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「青時雨(あおしぐれ)」ってどんな雨? 梅雨を楽しむ「夏の雨の名前」10選

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2024/06/16 05:00 ウェザーニュース

今週はいよいよ広範囲で梅雨入りとなりそうです。

雨の日が続くと、うっとうしい気持ちになりがちですが、梅雨時など、夏の雨を表す素敵な言葉はたくさんあります。

気持ちが晴れやかになったり、考えさせられたりするような夏の雨の名前を10選んでご紹介します。

(1)五月雨(さみだれ、さつきあめ)


「さみだれ」と読むことが多いですが、「さつきあめ」とも読みます。「五月の雨」と書くため、文字どおり、(現在の)5月に降る雨と思う人もいるでしょう。しかし、この「五月」は旧暦の5月のことです。旧暦の5月は、現代では6月から7月上旬にあたるので、「五月雨」は梅雨のころに降る長雨のことです。また、梅雨のことを表すこともあります。

「五月雨」は夏の季語でもあります。

~五月雨をあつめて早し最上川(もがみがわ)~ 松尾芭蕉

~さみだれや大河を前に家二軒~ 与謝蕪村

(2)涼雨(りょうう)


「涼」は「涼しい」の「涼」なので、「涼雨」は文字どおり「涼しさを感じさせる(夏の)雨」のことです。

涼雨なら、ありがたいと思う人もいるでしょう。ただし、「冷雨(れいう)」となると、寒そう。できれば降られたくないですね。

(3)夕立(ゆうだち)


夏の昼過ぎから夕方にかけて、急に激しく降る雨のことです。雷を伴うことも多いのが特徴です。

「夕立は馬の背を分ける」という諺もあります。夕立は馬の背中の片側をぬらして、もう一方の片側はぬらさない、という意味です。それほど、限られた場所に降る雨であることを表しています。

(4)驟雨(しゅうう)


急に降り出して、すぐにやむ夏の雨で、「にわか雨」「通り雨」の文語的表現です。

岸田国士(きしだくにお)に戯曲『驟雨』が、藤沢周平に小説『驟り雨(はしりあめ)』があります。

「秋雨」は「あきさめ」のほかに「しゅうう」とも読みますが、こちらは文字どおり「秋に降る雨」です。

「驟雨」が季語の俳句を一句、紹介しましょう。

~包丁を持つて驟雨にみとれたる~ 辻桃子

(5)白雨(はくう)


「にわか雨」「夕立」を表し、目の前が白く見えるほど激しく降る雨のことです。

歌川広重の浮世絵「東海道五十三次 庄野(しょうの) 白雨」には、突然の夕立に旅人たちが慌てている様子が描かれています。「庄野」は現在の三重県にある地名です。

(6)黒雨(こくう)


空を黒くするような大雨を「黒雨」といいます。

雨が黒いわけではなく、雨を降らせる雲が黒っぽく見え、空も暗く黒く見えるため、黒雨というようになったようです。夏にときおり降る雨です。

同音異字の「穀雨」もありますが、こちらは「春雨(しゅんう/はるさめ)が降って百穀を潤す」の意で、二十四節気の一つでもあります。

「色」が付いた雨を表す言葉には、ほかに「紅雨(こうう)」「緑雨(りょくう)」などがあります。

(7)氷雨(ひさめ)


「氷雨」には、二つの意味があります。

一つは「雹(ひょう)、または霰(あられ)」の意で、もう一つは「霙(みぞれ)、または霙に近い冷たい雨」の意です。

氷雨を「雹(ひょう)」「霰(あられ)」の意味で用いた場合は夏の季語になり、「霙」「霙に近い冷たい雨」の意で用いた場合は冬の季語になります。

ややこしいですね。

(8)卯の花(うのはな)くたし

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梅雨前の5月半ばから6月初旬ごろ、雨がしとしと降り続くことがあります。

このような梅雨入り前の長雨のことを「卯の花くたし」ということがあります。

「卯の花」はウツギ(空木、卯木)の花ともいいます。

「くたし」は物を腐らせることを意味する名詞で、動詞の「くたす」から派生しました。この二語を合わせてできた「卯の花くたし」は、卯の花を腐らせるほどにしとしとと降り続く雨という意味で、夏の季語にもなっています。

(9)虎が雨(とらがあめ)、曽我(そが)の雨


旧暦5月28日(現在の暦では、6月下旬から7月中旬ごろ)に降る雨を「虎が雨」といいます。

鎌倉時代初期の武士、祐成(すけなり)と時致(ときむね)の曽我(そが)兄弟は1193(建久4) 年5月28日、父の敵(かたき)をとるべく、源頼朝の供をしていた工藤祐経(くどうすけつね)を斬り倒しました。その際、兄の祐成は討ち死にし、弟の時致は取り調べののち、首をはねられました。

これを聞いた祐成の愛人、虎御前(とらごぜん)は涙を流し、悲嘆に暮れたと伝わります。

ここから5月28日に降る雨は「虎が雨」といわれるようになり、夏の季語にもなりました。

また、曾我兄弟の曽我から「曽我の雨」ともいいます。

(10)青時雨(あおしぐれ)


晩秋から初冬にかけて断続的に降る小雨を「時雨」といい、冬の季語にもなっています。

その「時雨」に「青」がつくと、意味が大きく変わって、木々の青葉についた雨がぱらぱら落ちることをいいます。また、夏に降るにわか雨のことを指す場合もあります。青時雨は夏の季語にもなっています。

時雨は寒々しいですが、青時雨なら、ありがたく感じることもあるでしょう。

~脳天に命中するも青時雨~ 清水雪花

これなら、心配なさそうです。


こうして見てみると、「夏の雨」だけでも、表現が豊かにあることに気がつきますね。

「今日も雨かぁ。嫌だな」と思うばかりでなく、「この雨は白雨かな」とか「虎御前が悲しんでいるのかな」とか「青葉から雨粒が落ちた。青時雨だな」などと思いながら雨の日を過ごすと、梅雨時も楽しい日々になりそうです。

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参考資料
『365日の歳時記(上・1月~6月)』(編著者/夏生一暁、発行所/PHP研究所)、『短歌 うたことば辞典』(著者/梅内美華子、発行所/NHK出版)、『鑑賞俳句歳時記 夏』(編著者/山本健吉、発行所/文藝春秋)、『増補版 いちばんわかりやすい俳句歳時記』(著者/辻桃子・安部元気、発行所/主婦の友社)、『実用俳句歳時記』(編者/辻桃子、発行所/成美堂)、『全季俳句歳時記』(編著者/柳川彰治、発行所/青弓社)