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京都を撮り続けて50年! 写真家・水野克比古氏オススメの桜撮影穴場スポット4選

2023/03/29 05:11 ウェザーニュース

日本各地で桜の見頃を迎えています。紅葉と並んで世界的にも「桜の名所」として知られる京都は例年、地元の花見客はもちろん遠来の観光客でにぎわいます。とくに今シーズンはコロナ禍の収まりもあって、桜の名所とされるスポットは撮影に適したポイントを確保するのもより難しくなるかもしれません。

そこで、京都をテーマにした写真集を多数出版する「京都写真」の第一人者・写真家の水野克比古さんに京都の「桜撮影穴場スポット」を教えて頂きました。

京都の桜も今年は例年より早い印象

京都でも嵐山など各地ですでにソメイヨシノが満開を迎えています。

「長年京都の桜を撮り続けている私からみても、今年の桜の咲きようは例年より4~5日早い印象です。各種メディアの満開日予想などに注目して、満開のタイミングを逃さないように気を付けてください。

ただし、京都の桜の魅力はおなじみのソメイヨシノのほかにも、ヤマザクラなど種類が豊富なところにあります。どうしてもその日しか京都に行けない、満開を逃してしまいそうという方でも、ソメイヨシノが散り始めても、品種によってはまだまだ満開の桜が撮影できるチャンスはあるのです」(水野さん)

それでは、その場所で見られる桜の品種なども含めて、水野さんおすすめの京都の「桜撮影穴場スポット」4ヵ所を紹介していきましょう。

(1)鴨(賀茂)川(今出川通近くの堰)

鴨川沿いのヤマザクラと堰
「1ヵ所目は全国の皆さんもよくご存じの鴨(賀茂)川べりです。ひと口に鴨川といっても、北端の標高が約150m、そこから南に向かって徐々に下がっていきますので、北と南ではずいぶんな寒暖差が生じます。

さらに、鴨川べりには約15kmにわたってさまざまな種類の桜並木が続いていますので、訪れた日によって満開になっている箇所を見つけることも可能です。

桜を撮影する際に注目して頂きたいポイントが、流れを横切る『堰(せき)』の存在です。いまから80年ほど前の昭和時代中期、およそ100mの間隔で流れを緩めるために造られたものですが、堤体を流れ落ちる白い飛沫(ひまつ)がいいアクセントになってくれるでしょう」(水野さん)

作例の場所は鴨川のどのあたりになりますか。

「京都御所の北側を東西に走る今出川通から北へ500mほどさかのぼったあたりです。桜はヤマザクラ。堰はもちろん、たまたま河川敷の自転車道で立ち止まった人が、よりよいアクセントになってくれました」(水野さん)

その近くでは今出川通りと上流の北大路通の間にある『志波む桜』(師範桜)と呼ばれるソメイヨシノの並木もいい穴場ポイントだそうです。明治38(1905)年に京都教育大学の前身にあたる京都府師範学校の関係者が、2000本以上を植樹したものだそうです。

「ソメイヨシノは人工交配によって生み出された桜ですから、どこか全体主義めいた印象をもってしまう品種です。葉が茂る前に一斉に花が咲きそろうというのも理由かもしれません。

それに対してヤマザクラは木々の自由恋愛といえる自然交配ですので、それぞれの花の色合いが個性的です。ヤマザクラは花と葉が一緒に咲きますので、葉の色が花の色と混じり合って、とくに遠くから眺めると微妙なピンクの色調を醸し出してくれます。

ソメイヨシノばかりにとらわれず、魅力的なヤマザクラを探してみるのもポイントといえるでしょう」(水野さん)

(2)水火天満宮(すいかてんまんぐう=上京区堀川通上御霊前上る扇町)

水火天満宮のシダレザクラ
2ヵ所目は、京都市営地下鉄烏丸線の鞍馬口駅から西へ徒歩15分ほど。「水火の天神さん」と呼び親しまれている、菅原道真公を祀った水火天満宮です。

「水難・火難除けにご利益があるとして信仰を集める神社です。見事なシダレザクラが枝を広げて、100坪ほどの小さな境内を覆い尽くすように咲き誇ります。

同じシダレザクラでも木によって赤色系の鮮やかさに違いがあって、おもしろい品種です」(水野さん)

作例のワンポイントになっている真っ赤な鳥居は、境内摂社の六玉稲荷大明神で、縁結びや就職祈願、芸妓さんや仲居さんなどと円満な雇い入れ契約が結べるともいわれているそうです。

「40年ほど前まで、水火天満宮のシダレザクラは『ほんとのご近所さん』にしか知られていない存在でした。いまは満開の時季に合わせてライトアップもなされていますが、それでも境内がごったがえすなどといったことはなく、穴場ポイントといえるでしょう。

近くには妙顯寺(みょうけんじ)や妙覺寺(みょうかくじ)、本法寺(ほんぽうじ)といった『桜のベルト地帯』といえる桜の名所もありますので、水火天満宮を含めて周辺を一日かけてゆっくりめぐってみてはいかがでしょうか」(水野さん)

(3)金戒光明寺(こんかいこうみょうじ=左京区黒谷町)

金戒光明寺のソメイヨシノ
3ヵ所目は京都市営バスの岡崎道停留所から徒歩10分の、浄土宗大本山・くろ谷 金戒光明寺です。

幕末、京都守護職を務めて新選組の後ろ盾となった会津藩主・松平容保(まつだいら・かたもり)が本陣を置いた寺院です。新選組局長の近藤勇は会津藩士との打ち合わせのため、3日とあけずこちらへ通ってきたといいます。

「金戒光明寺は塔頭(たっちゅう:本寺の境内に付属する小さな寺)が十いくつもある大きな寺院です。

全山がソメイヨシノに覆われて、満開の時季には見事な光景を見せるのですが、本堂までは参道の長い石段を登らなければなりませんので、思いのほか花見客は多くありません。

京都大学の前身のひとつ、旧制第三高等学校の寮歌『逍遥(しょうよう)の歌』の始まりは『紅(くれない)もゆる丘の花』ですが、これは金戒光明寺境内の満開の桜をうたったとされています」(水野さん)

作例の桜の花の間からのぞく、山門の扁額の金文字が見事なコントラストです。

「金戒光明寺には三重の塔など多くの素晴らしい建物がありますので、うまく桜と絡めるといい写真が撮れるでしょう。山上から境内の満開の桜越しに見はるかす、春の京都の風景も魅力的なものです。

金戒光明寺の近くには真正極楽寺 真如堂(しんしょうごくらくじ しんにょうどう)や平安神宮、南禅寺、永観堂 禅林寺(えいかんどう ぜんりんじ)など、桜の名所が数多くありますので、そちらを合わせて巡るのもいいでしょう」(水野さん)

なお、金戒光明寺は銘菓『八ッ橋』発祥の地とされています。

「『八ッ橋』は箏(こと=琴)をかたどったものですが、金戒光明寺には箏の名人・八橋検校(やつはし・けんぎょう)の墓所があり、それにちなんで境内にある茶店が箏に似せた菓子を売り出したのが『八ッ橋』の始まりとされているのです」(水野さん)

(4)勧修寺(かじゅうじ=山科区勧修寺仁王堂町)

勧修寺の氷室池の「花筏(はないかだ)」
最後の4ヵ所目は、京都市営地下鉄東西線小野駅から西へ約6分、真言宗山階派大本山の勧修寺です。

「勧修寺の参道と観音堂周辺の桜は穴場ポイントとして紹介されることもありますが、よりおすすめなのは、平安様式の庭園のなかに満々と水をたたえる、氷室池(ひむろいけ)のほとりです。

池の周囲には数十本のソメイヨシノが咲いていますが、満開の桜そのものではなく、あえて散った花びらが水面に落ちた花びらが筏(いかだ)のように漂う『花筏(はないかだ)』を狙ってみました。

穴場ポイント探しには、散ってしまったとあきらめるのではなく、前向きな気のもちようも大切です」(水野さん)

作例の水面のスイレンは、クロード・モネの名画『睡蓮』を思わせます。

「氷室池には護岸が造られていませんので、水面の近くまで近づくことが可能ですし、拝観者もさほど多くありません。スイレンは実に日本的な植物ですので、さらに日本的な錦鯉をあしらってみました。

錦鯉は人が近づくと寄ってきますので、ワンポイントにあしらってみてください。

勧修寺には『玉の輿(こし)』という言葉の由来になったという言い伝えがあります。平安時代前期のその地の豪族・宮道弥益(みやじの・いやます)の居宅跡に醍醐天皇が900(昌泰3)年に創建されたお寺です。弥益には列子(たまこ)という娘がいて、雨宿りに訪れた高級公家の藤原高藤(ふじわらの・たかふじ)に見初められます。

二人の娘・胤子(いんし)はのちに宇多天皇の皇后となり、その子が醍醐天皇として即位するのです。都の外れ山科の小豪族の娘「たまこ」の孫が天皇になった。それで『玉の輿』という言葉が生まれたといいます」(水野さん)

長く京都の風景を撮り続けてこられた水野さんならではの、桜の穴場ポイントを4ヵ所教えて頂きました。数々の知られざる京都にまつわるエピソードの紹介も水野さんならでは。

そちらも思い起こしつつ京都の桜を巡って、自分なりの穴場ポイントもぜひ、発見してみてください。

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