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東日本大震災後、避難所生活で不足した栄養素とは? 栄養面から考えた非常食リスト

2023/03/10 15:25 ウェザーニュース

3月11日、東日本大震災から12年を迎えます。近年、南海トラフ大地震発生のリスクが高まっているとの予測がなされ、さらに夏から秋にかけての台風豪雨、冬の豪雪による山間部集落の孤立など、自然災害発生時に「避難所」での生活を強いられる可能性は少なくありません。

避難所生活で懸念される問題の一つに栄養成分の摂取不足があります。避難所で特に不足しがちな栄養成分はどのようなものなのかについて、日本大学医学部附属板橋病院救命救急センター科長の山口順子先生に解説して頂きました。

避難所では偏った食生活になりがち

被災直後の避難所での食事というと、とりあえず運び込まれたパンやおにぎり、その後の炊き出しのご飯やみそ汁が中心といった印象があります。そんな食生活が続くと、体や心にどんな悪影響が生じてしまうのでしょうか。

「まず、災害に対する不安や恐怖などの心理的ストレスから、持病を抱えた人ならその疾病の悪化、健常者であっても体に生理的な変化が生じます。

栄養補給も日常生活に比べて不十分になってしまうので、避難所での生活は体の状態を悪化させてしまうことになります」(山口先生)

具体的にはどのような栄養成分が不足してしまうのでしょうか。

「避難所では菓子パンや調理パンやおにぎりなど、炭水化物(糖質)が主体の主食が食事の中心を占め、ビタミンやミネラルを多く含む肉や魚、野菜などの副食の摂取が十分でないという偏りが生じがちです」(山口先生)

災害時に不足しがちな栄養素とは?

2011年(平成23年)に発生した東日本大震災の際、宮城県沿岸部の女川(おながわ)町の避難所(女川町総合体育館)で、震災翌日の3月12日から4月30日まで、7週間にわたり、食事記録法および写真記録法によって行われた食事調査の結果を見てみましょう。

宮城県内の避難所では1日標準55gが必要なたんぱく質が平均44g、100mgが必要なビタミンCが平均32mgの摂取と、通常より大幅に不足したそうです。

震災発生からおよそ1ヵ月後の4月21日に厚生労働省が発した通達では、たんぱく質とビタミンCに加えて、ビタミンB1とB2の摂取不足の解消が挙げられていました。

それらの栄養成分が不足すると、どんな悪影響が生じるのでしょうか。

「たんぱく質不足は筋肉量の減少や免疫機能の低下、ビタミンC不足は精神的ストレスが生じやすくなります。

ビタミンB1不足は過労や神経の興奮を助長し、糖質のエネルギー変換を妨げます。ビタミンB2の不足は肌荒れや口内炎の発症など、皮膚や粘膜に悪影響を及ぼします」(山口先生)

当時、宮城県内の管理栄養士が266ヵ所の避難所から上がった報告をまとめたところ、およそ9割の239ヵ所でカロリー不足、7~8割でたんぱく質とビタミン類が欠乏していたとの報道がなされています。

さらに、たんぱく質とビタミンB1、B2の提供量が『目標』に達しなかった避難所が全体の約78~87%で、ビタミンCも必要量に対して平均3割程度にとどまったそうです。

カルシウムやビタミンA、鉄分も配慮が必要

さらに、震災発生から約3ヵ月後の厚労省の通達では、成長期の子どもや女性などの「特定の対象集団」に対して、カルシウムとビタミンA、鉄分の摂取不足への配慮が必要と明記されていました。

「具体的には、カルシウム不足は6~14歳頃の若年層の骨量蓄積に悪影響を与えます。カルシウムを多く含むのは乳製品や小魚、大豆や緑黄色野菜ですが、避難所ではこれらの食品の配給が不足しがちです。

ビタミンAの不足は感染症のリスクが高まるだけでなく、成長期の子どもの成長阻害のほか、骨や神経系の発達が抑制されてしまう可能性もあります。

鉄分はもともと成長期の子どもや女性に不足しがちな栄養成分ですが、避難所で配給される食事には鉄分が少ないことが多く、欠乏によって疲労感やだるさが助長され、貧血を起こしてしまいやすくもなります」(山口先生)

日常に消費でき災害時も使える食品をストック

避難所で不足しがちな栄養補給の必要性を踏まえて、「万が一」の災害に備えて日頃から家庭内に備蓄しておくべき非常食がどんなものかを、農林水産省の『災害時に備えた食品ストックガイド』(2019年)を基にまとめてみました。

「食品ストックガイド」では、「最低3日分~1週間分×人数分の食品の家庭備蓄が望ましい」とし、さらに「ローリングストック」の重要性についても訴えています。

ローリングストックとは、普段使いの食品を少し多めに買い置きしておき、賞味期限が迫ったものから消費し、その分を買い足すことで常に一定量の食品が家庭で備蓄されている状態を保つための方法です。

栄養バランスを考えてサプリメントも有効?

「栄養バランスを考えた備蓄食品」については、東京農業大学名誉教授の小泉武夫先生に解説して頂きました。

「災害直後に不足しがちなたんぱく質を摂るためには、主菜として魚介類や肉類の缶詰が手軽で経済的、長期保存も可能です」(小泉先生)

そのほか丼やカレー、パスタソースなどのレトルト食品・フリーズドライソース類、鉄分の補給にはかつお節や高野豆腐、桜エビ、煮干しなどの乾物も有効だそうです。

「かつお節は70%以上がタンパク質でできています。高野豆腐もタンパク質、脂質に加えてビタミンやミネラルも豊富に含まれています。乾物類はそのまましゃぶれるのもメリットです」(小泉先生)

副菜として日持ちのする野菜を多めに買い置き、野菜ジュースやドライフルーツ、乾物も用意しておきます。インスタントみそ汁や即席スープなども準備しておくといいとのことです。

「切り干し大根は、非常時に心強い栄養源となります。生の大根はほとんどが水分ですが、切って干すだけで糖質とミネラルがぐんと増加します。

さらに、梅干しなどの漬物も常備しておくとよいでしょう。漬物は食物繊維もたくさん摂れるため、非常時でも成人病の予防に役立ちます」(小泉先生)

カルシウム不足を補うためには乳製品の摂取を心がけることが大切だそうです。

「長期間の常温保存が可能なロングライフ牛乳や、粉チーズを準備しておきましょう。そのほか、羊羹は保存が効く上にタンパク質やミネラルが豊富なので、優れた非常食にもなります」(小泉先生)

さらに山口先生は、「摂取と備蓄がしやすいサプリメントを、非常食と一緒に備えておくことも考慮したい」と補足し、次のように続けます。

「栄養素を摂取するためにさまざまな非常食を大量に備蓄しておくのは、実際のところ難しいこともあります。

サプリメントなら場所を取りませんし、避難所へ持って行く際にも軽くので負担になりません。さらに調理が必要ないため摂取がしやすく、長期保存も可能です」(山口先生)

いつ見舞われるかもしれない自然災害に備えて、万が一の際の避難所での栄養補給と、日頃からの非常食、サプリメントの備えも心がけておきましょう。

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参考資料など

佐々木裕子「東日本大震災時の避難所における栄養・食生活状況と管理栄養士としての支援について」、厚生労働省「避難所における食事提供の計画・評価のために当面の目標とする栄養の参照量について」、同「避難所における食事提供に係る適切な栄養管理の実施について」、農林水産省「災害時に備えた食品ストックガイド」