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滝に夏氷に金魚……。暑さが吹っ飛ぶ? 夏の名句、五選

2023/07/08 18:11 ウェザーニュース

今年も梅雨明けが近づき、いよいよ真夏がやってきます。

暑さにうんざりしている人もいるかもしれませんが、夏には夏の趣(おもむき)があります。

時には夏の名句に触れて、ニッポンの夏の風情を味わってみるのもいかがでしょうか。夏を詠んだ俳句、五句をご紹介します。

【1】閑さや岩にしみ入る蟬の声(しずかさやいわにしみいるせみのこえ)

言わずと知れた俳聖、松尾芭蕉(1644~1694)の句です。

季語は「蟬」で、夏。

現在の山形市にある立石寺(りっしゃくじ。通称、山寺)を訪れたときに詠んだ句で、芭蕉の俳諧紀行文『奥の細道』に収められています。

静寂の中、蟬の声が上からサーッと、降り注いでいる。
芭蕉はその声をシャワーのように全身で浴びて、声はさらに岩にしみ入っている。

静の中の騒。しかし、騒々しいはずの蟬の声もまた静かであるという芭蕉の感性と自然観がこの句から伝わってくるのではないでしょうか。

そして何より、このときの芭蕉の心の内が穏やかで静かで落ち着いているのでしょう。あやかりたい境地です。

【2】人も一人蠅もひとつや大座敷(ひともひとりはえもひとつやおおざしき)

江戸時代後期の俳人、小林一茶(1763~1827)が詠んだ一句です。

季語は「蠅」で、夏。

蠅を詠んだ一茶の句では「やれ打(うつ)な蠅が手をすり足をする」がたいへん有名ですが、この句も味わい深く、句が表す世界観に考えさせられる人もいるでしょう。

これは一茶が晩年に詠んだ句で、広い座敷に、自分一人と蠅一匹がいる様子を表現しています。

自分も蠅も孤独なのだと思っているのか、蠅に自分を重ねているのか、あるいは、蠅に仲間のような思いが芽生えているのか、それらのいずれもか……。

ともかく、余韻のある一句で、心に染み入ります。

【3】瀧の上に水現れて落ちにけり(たきのえにみずあらわれておちにけり)

高浜虚子に師事した俳人、後藤夜半(ごとうやはん、1895~1976)の1929(昭和4)年の作です。

季語は「瀧」で、夏。

瀧(滝)の上部に水が現れて、それがドッと落ちていく。
それだけのことを描写している、客観写生の句です。

瀧に正面から向き合い、瀧そのものをストレートに詠んでいます。
迫力あるその光景が目に浮かび、音さえも聞こえてきそうです。

【4】匙なめて童たのしも夏氷(さじなめてわらべたのしもなつごおり)

明治、大正、昭和、平成と生きた俳人、山口誓子(やまぐちせいし、1901~1994)が詠んだ一句です。

季語は「夏氷」。「氷」は冬の季語ですが、「夏氷」は文字どおり夏の季語。夏氷はなじみの薄い言葉ですが、かき氷のことを指しているのでしょう。

暑い夏の日、子供たちがかき氷を食べている。おいしそうに、楽しそうに、匙をなめながらかき氷を食べる子供たちを見る作者のまなざしは温かく、涼やかでもあります。

【5】金魚また留守の心に浮いてをり(きんぎょまたるすのこころにういており)

2年前に亡くなった俳人、深見けん二(ふかみけんじ、1922~2021)氏が詠んだ一句です。

季語は「金魚」で、夏。

深見氏はこのころ、金魚を飼っていました。外出したとき、ふと心の内に金魚のことが浮かぶ。暑い夏の日、大丈夫だろうか、と心配になったのでしょう。早く帰って、餌(えさ)を与えようと思ったのかもしれません。

金魚だけでなく、犬や猫を飼っている人も大勢います。犬や猫なども、人と同じように熱中症になることがあります。

外出時はペットのことが気になって仕方のない人もいるでしょう。そういう人たちは特に、この句に共感するのではないでしょうか。


これから、さらに暑い日が続きます。しかし幸い、今は多くの人の家にエアコンがあります。

休みの日には、冷房の効いた部屋で、麦茶などを飲みつつ、先人たちの俳句に触れてみたり、自ら一句ひねってみたり。

これは現代の夏ならではの贅沢なひとときかもしれません。

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参考資料など

『俳句 人生でいちばんいい句が詠める本』(監修/八木健、発行所/主婦と生活社)、『鑑賞俳句歳時記 夏』(編著者/山本健吉、発行所/文藝春秋)、『ピカピカ俳句』(著者/齋藤孝、発行所/パイ インターナショナル)、『これからはじめる俳句入門』(著者/星野椿、発行所/ナツメ社)、『覚えておきたい芭蕉の名句200』(編集/角川書店、発行所/KADOKAWA)、『小林一茶 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典』(編集/大谷弘至、発行所/KADOKAWA)、『増補版 いちばんわかりやすい俳句歳時記』(著者/辻桃子・安部元気、発行所/主婦の友社)