【連載】冒険気象スタイル(2)

【三浦豪太】山で本当に大切な装備とは何か!?

文・写真:三浦豪太
天気に恵まれた2013年5月23日
天気に恵まれた2013年5月23日
父・三浦雄一郎氏とともに過酷な冒険を続ける三浦豪太氏(プロスキーヤー・登山家・博士〈医学〉)が、これまで体験した危険が多い辺境の大自然の気象世界を描く、貴重なノンフィクション。連載第2回目はプロの登山装備術。登る前に知っておきたい“天気と装備の関係”とは!?

エベレスト頂上マイナス20℃の意外

2013年5月23日、エベレストの山頂に父、三浦雄一郎と僕は立った。父は80歳ということでエベレスト世界最高齢登頂という記録を作った。
山頂に着いたのが午前9時ちょうど。無風快晴で驚くほど遠くまで見渡せたことを覚えている。気温はマイナス20℃ほど、エベレストの山頂にしては常夏といってもいいほどの好条件であった。そのため山頂でインナーグローブと呼ばれる薄手の手袋で作業してもそれほど手に冷たさは感じなかった。
エベレスト主峰。南峰(8750m)から撮影
エベレスト主峰。南峰(8750m)から撮影
三浦雄一郎(右)と筆者。エベレスト山頂で
三浦雄一郎(右)と筆者。エベレスト山頂で
手袋はインナー手袋
手袋はインナー手袋
こうした高所登山をする時、僕たちは重ね着を心がける。手袋も同様に薄手の手袋の上に羽毛の厚手の手袋を身につける。これをレイヤリングという。
肌に接する一番内側のシャツ等をインナーレイヤーと呼び、その役割としては汗をかいたものを素早く乾かすことなので速乾性のあるものが望ましい。
その上にミドルレイヤー。ミドルレイヤーの役割は空気の層を作ることで体温を保ってくれる。これにはインナーダウンと呼ばれる羽毛服やフリース生地が一般的だ。
そしてアウターレイヤー。アウターレイヤーは外部に接する生地で、その役割は外気を遮断すること。外からの風や冷たい空気、雨などから体を守る役割を持つ。
エベレストの場合、山頂の1年間の平均気温はマイナス30℃、風速30mであるといわれる。体感温度は風速が1m増えるごとに1℃下がるので山頂の平均体感温度はマイナス60℃ということになる。そのため僕たちはこうしたアウターレイヤーにも分厚いダウン(羽毛)を入れてアタックする。
エベレスト山頂付近は極寒であると同時に低酸素でもある。体を温めるために体内で燃やす酸素が少ないのだ。急激な運動ができず緩慢(かんまん)な動きでひたすら吹雪に耐える。そのため装備は分厚い。この時の登山で幸運だったのは天気に恵まれ装備の限界を試すことなく終わったということだった。
三浦豪太(プロスキーヤー・登山家・博士〈医学〉)
三浦豪太(プロスキーヤー・登山家・博士〈医学〉)

1969年、神奈川県鎌倉市生まれ。三浦雄一郎の次男としてキリマンジャロを最年少(11歳)登頂。91年よりフリースタイルスキー、モーグル競技へ転向し、94年リレハンメル五輪、98年長野冬季五輪代表。2001年米国ユタ大学スポーツ生理学部卒業後、ワールドカップ解説やプロスキーヤーとして活躍。父・雄一郎とともに3度にわたり世界最高峰エベレスト登山に同行。現在、(株)ミウラ・ドルフィンズ低酸素・高酸素室のトレーニングシステム開発研究所長。博士〈医学〉(順天堂大学大学院医学部加齢制御医学講座)。