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北極圏の氷が消える? 日本に及ぼす影響は?

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2025/01/25 05:00 ウェザーニュース

2025年は、はじまりから強烈な寒波の襲来とともに日本各地で記録的な大雪となりました。24年には記録的な高温や豪雨、強い台風などが発生し、地球温暖化の影響とみられる極端な気象現象が増えていることが注目されました。

そんななか、北極海の海氷域面積の年間最小値が衛星観測史上5番目を記録しました。遠い北極域で起きている変化の原因や、私たちの住む日本にどのような影響を及ぼすのかなど、専門家に詳しく教えていただきましょう。

北極海の海氷域面積が衛星観測史上5番目の小ささに

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2024年9月13日、北極海の海氷域面積が年間最小値を記録しました。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)と国立極地研究所(NIPR)が、北極域研究加速プロジェクトの一環として、水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)からの観測データをもとに南極と北極の海氷面積を分析しています。

「北極海の海氷は毎年9月に最も小さくなりますが、9月13日の記録は407万平方kmと、衛星観測史上5番目の小ささとなりました」と話す国立極地研究所北極海氷情報室特任教授の矢吹裕伯さんは、次のように続けます。

「2024年は3月11日に最大面積の1441万平方kmを記録した後、6月上旬までは衛星観測史上1番小さかった2012年よりも小さい面積で推移していたので、12年ぶりに記録更新も予想される事態でした。しかし、8月上旬に海氷後退のペースが鈍化しました。

ただ、北極海の夏の海氷域面積の長期的な減少傾向は続いていくと予想され、今後も注意深くモニタリングしていく必要があります」

南極海とは違う!? 北極海の温暖化の現状

地球温暖化の影響は、北極域の海氷域面積の変化にも現れてきています。
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北極域の海氷域面積、特に年最小値が減少しているのがよくわかります。1979年から2023年までは、1年当たり8.7万平方km減少しています。この面積は、北海道の面積(8.3万平方km)に匹敵するほどのものです。

「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書」(2021年)では、北極域の海氷域面積の減少の主要な要因を人間活動の影響である可能性が非常に高いと指摘しています。

北極海の氷の役割とは

北極海の海氷の減少は、地球全体に影響をもたらすとされています。

海洋研究開発機構(JAMSTEC)地球環境部門 北極環境変動総合研究センター・センター長の菊地隆さんによると、「地球全体を1つの熱システムとして考えるとき、北極と南極はラジエーター(冷熱源)に例えられます。

赤道に近い熱帯で受けた熱が極方向に移動し、北極と南極で冷やされることで、地球全体のバランスを保たれている」からです。

長期的にみたとき北極海の海氷域面積は大きく減少しています。

「同じように氷に覆われている極地ですが、北極と南極では実態が大きく異なります。

そもそも南極には、オーストラリア大陸のほぼ2倍にも匹敵する大きな陸地があります。そこに雪が降り積もり数十万年かけて分厚い氷床となっています。平均で2000m、厚いところでは4000mもの厚さがあります。

一方北極は、周りをユーラシア大陸、北米大陸に囲まれた海(北極海)であり、海水が冷えて凍った海氷が浮かんでいる状態です。海氷の厚さは平均で2〜3mほど、最大でも30m以下しかありません。」(菊地さん)

氷のなりたちの違いは、北極域と南極域の”冷え方”にも現れます。

「大きな陸地に雪が降り積もり、数十万年かけて分厚い氷床となった南極に比べ、北極の真ん中は海なので、氷は海水が凍って浮かんでいるだけでかなり脆弱です。

そのため、より地球温暖化の影響を受けやすいのです。さらに、海氷面積が減少することで、北極域がより“温まり”やすくなることも問題です。

白い雪氷に覆われているうちは、入ってくる熱を反射しますが、海氷がとけて海水面が露出されたら太陽の熱を反射しません。逆に太陽熱を吸収し、海水温が上がります。そうすると、さらに海氷がとけやすくなるという正のフィードバックがかかってしまい、北極の温暖化が加速しているのです。

実は、地球温暖化が進む中で、もっとも気温上昇が激しいのが北極で、全球平均の約3倍のスピードで上昇しています」(菊地さん)
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「温暖化対策の進捗にもよりますが、現時点での予測モデルでは、21世紀中頃までに夏季(9月)に北極海の海氷が完全になくなる年が出るという予測があります。

また、このまま温暖化が続くと、2300年頃までには冬でも北極域の海氷がなくなるという指摘もあります」(菊地さん)

「北極の氷が少ないと日本は大雪」はもう終わり?

北極域の海氷の変化によりさまざまな影響が危ぶまれています。

海氷を生息地とするホッキョクグマやアゴヒゲアザラシなどへの影響がよく知られていますが、地球温暖化によって海洋酸性化が進むことで、殻をもつプランクトンが脅かされるなどの影響も出ています。

そうなると、海洋プランクトンを捕食して成長する魚類の稚魚や幼魚に影響を及ぼします。海の生態系が変化して漁業などにも影響が出る可能性があるのです。

また、北極と赤道の中間に位置にする日本列島への気候の変化も指摘されています。

「日本は北半球にあり、北極域からの冷たい勢力と赤道付近からの温かい勢力の影響を受けています。

例えば、『北極の氷が少ない年には日本は大雪になる』と言われています。これは、北極域に温かい空気が入ることで、北極域の冷たい空気がシベリア域に出て、それが寒波となって日本へ来るということです。

しかし、北極の温暖化が進行したことにより、今やこの法則が当てはまらなくなってくる可能性が考えられます。

もともと日本では『エルニーニョ現象』や『ラニーニャ現象』などの赤道側の気候に関心が寄せられる傾向がありましたが、北極側のさらなる調査や研究も必要となっています」(菊地さん)
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今後の北極はどうなる?

このまま地球温暖化が進めば、北極域の海氷の減少やその日本を含めた世界へ及ぼす影響はますます大きくなっていくのでしょうか。

「北極の氷の存在が地球全体の気候に影響をもたらすように、北極の海氷の状態にも太平洋から流入する温かい水が影響を与えていることがわかってきています。

地球温暖化が今後も進行すれば、すでに温暖化に伴う激しい変化にさらされている北極は、いまある姿を失い新たな別の状態になるかもしれません。

現在急速に地球温暖化が進行している北極で起きていることとその原因や影響を知ることは、これから私たちの身近で起きるかもしれない状態を知ることにも繋がります。

これからは新しくできる北極域研究船『みらいⅡ』(砕氷機能を有する)で、海氷がある海域や時期でも現場での観測をして、変化する北極の実態を明らかにしていきたいです」(菊地さん)

「北極海の海氷域の変動が、中緯度にある日本の冬の降雪にも影響していることがわかってきています。すでに今年は青森県では、記録的積雪となっており、北極での温暖化だからと言って無関心ではいられなくなってきています。

このようなことも含めて北極での海氷域の変化も今後とも注意深くモニタリングする必要があると思います」(矢吹さん)

気候変動による地球温暖化の影響は北極海の海氷にも現れてきており、その影響が日本の気候にも影響を与える可能性があるのです。

ウェザーニュースでは、気象情報会社の立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、さまざまな情報をわかりやすく解説し、みなさんと一緒に地球の未来を考えていきます。まずは気候変動について知るところから、一緒に取り組んでいきましょう。
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