そらびとsorabitoインタビュー(7)

空と海と気象が紡ぐ“心に響く灯台”物語

写真家
野口毅(のぐちたけし)さん
室戸岬灯台(高知県)撮影:野口毅
室戸岬灯台(高知県)
撮影:野口毅
日本は海岸線の長さが世界第6位の海洋国家。そんな海の安全を守ってきた灯台――。1868(明治元)年に東京湾の入り口に建設された観音埼灯台を皮切りに、明治期に建設された灯台が64基現存している。そのすべての灯台に自ら足を運び、撮影を続けている写真家の野口毅さんに灯台の魅力と海と空の気象について聞いた。

きっかけは北海道の旅

──なぜ、灯台を撮ろうと思ったのですか?
北海道が好きでよく旅していましたが、12年前、海沿いの道を車で走りながら、たびたび目に入ってくる灯台を何気なく撮っていました。
東京に戻ってオホーツク海に突き出す北見神威岬(きたみかむいみさき)にある灯台の写真やいくつかの写真を改めて眺めていて、灯台そのものの面白さに気づき、その存在が急に気になり始めたのです。
写真家の野口毅さん
写真家の野口毅さん
そもそも灯台とは、航海者の命と安全を守る役割のある建造物のこと。ところが、そんな厳しい使命を持っているのに、美しい風景の一部として地域に根づき、私たちに安らぎを与えながら佇んでいる。
──明治期の灯台に魅了されていますね?
明治期に建造されてから150年ちかく経っている灯台もあるのです。長い間、風雨、風雪にさらされ、ときには激しい波浪を浴びながらもなお、海に向かって端然としている。
まさに灯台には「孤高」というイメージが似合います。灯台の背景にあるストーリーや情緒的な思いから、灯台に魅了されていったのかもしれません。
経ヶ岬灯台(京都府)撮影:野口毅
経ヶ岬灯台(京都府)
撮影:野口毅
──本来は建築写真の専門家と伺いました
私の専門は建築写真です。そう聞くと、「その流れで灯台の写真を撮ることに?」と思われることが多いのですが、とりわけ関連があるわけではありません。
建築写真を撮っていることが灯台の写真に影響を及ぼしているとしたら、基本的には垂直を意識して撮影している事くらいでしょうか。
オフィスは灯台の資料に囲まれている
オフィスは灯台の資料に囲まれている
「北海道=自然」というイメージがありますが、その自然の中の灯台が、人工物でありながら違和感がなく驚くほどしっくり溶け込んでいたのです。灯台が写真の邪魔をするどころか、むしろ灯台があることでメッセージのある写真に仕上がっていたのは不思議でもあり、灯台を撮る面白さにもつながっているのだと思います。
石狩灯台(北海道)撮影:野口毅
石狩灯台(北海道)
撮影:野口毅
──人里離れた灯台にどのようにして近づくのですか?
灯台の写真を撮り始めた頃には、地図記号を頼りに海沿いの道を辿り、重い機材を担ぎ山道を歩きます。
灯台は、海から見るための目印ですから、道なき道やロープのかかった斜面、壊れかけた小さな橋などもありました。そこにたどり着くためのアクセスが著しく不便であることもしょっちゅうです。ときには、熊やマムシの出没注意を促す看板が立てられているような場所もあります。灯りの灯った灯台の撮影は夜明け前か日没後に撮影をしますが、行きか帰りかは必ず真っ暗な道を懐中電灯の灯りを頼りに歩きます。誰もいない闇夜の山道は、カサカサと何かの気配や、良く解らない鳴き声など、ただただ恐怖に耐えて歩きます。
──撮影場所の決め方は?
「明日の居場所は、明日にならないとわからない」――そう思って撮影をしています。つまり、撮影スケジュールは、天候やその他の状況で柔軟に変更します。宿泊は、自由に動くために車中泊が多くなります。夜間は道路も空いているので車で移動するには効率がいいんです。移動距離は多いときで1日数百kmになることもあります。
──空撮もされていますね?
ドローンでの撮影にも取り組んでいます。ドローンのおかげで、岬の突端など特殊な地形に建っている灯台を撮ることも可能になりました。特に表現力が上がるのが、立ち入ることができないような立地で低い位置から撮ることができる点です。
チキウ岬灯台(北海道)撮影:野口毅
チキウ岬灯台(北海道)
撮影:野口毅
ただ、ドローンは風に弱いので、今のところ風速5~6m/s以内が飛ばせる目安。ドローン撮影では、気象情報から風を読むことが不可欠です。