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お供えする数は決まっている? 月見団子の秘密

2022/09/09 11:35 ウェザーニュース

太陰太陽暦(旧暦)の8月15日夜に見える月は「中秋の名月」と呼ばれ、2022年は9月10日にあたります。「十五夜」ともいわれるこの日、名月を愛でる「お月見」のお供えには月見団子が欠かせません。

ウェザーニュースで月見団子を用意するかについてアンケート調査を実施したところ、「家で作る」が4%、「買う」が29%で合計3割ほどの人が十五夜に月見団子を用意する予定があるようです。

地域別で詳しく見ると、近畿や東北地方では用意する割合が4割に上るなど、他の地域よりも月見団子に馴染みがありそうです。

月見団子の起こりや歴史、そもそもなぜ十五夜に月見団子を供えるのかなどについて、歳時記×食文化研究所の北野智子さんに伺いました。

月見団子の発祥は江戸時代

まず、なぜ旧暦の8月15日夜に「お月見」をする風習が生まれたのでしょうか。

「旧暦8月15日に月を愛でる十五夜の月見の習わしは、唐代(618~907年)に中国から伝わってきた『中秋節』という月を祀(まつ)っていた祭事と、古来日本にあった月を祀る風習が合わさったものだといわれています。

中国の『中秋節』は平安時代(794~1185年頃)の貴族に採り入れられて、宮中では885(仁和元)年、あるいは897年(寛平9)に月見の宴が催されたといいます。当初は詩歌(しいか)を作り、管弦を楽しむ行事だったようです。

その後、秋の実り・収穫を控えて豊作を願う行事として、民間にも広まっていったといわれています。

お月見の折、月に供え物をするようになったのは、室町時代(1336~1573年)からのようです」(北野さん)

団子以外のお供え物も?

お月見の供物(くもつ)は、古くから団子とされていたのでしょうか。

「お月見は名月を愛でるだけでなく、秋の実り・収穫を祈り、感謝する意味合いが込められていましたから、もともと月見の折には、里芋、栗、大豆など、秋の初物の収穫物をお供えしていました。一説には、十五夜の満月にちなんで、これら丸い形の作物を供えたとも伝わっています。

十五夜のお月見に団子を供えるようになったのは、江戸時代になってからといわれています。それまでは、十五夜には里芋、十三夜(旧暦9月13日の夜、2022年は10月8日)には豆が供えられていたようです。

そのため、十五夜には『芋名月』、十三夜には『豆名月』という別名があります。月見団子が丸いのは、里芋をかたどったからともいわれています。

団子は『ハレの日(年中行事やお祭りなどの特別な日)』の食べ物である一方で、くず米や欠け米、雑穀を粉にして、団子汁や焼き団子にして日常の主食代わりにも食べられてきたものでした。

十五夜の時期は収穫前で、コメにとっては端境期(はざかいき)にあたります。保存状態をよくしておかないと、お櫃(ひつ)の底には欠け米混じりのコメが溜まってきます。それをふるいで通して、粒米はご飯として炊き、欠け米は粉にして団子にしたのではないかという説があります」(北野さん)

お供えする数は決まっている?

月に供える団子の数や供え方には“定め”があるのでしょうか。

「団子の数は十五夜なので15個、十三夜なので13個とされています。

十五夜の際の供え方としては、三方に奉書紙を敷いて月見団子を15個並べ、月の出る方角へ正面を向けて供えます。月から見て左側が上座にあたりますので、供える側から向かって左手に里芋など秋の収穫物、右手に月見団子を配するのがしきたりとされています。

また、秋の豊作を祈るため、稲穂に見立てたススキの穂に、秋の七草(ハギ、ススキ、クズ、ナデシコ、オミナエシ、フジバカマ、キキョウ)なども一緒にお供えするところもあるようです。

南九州ではお月見の風習として、綱引きが行われたようです。豊作祈願の行事のひとつともいわれ、子どもたちが山からカズラを取ってくると、青年たちが綱を作ってくれます。子どもたちは家々をまわって大豆を集め、豆腐を作って綱作りのお礼とし、月の出を待って綱引きを始めるといいます。

また、鳥取県では旧暦8月15日を『初めて芋を掘る日』と定め、この日を『芋の子誕生』と呼ぶそうです」(北野さん)

地域によって団子の形が違っていた!?

地域によって月見団子の形が違うと聞きました。

「関東では丸形ですが、関西は里芋をかたどった細長い形です。私(北野さん)は父方が大阪で母方が京都の出身、自身は大阪で生まれ育ちましたが、『月見団子といえば、里芋形の団子に餡(あん)を巻いたもの』であり、丸形の月見団子は、手に取ったことがありません。

静岡県では米粉をこねて平らにし、真ん中を指で凹ませた『へそ餅』を供えるそうです」(北野さん)

暦(こよみ)と実際の天体の動きとの関係で、中秋の名月と満月の日付がずれること(2024年は中秋の名月が9月17日、満月が9月18日など)がしばしばあるそうですが、今年は中秋の名月が満月にあたります。

今年の十五夜は、真ん丸のお月様を愛でながら、それぞれの思いをめぐらせてみませんか。
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参考資料など

『和食文化ブックレット2 ユネスコ無形文化遺産に登録された和食 年中行事としきたり』(和食文化国民会議監修・中村羊一郎著/思文閣出版)、『「まつり」の食文化』(神崎宣武/角川選書)、『年中行事事典』(田中宣一・宮田登編/三省堂)、『民俗学辞典』(柳田国男監修/東京堂出版)、『暮らしのならわし十二か月』(白井明大/飛鳥新社)、『日本の「行事」と「食」のしきたり』(新谷尚紀監修/青春出版社)、『年中行事読本』(岡田芳朗・松井吉昭/創元社)、『事典 和菓子の世界』(中山圭子/岩波書店)、『常識として知っておきたい 日本のしきたり』(丹野顯/PHP文庫)