総力特集

気象研究の最先端!! 「3次元ゲリラ豪雨予報」&「ミュー粒子で火山を透視」

気象研究は日進月歩。その最先端ではどのような研究がなされているのだろうか。今年最も注目される若手研究者2人の取り組みを紹介する。

ビッグデータ同化でゲリラ豪雨予報

不可能とされたゲリラ豪雨予報

晴れていた空が急に雲に覆われて暗くなり、たたきつけるような雨が局地的に降るゲリラ豪雨。冠水や浸水だけでなく、時には人的被害も出る。
これまでゲリラ豪雨はコンピュータを使った数値予報で予報することは不可能とされてきた。ゲリラ豪雨をもたらす積乱雲が発生して消滅するまでわずか30分ほどで、気象レーダーが雨を探知しても30分後には消えてしまうからだ。
そんなゲリラ豪雨予報に挑んでいるのが理化学研究所(理研)・計算科学研究機構データ同化研究チームのチームリーダー、三好建正(たけまさ)さん(39歳)だ。
三好建正さん

三好建正さん

「ゲリラ豪雨予報は2013年10月にスタートした実証研究です。各分野の専門家約40人で取り組んでいます。目標は30秒ごとに30分先まで3次元シミュレーションすることですが、現在は30秒のシミュレーションに数分かかっているので実用化はまだ先です。1年前は30秒のシミュレーションに1時間かかっていました。これからさらに計算処理を高速化することは可能です」
ゲリラ豪雨のシミュレーション

ゲリラ豪雨のシミュレーション

スパコン「京」と次世代観測機器

三好さんたちの研究を支えているのが、理研の計算科学研究機構が運用しているスーパーコンピュータ「京(けい)」だ。2012年に運用開始したときは世界トップクラスの計算速度だった。その後、米国や中国のスパコンに抜かれたが、昨年11月の世界ランキングは7位と評価されている。
スーパーコンピュータの「京」

スーパーコンピュータの「京」

「気象に関するあらゆるデータを使っていますが、とりわけ2014年に打ち上げられた『ひまわり8号』(従来の情報量の50倍)と、大阪と神戸に設置された2基の『フェーズドアレイ気象レーダ』(同100倍、3次元レーダとも呼ばれる)が威力を発揮しています。これらのビッグデータを駆使することで高精度の予報が可能になります」
阪神一帯をシミュレーションしている

阪神一帯をシミュレーションしている

鍵はビッグデータ同化

コンピュータによる数値予報は、気温、気圧、湿度、風向・風速などのデータを入力し、専門的には「初期場(しょきば)」と呼ばれる物理的パラメーターの空間的分布状態をつくりだす。この過程を「データ同化」と言い、三好さんはその道の第一人者だ。
「従来の気象データだけでなく、これまで使われてこなかった風景画像などもデータ同化できないかと考えていますし、気象の影響を受けるコンビニの売り上げや傘の販売本数といったビッグデータを生かす方法を考えたいと思います」
理研の計算科学研究機構

理研の計算科学研究機構

世界をアッと言わせる研究を

三好さんは京都大学理学部を卒業後、気象庁に入ったが、人事院行政官長期在外研究員として米国のメリーランド大学大学院に留学し、2年間で修士号と博士号を取得。帰国後は気象庁の数値予報課の技術専門官として業務を担っていたが、「研究のおもしろさに魅せられて」転身。メリーランド大学助教授を4年間務め、帰国後理研に入所した。
「世界をアッと言わせる研究をしたかったのです。これまでの研究成果は昨年8月に米国の科学雑誌『Bulletin of the American Meteorological Society』に掲載されて、大きな反響をいただきました。世界のトップレベルの研究をしているという手応えを感じています」

ポスト「京」では1時間先を目指す

2020年頃には「京」の100倍の能力を持ったスパコンの誕生が期待されている。
「スパコンがさらに進化すれば、今の100mメッシュをもっと細かくできるし、精度も上げられます。さらに今の30分先の2倍、1時間先のゲリラ豪雨予報も視野に入ってきます。ゲリラ豪雨だけでなく、竜巻の予報なども今後可能になるかもしれません」
スパコンと次世代観測機器によるゲリラ豪雨予報。実現すれば天気予報にブレイクスルー(飛躍的進歩)をもたらすだろう。
写真・動画提供:理化学研究所計算科学研究機構