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毎月衣替え!? 日本で一番有名になった小便小僧、梅雨どきの姿は?

2022/06/20 08:43 ウェザーニュース

愛らしい小便小僧。本家はベルギーの首都ブリュッセルのエチューブ通りにあります。1619年の建立以来、400余年、ブリュッセルの名所として親しまれてきました。

日本でも公共施設や多くの公園に小便小僧が置かれていますが、話題性の面で一頭地を抜く小便小僧があります。設置されている場所は、JR浜松町駅の3・4番ホームの端(田町駅寄り)。知る人ぞ知る同駅の名物で、わざわざこの像を見るために駅を訪れる人も少なくないといいます。なぜ、ここまで愛されているのか。それは毎月必ず着せ替えが行われているからです。

小便小僧の衣装を35年間も作り続けている手芸グループ「あじさい」の代表・後藤和子さんと、庶民文化研究の第一人者である町田忍さんに話を伺いました。

※冒頭の画像は「梅雨」(2022年6月)、「春の火災予防運動」(2022年3月)、「お正月」(2022年1月)、「鬼滅の刃」(2021年2月)の装いです

毎年6月の定番スタイルは雨合羽

すでに関東地方にも梅雨前線が停滞して梅雨に入りました。このため季節を反映して現在の浜松町駅の小便小僧は、梅雨の装いをしています。

緑色のアマガエルをモチーフとした雨合羽に交通安全の黄色い傘、それに黄色いかわいい長靴です。子供の安全を考慮した色ですから、通過する列車からもはっきりと雨合羽姿を確認することができます。

これまでも、6月の衣装は梅雨をモチーフとした雨支度が多く、さまざまな雨合羽やレインウエアに着せ替えられてきました。
小便小僧は梅雨のように、季節や行事(正月、入学式、節句、ハロウィーン、クリスマスなど)をテーマに衣装が製作されているのが特徴で、浜松町駅の風物詩として楽しみにしているファンがたくさんいます。

小便小僧の衣装替えは60年以上続く

浜松駅に初めて小便小僧がお目見えしたのは、70年前の昭和27(1952)年。最初は歯科医によって寄贈された白い陶器製でしたが、昭和43(1968)年に現在のブロンズ製に生まれ変わりました。

着せ替えが行われるようになったのは、昭和30(1955)年から。一時中断したものの、昭和61(1986)年からは、港区の手芸グループ「あじさい」のメンバーが着せ替えを続けています。

「前任者の着せ替え活動から数えると60年以上、〈あじさい〉がバトンタッチしてから、すでに36年近くが経ちました。最初は東京消防庁芝消防署から要請があり、11月の火災予防運動PRのために消防服を着せたのが、私たちの活動の始まりです。防火運動が終わってからも、裸に戻すのはかわいそうで、12月にサンタクロース、1月に紋付袴を着せてしまいました」

「着せ替えはそれ以来、ずっと休むことなく続けています。着せ替えるのは毎月26日です。1時間ほどかかりますが、駅利用者のみなさんに少しでも和んでいただけるよう、祈りを込めて着せ替えています。目に留めていただけると、大きな励みになります」(後藤さん)

世相が反映されている点が見逃せない

芝消防署と協力して行ってきた火災予防運動PRの着せ替えは、3月と11月の年に2回。同署の全面協力を得て行っています。オレンジ色の消防服を着せたり、町火消しの刺子半纏(さしこはんてん)を纏(まと)わせたり、消防署の楽隊姿あり、といろいろな工夫を凝らしてきました。消火の現場によって、消防服にもいろいろな種類があることがわかります。

着せ替えのアイデアは尽きることがありません。

JR浜松町駅の駅長さん(2017年10月)の姿となったこともありますし、紅白の旗を持ってNHK「紅白歌合戦」の応援をしたこともあります(2016年12月)。山手線スタンプラリーに合わせて、ウルトラマンの父(2016年2月)やキン肉マン(2019年2月)、「機動戦士ガンダム」のシャアなどの人気キャラクターに扮することもしばしば。2021年2月には「鬼滅の刃」の竈門炭治郎も登場しました。

「私が浜松町の小便小僧の存在を知ったのは30年ほど前のことです。駅を利用するたびに衣装が替わる小便小僧に興味を持ち、それ以来、ずっと定点観測を続けてきました。

季節の装いも楽しみですが、魅力は世相が反映されている点にあります。オリンピックの開催年には五輪の旗を持ち、名優・渥美清さんが亡くなった1996年には寅さんの衣装(窓枠格子柄のダブルに雪駄履き、革鞄を下げて首にはお守り)、サッカーのワールドカップ開催年にはユニホームとボール、といった具合です」(町田さん)

町田忍さんは、ご自身の著書『町田忍の昭和遺産100 令和の時代もたくましく生きる』(天夢人刊)でもこの小便小僧を貴重な「昭和遺産」に認定して紹介。「ステーションアイドル」という独特の造語で位置づけています。

街頭人形を「ストリートアイドル」と定義づけるなど、大衆文化をキャッチーにカテゴライズしてきた町田さん。

「何が登場するのか、毎月、浜松町駅に足を運ぶのが楽しみ。これまで東京消防庁のマスコットきゅーた君や、昨年はコロナ禍のなか、マスク姿など、時代を物語るキャラクターがたくさん登場してきました。今後の活動が楽しみです」と〈あじさい〉にエールを送っています。
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