越後塩沢の文人・鈴木牧之(ぼくし)が雪国の気象・暮らし・心情などを著わした『北越雪譜(ほくえつせっぷ)』。名著から雪国ならではの生活・文化を学ぶ。
江戸版「雪国百科事典」
世界最古の雪にまつわる書
『北越雪譜』は、魚沼郡(うおぬまごおり=現・新潟県南魚沼市周辺の信濃川上流域)の雪の量や降雪期間、雪崩、吹雪、雪中洪水などの自然現象を気象学的観点で伝え、雪国の暮らしの労苦を説いた。
一方で、雪中歩行の用具を挿絵で紹介。雪に負けずに生活するための冬ごもりやソリ輸送の知恵、雪中芝居や鳥追いなど雪国ならではの楽しみも書き、雪深いからこそ、雪が解けて春を迎える喜びが大きいことを語る。
また、若い夫婦が吹雪に遭って息絶え、抱かれていた赤子だけが助かったという悲話や、クマに助けられた男の話、雪中の幽霊奇談などもあり、さらに地元の縮(ちぢみ)産業、クマやキツネ、サケの生態も記されていて、『北越雪譜』はまさに雪国百科事典。雪を主題とした世界最古の著作とされる。
リアリズムの文学
当時流行していた娯楽本位の書物のなかにあって、雪国の生活を深く洞察した同書はきわめて異色の作品だった。『北越雪譜』に関する著作がある田村賢一氏は「雪国の農民のひたすらな生きざまを描いたリアリズムの文学」とみる。
気象学者で第4代中央気象台長(現在の気象庁長官)を務めた岡田武松博士は、同書を「われわれ測候仲間の必読書」とし、自ら校訂して岩波文庫から昭和11年に『北越雪譜』の活字本を刊行、世に知らしめた。この文庫本は以後増刷を重ね、現在68刷りが発行されている。
この続きは、スマートフォンアプリ「ウェザーニュースタッチ」にて会員登録(有料)していただくとご覧いただけます
この続きは、ウェザーニュース会員(有料)に登録していただくとご覧いただけます