、桜と月と渡月橋のコラボに挑んでみてはいかがでしょうか。

同じ構図でも色温度の設定で雰囲気が一変

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色温度の設定を変えた作例。右の写真はケルビンを上げている
次の作例は南側のほとりにあるヤマザクラで、例年多くの花見客を集める広沢池(ひろさわのいけ、右京区嵯峨広沢町)の早朝の風景です。

青みがかった左の作例写真と、桜や山並みなどの風景が鮮やかに見える右の写真は同じ時間に撮影されたそうですが、どのようなテクニックでこれだけの差が生じているのでしょうか。

「右の写真は色温度、ケルビン(K)ともいいますが、その数値を上げた設定で撮影したものです。

左の写真(青い方)が約4000Kに設定しているのに対し、右の写真(赤い方)は5500Kほどです。カメラの設定でいうと、前者は蛍光灯に近く、後者は太陽光に近いモードです。

この数値を大きくすると青系統に比べて赤や黄色系統の色合いが強調されます。そのため、桜の花びらや日差しの色がより鮮やかに写るのです。

数値が小さいと青みが強調されて幽玄な雰囲気を醸し出します。夜明け前の冷たい雰囲気を表現できますが、全体的に暗く沈みがちで、桜の花は見えにくくなります。

一方、数値を上げると同じ露光セッティングで撮っていても明るい写真に感じ、桜の細部も見えてきます。桜や夜明けの美しさを強調したいなら、ある程度暖かみのあるホワイトバランスで撮影するのが有効です。

撮影の際にはモニターで仕上がりを確認しながら色温度を適宜調整してみるといいでしょう。細かく設定できないカメラの場合でも、ホワイトバランスの設定を『太陽光』や『曇り空』に合わせると、同様の効果が得られます」(水野さん)

一瞬のベストタイミングを捉える即応性と、カメラがもつ機能性を理解して、自分なりのすばらしい桜の写真撮影にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
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