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ツバメはどこからやってくる? 方角を間違えることは?

2023/05/02 10:21 ウェザーニュース

本格的な春の訪れとともに、ツバメの渡りが見られたとの報告例が各地から寄せられるようになってきました。

ウェザーニュースで実施したアンケート調査でも、「この春にツバメを見た」という人の割合が増えてきています。関東や東北でも4〜5割ほど、西日本では7割を超える人がすでにツバメを見ているようです。
ツバメは「春告鳥」とも呼ばれるウグイスとともに、日本の春を象徴するおなじみの存在ですが、いったいどこからやって来てどう移動しているのか、方角を間違えたりはしないのかなど、いくつかの謎があります。

そんなツバメの生態について、公益財団法人日本野鳥の会理事の葉山政治さんに解説して頂きました。

日本には5種類が生息

ツバメは春にやってきて巣を作ってヒナを育て、秋には飛び去ってしまうというイメージの鳥ですが、どのような生態と特徴をもっているのでしょうか。

「ツバメはスズメ目ツバメ科の渡り鳥で、全長は17~18cm。世界に約80種類の仲間がいて、このうち日本にはツバメ、イワツバメ、コシアカツバメ、ショウドウツバメ、リュウキュウツバメの5種類が生息しています。

3月上旬頃に東南アジアなどから日本各地に飛来し始め、4月頃の繁殖期を経て9〜10月頃まで暮らし、戻っていきます。

ツバメとイワツバメは奄美群島から北海道にかけて、コシアカツバメは九州から東北にかけて、ショウドウツバメは北海道、リュウキュウツバメは沖縄など南西諸島に分布しています。

このうちリュウキュウツバメは渡りをせず、定住しています。都市部でよく見られるのはツバメで、イワツバメは北日本に多く、郊外や山間部に比較的多く見られます。コシアカツバメは西日本に多い傾向があります。

いずれも主食はハエやアブ、トンボやハアリなどの飛ぶ昆虫類です」(葉山さん)

ツバメはどのような一生を送るのでしょうか。

「日本にやってきたツバメは4月から6月にかけて卵を産み、メスが卵を抱く抱卵(ほうらん)の期間は2週間ほどです。孵(かえ)ったヒナは3週間ほどで親と同じくらいの大きさに成長し、飛べるようになります。

しばらくは親鳥と過ごし、その間に親から飛び方やえさの獲り方などを学びます。巣立った若い鳥は集団でヨシ原などに“ねぐら”をとり、夏の終わりから秋にかけて南下していくようになります。

ツバメは生まれた翌年から繁殖し、寿命は1年から2年未満です」(葉山さん)

どこから飛来してくるのか?

東南アジアからはるばるやってくる!?
ツバメは具体的にどの国や地域から渡ってくるのでしょうか。

「日本で足環を着けたツバメがどこで見つかっているかという調査結果によると、例数が多いのはフィリピンです。

そのほかタイやインドネシアでも見つかっていますので、東南アジア地域から渡ってきて帰るということになります」(葉山さん)

最長6500kmの移動を確認

東南アジア地域から日本までの移動距離は、どのくらいになるのでしょうか。

「足環を着けたツバメで移動距離も判断できるのですが、いちばん長いのはインドネシアの約6500kmです」(葉山さん)

それだけの距離だと、途中で休んだりもするのでしょうか。

「日本で足環を着けたツバメが台湾で観察され、またいなくなってしまったということもありました。沖縄や伊豆諸島などでも渡りの時期にツバメがやってきて、また飛んで行ったという例も報告されています。

ツバメは海上を一気に飛びますが、途中の島など、あちらこちらの陸地で休みながら行き来していると考えられます」(葉山さん)

さらにツバメは「半球睡眠」と呼ばれる、脳が半分眠りながら空を飛び続けることが可能な先天的能力を持っているともいわれています。

方角は地磁気で把握?

東南アジアから日本までの数千キロに及ぶ長距離移動で、ツバメはどうやって目的地や方角を把握しているのでしょうか。

「最近の論文などによると、ツバメは地磁気を感じることができるようです。その身体機能を使えば、自分が進むべき方角、方向は間違えずにわかるというわけです。

ただ、目的地をどうやって確認しているのかはよくわかっていないのですが、最初の渡りの時に、ツバメは自分の頭の中に『地図』を作っているのではないかという説があります。

その年に巣立ったツバメは頭の中に『地図』を持っていないので、長距離の渡りをするというのは、極めてリスクの高い行動です。

しかし、いったん頭の中に『地図』を作ってしまえば、日本の巣立った場所へ翌年の春に帰り、秋に東南アジアの同じ場所へ戻ってくることが可能になります。ただし、この説は確かめられたものではありません」(葉山さん)

日本で生息するリュウキュウツバメ以外の4種のツバメは、どれも同じような行動を取るのでしょうか。

「越冬地としてどのあたりまで南下していくかは種類によって異なりますが、春に日本にやって来て、秋に東南アジアへ渡っていくという行動パターンは、ツバメ、イワツバメ、コシアカツバメ、ショウドウツバメともに同じです」(葉山さん)

巣作りのための適当な土が確保できない!?

今年(2023年)のツバメの渡りで、お気づきになった特徴のようなものはありますか。

「4月下旬は巣作りを始める時期ですので、特に今年ならではの特徴といったものは見受けられません。日本野鳥の会で行っている巣作りの状況調査でも、ここ10年間で子育ての状態が特別に悪化したという結果は出ていません。

ただし観察した方のメモに、7月から8月にかけての2、3回目の子育ての時、暑さでヒナがぐったりしていたとの記述が目立ちました。特に都市部の酷暑がツバメにもこたえているのかなという気がします。

気象とは関係なく、ツバメの巣が落ちたり、ヒナの体に対して巣が小さいためにヒナが巣から落ちたりして、うまく育たなかったという例が結構多く報告されています」(葉山さん)

巣の不安定さはどのような理由によるのでしょうか。

「巣作りに適した土が確保しにくくなったり、木造建築に比べて壁がつるつるの建物が増えたりといった理由が考えられます。

ツバメが巣作りしやすいように、壁に板などで巣の台を取りつけるなどしてうまく共存されている方もいらっしゃいますが、都会にもっと土があればいいなというのが、近年の率直な感想です」(葉山さん)

近頃は「フンで汚れるから」と、せっかく作ったツバメの巣が人の手によって落とされてしまうこともあるそうです。

昔は巣を作った家は繁栄するとして幸運のシンボルとされてきました。また、害虫を捕食する益鳥でもあるツバメ。その生態をよく理解し、ヒナが無事に育ってくれるように巣周辺の良好な環境づくりにも注意していきましょう。

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