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三角形の珍しい形をしている理由は? 6月の和菓子「水無月」の深い意味

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2023/06/16 05:00 ウェザーニュース

6月16日は「和菓子の日」です。四季がはっきりした日本では、各地の職人がそれぞれの季節感を表した伝統的な菓子作りを続けてきました。

古くから多種多様な和菓子が生み出されてきた京都には、6月の和名をそのままに称した「水無月(みなづき)」という銘菓があり、6月30日にこれを味わう伝統があるそうです。

水無月とはどんな和菓子でどのような由来をもつのかについて、1716年創業の京菓匠「笹屋伊織」(本店・京都市下京区)に伺いました。

氷をイメージした珍しい形の和菓子

水無月は京都が発祥と聞きました。三角形に小豆を載せた姿のポスターを目にしたこともありますが、形の由来や素材はどのようなものなのでしょうか。

「和菓子は円形や四角形のものがほとんどですが、水無月は三角形の珍しい形をしています。これは、氷をイメージして作られたことによるものです。

6月に氷は意外だと思われるでしょう。私たちはいまでこそ冷蔵庫などで氷を簡単に手に入れることができますが、昔の人たちにとっては暑い時季の氷というのはとてもぜいたくな品だったのです。

宮中などの高貴な方々は、冬場に近郊各所に設けられた氷室(ひむろ)に保存しておいた天然氷を頂くことができました。室町時代には宮中で、旧暦の6月1日に『氷の節句』『氷の朔日(ついたち)』と呼ばれる行事が行われ、氷室から献上された氷を味わって暑気払いとしていたそうです。

しかし、一般の人たちは夏場に氷を見ることも、ましてや食することなどできません。そこで、白いういろうを氷のかけらに見立て、上に小豆を乗せた三角形の水無月が考え出されたわけです」(笹屋伊織)

氷に似せたういろうや黒糖の生地に小豆が載っているのは、どのような理由からなのでしょうか。

「小豆の赤い色には邪気を払う厄除け・魔除けの意味があるほかに、栄養豊富な食材です。暑いこの時季に夏バテをしないようにという思いから、小豆を載せるようになったといわれています」(笹屋伊織)
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暑い夏場に「涼」を感じられるよう氷をイメージして作られた

「夏越の祓」の6月30日に食べる

京都の人たちは水無月を6月30日に食べる伝統があるそうですが、なぜその日に限定していたのでしょうか。

「6月30日はちょうど1年の半分の区切りとなる日で、『夏越の祓(なごしのはらえ)』と呼ばれる神事が行われます。吉田神社(左京区)など京都市内の各神社には、人の背たけより大きな茅の輪が据えられます。

参拝する人たちは茅の輪をくぐることで、それまでの半年間の日常生活のなかで知らず知らずのうちに犯してしまった罪や悪い心を祓い清めて、残りの半年間を健康に過ごしていこうと祈ります。

茅の輪くぐりは神社によって作法が異なりますが、一般的には神歌を唱えながら8の字を描くように3回。最初に輪を左足から跨(また)ぎ左側から回って正面へ、続いて左足から右側へ回って正面へ、さらに左足から左回りで正面に戻ります。最後に左足から輪を跨いで本殿へ向かい参拝します。

夏越の祓の6月30日に水無月を食べるのは、茅の輪くぐりと同じ厄除けの意味が込められているからです。今では6月に入ってから販売を開始する店も多くありますが、6月29日や30日など販売期間を限定する店も少なくありません」(笹屋伊織)

笹屋伊織では新型コロナウイルス感染症がまん延したのち、水無月用の素材を病魔除けの思いを込めて、吉田神社で厄除けのお祓いをして頂いているそうです。

また、『小倉百人一首』の一首で従二位家隆(藤原家隆)による「風そよぐ ならの小川の 夕暮れは みそぎぞ夏の しるしなりける」は、賀茂別雷神社(かもわけいかづちじんじゃ=通称・上賀茂神社=北区)の夏越大祓の様子を詠った歌と伝わります。

水無月は近年、その名にちなんで東京など全国各地の和菓子店でも「6月の銘菓」として販売されているようです。京都以外でも水無月を見かけることがあったら、ぜひ味わってみてはいかがでしょうか。
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参考資料など

取材協力・画像提供/笹屋伊織(本店・京都市下京区)