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子どもやお年寄りは要注意! 致死率が高いインフル重症化を防ぐには?

2023/02/11 05:33 ウェザーニュース

インフルエンザへの感染は過去2年間、新型コロナウイルス感染症対策の徹底などにより減少傾向が続いてきました。ところが、今シーズンは国内のインフルエンザ患者発生報告数が6万2583人(厚生労働省の2023年第5週・1月30~2月5日まとめ)と、昨年同期の41人を大きく上回り、3年ぶりに流行している地域が増えています。
インフルエンザ発生状況
インフルエンザ感染症は重症化した場合、致死率が高く、とくに子どもやお年寄りは注意が必要です。インフルエンザの重症化によりどんな症状が見られるかや、重症化を防ぐための注意点などについて、日本大学医学部附属板橋病院救命救急センター科長の山口順子先生に伺いました。

「ハイリスク群」の人は重症化に注意

今シーズンはメキシコやアメリカなどで「H1N1」というインフルエンザが確認されました。「季節性インフルエンザと同等」という報道もなされていますが、心配しなくてよいものでしょうか。

「厚労省によると、今回のインフルエンザは感染力が強いものの、多くの患者が軽症のまま回復しているとされています。ただし、近年はインフルエンザが流行しなかったので、予防接種以外の抗体を持っている人が少なくなっているので、慎重に対応する必要があります。

また、今回のインフルエンザでは、糖尿病や喘息(ぜんそく)などの基礎疾患がある人を中心に重症化する例も報告されています。インフルエンザがハイリスクとなる持病を抱えた人は、十分な注意が必要です」(山口先生)

重症化しやすいリスクが高い疾患を「ハイリスク群」と呼ぶそうですが、具体的にはどのような疾患のことですか。
インフルエンザが重症化しやすい持病
「慢性呼吸器疾患、慢性心疾患、糖尿病などの代謝性疾患、腎機能障害、ステロイド内服などによる免疫機能不全などが挙げられます。

また、乳幼児や高齢者に加えて、妊婦もインフルエンザが重症化することがあると報告されています。乳幼児は免疫がなく高齢者は免疫力が低下しているため、妊婦は妊娠中に免疫力が落ちるためインフルエンザに感染しやすく、重症化しやすいのです。妊婦が感染すると、早産になるケースも報告されています」(山口先生)

死亡率と後遺症の可能性が高いインフルエンザ脳症

インフルエンザの重症化に伴う疾患、症状には子どもの場合、どのようなものがありますか。

「おもに5歳以下の乳幼児がかかる疾患として、『インフルエンザ脳症』があります。

脳症とはウイルスが直接脳に入って増殖し、炎症を起こして神経細胞が破壊される『脳炎』とは異なり、脳内にウイルスや炎症細胞が見あたらなくとも脳が腫れ、頭の中の圧力が低下する疾患をいいます。それによって脳全体の機能が低下し、意識障害が起きます。

インフルエンザ脳症はインフルエンザをきっかけとして起きるもので、神経症状が出るまでの期間がインフルエンザによる発熱から数時間~1日と、短いのが特徴です。インフルエンザ、とくにA香港型の流行時に発生しやすく、流行の規模が大きいほど発症が多発する傾向にあります。欧米での報告は非常に少ないのですが、日本では多発しています。

厚労省は1998~99年シーズンからインフルエンザ脳症の全国調査を行っています。それによると、年間100~300人の子どもが感染し、死亡率は約30%と高く、25%の乳幼児に後遺症がみられたそうです。インフルエンザ脳症は極めて重い疾患であることを理解しておいてください」(山口先生)

インフルエンザ脳症を見分けるには?

インフルエンザ脳症の発症はどうやって見分ければいいでしょうか。

「インフルエンザ脳症の初期には、咳(せき)やのどの痛み、発熱などインフルエンザの症状に加えて、呼びかけに答えないなどの意識障害や異常な言動、持続性のけいれんなどの症状が現れる傾向があります」(山口先生)

異常な言動の実際の例として、次のようなものが報告されています。

▼自分の手を『ハムだ、ポテトだ』と言ってかじりついた
▼点いていないテレビを見て『猫が来る、お花畑がたくさんある』と口走った
▼咳をしたのち枕に自分で頭を打ち付け、キャーキャー叫んだ
▼突然赤ちゃん言葉になってわけの分からないことを言い始めた
▼知っている言葉をとりとめなくしゃべっていた

「子どもにこれらのような様子が見られた場合には、すぐに医療機関を受診してください。

また、強い解熱剤の服用によって、インフルエンザ脳症がより重症化することがあります。乳幼児に解熱剤を用いる際には、かかりつけの医師に必ず相談してください」(山口先生)

インフルエンザと肺炎の合併症にも注意

高齢者の重症化による疾患はどのようなものがありますか。

「お年寄りで最も注意が必要なのはインフルエンザと肺炎の合併症で、命にかかわるケースも少なくありません。インフルエンザの感染によって気道が炎症を起こすと粘膜が弱り、細菌が侵入したり肺炎球菌などの常在菌が肺に達して増殖し、重い肺炎を引き起こす原因になるのです。

お年寄りはインフルエンザや合併症の肺炎を起こしていても、咳や痰(たん)、高熱などの症状が現れにくいため、重症化が進むまで気がつきにくいことがあります。

微熱や軽い咳が4~5日も治まらない、呼吸が速く浅い、食欲がなくぐったりしがちなどの様子がみられたら、肺炎を疑ってすぐに医師の診察を受けるようにしてください。とくに基礎疾患をもっているお年寄りには、注意が必要です」(山口先生)

インフルエンザの予防と重症化を防ぐには

インフルエンザの予防と重症化を防ぐには、どのような方法があるのでしょうか。

「インフルエンザの予防には、次に挙げる『三原則』を心がけてください。

(1)免疫力を付ける
免疫力を付けるには、インフルエンザワクチンの予防接種するのが効果的です。100%罹患(りかん)しなくなるわけではありませんが、発症したとしても重症化や合併症を予防する効果もあります。A型・B型・新型インフルエンザなどの種類によって効果が出にくい場合もありますが、医師と相談して接種するようにしましょう。

(2)感染経路を断つ
新型コロナウイルス対策と同様に、人混みを避ける、外出の際はマスクをする、外出後に手洗いとうがいをして、家族への感染を防ぎましょう。

(3)抵抗力を付ける
人間がもつ基礎抵抗力を付けることが重要です。十分な睡眠と休養、バランスのとれた食事、健康的な生活習慣を心がけましょう。

インフルエンザの情報は厚労省から毎週、詳細なデータが発表されていますし、流行の兆しなどの情報は日々の新聞やニュース番組、ネットニュースでも報じられています。それらのチェックも怠らないようにしてください」(山口先生)

懸念されているインフルエンザと新型コロナウイルスの同時流行も、一人ひとりの心がけで予防することは不可能ではありません。寒い冬を健康な心身で乗り切っていきましょう。
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