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種まきや水やりは? 530万本の圧巻絶景! 国営ひたち海浜公園のネモフィラの秘密

2022/04/29 09:19 ウェザーニュース

ゴールデンウィーク(GW)前後になると“季節の風物詩”として、国営ひたち海浜公園(茨城県ひたちなか市)「みはらしの丘」を青一色に彩る、ネモフィラの美しい情景の映像や写真を目にする機会が増えています。

“一度は訪れてみたい”と人気が高まる一方、ネモフィラとはどんな植物なのか。そして「見頃」とされる4月中旬から5月上旬を迎えるまでどのように育てられているのかなどについて、国営ひたち海浜公園 企画運営課 広報係の星みきさんに解説をお願いしました。

今年のネモフィラの生育状況は?

ネモフィラとは、そもそもどんな植物なのでしょうか。

「ネモフィラは北アメリカ原産で、ムラサキ科(旧・ハゼリソウ科)ネモフィラ属の一年草です。直径3cmほどの小さな花を咲かせ、和名は花の青い色と唐草模様のような葉の形にちなむ『瑠璃唐草(るりからくさ)』、英名では赤ちゃんの澄んだ瞳を意味する『ベイビーブルーアイズ』です。

属名のネモフィラは、ギリシャ語の『ネモス(小森)』と『フィレオ(愛する)』を合わせた言葉で、森林の周辺に自生することに由来します。国営ひたち海浜公園で植栽しているネモフィラは、『インシグニスブルー』という品種です」(星さん)

今年のネモフィラの生育状況はいかがでしょうか。

「今年は例年に比べるとやや早い開花状況で、4月22日から『見頃』を迎えています。例年見頃のピークは1週間〜10日ほどとなり、今年はGWいっぱいまで見頃の状況をお楽しみいただける見込みです」(星さん)

国営ひたち海浜公園には年間で多くの人が訪れますが、特にネモフィラが見頃の時期に集中するそうです。

「新型コロナウイルス感染症流行前は、年間200万人を越えるお客様にご来園いただいておりました。年によっても異なりますが、ネモフィラの見頃とGWが重なる年のGW期間の入園者数は多い年で約58万人(2017・2019年)と、全体の4分の1に上ります」(星さん)

200万本から現在は530万本に!

青一色の丘が空や海と溶け合う絶景
みはらしの丘でネモフィラが植栽されるようになったきっかけは。

「みはらしの丘は戦後、米軍の射爆撃場として利用された場所です。跡地を『平和の象徴として公園を整備したい』という地元の願いと、公園スタッフの『この丘を空とつなげよう!』との思いにより、空と海の青と溶け合う唯一無二の風景を創り出しました。

ネモフィラの植栽がスタートしたのは2002年のことです。当初は約1.5ha、約200万本でしたが、現在は約4.2haに約530万本を植栽しています」(星さん)

全国的な人気になった「秘密」は、どのような理由ですか。

「スタッフが長い年月をかけて粘り強くブランディングや丘の改善を続けてきた結果だと考えています。『絶景』として紹介される機会が徐々に増え、SNSの拡大とともに認知度が向上。日本や世界から注目を集めるまでになりました。

また、茨城県やひたちなか市など周辺自治体と連携して、国内や世界への観光誘致施策を積極的に展開してきたことや、公共交通機関や地域との連携による観光周遊の促進などの取り組みも、現在の人気につながっていると思います」(星さん)

種まきや水やりはどうしている?

530万本ものネモフィラをどのように管理しているのか?
ネモフィラが咲く美しい風景をつくり、保つには手間がかかると思います。種まきや水やりなどの作業は、どのように行われているのでしょうか。

「ネモフィラは毎年11月下旬に延べ80人ほどで約2週間かけ、種まきを行っています。種の大きさは、1粒1mmほど。130Lの種を約4.2haのみはらしの丘に、均等になるようにまいていきます。

みはらしの丘での種まきの手順は、まず、目印となるラインを20cm間隔に引きます。次に、ラインに沿って手作業で種をまき、土をかぶせていきます。春に美しく咲きそろうように日当たりなども考慮し、種をまくエリアの順番にも工夫しています。

種まきの後、ネモフィラは10日から2週間ほどで芽を出し始めます。12月中旬より冬の低温から株を守るための『霜よけシート』の設置に移ります。約4.2haに約2週間かけて、延べ160人ほどの手作業で行います。

霜よけシートは約2m幅の帯状の白い不織布。設置は隣同士重ね合わせながら張り、ピンで固定していく作業で、丁寧に斜面に沿わせながら丘一面を隙間なく覆っていきます」(星さん)

シートの設置順にも工夫をしているそうです。みはらしの丘は斜面の向きや角度により生育環境が異なるため、霜よけシートの保温・成長促進効果により、ネモフィラの成長差をコントロールしているとのことです。

霜よけシートに覆われた冬のみはらしの丘は、日に照らされて白銀に輝き、スキー場のゲレンデのような風景になるそうです。空気が澄んだ冬は頂上からの眺めもおすすめで、筑波山や那須連山などの山々まで見渡すこともできます。

霜よけシートが設置されたみはらしの丘
「霜よけシートの撤去は2月頃から、延べ70人ほどの手で実働10日間前後で行います。保温性が高いシートには成長促進効果もあるため、株が大きく育っている箇所から優先的に撤去。春に丘全体がきれいに咲きそろうように、ネモフィラの生育状況を観察しながら、計画的に進めています」(星さん)

肥料と水やりについてはどうでしょうか。

「種をまく前に堆肥(たいひ)を土に混ぜ込んでいますが、元肥(もとごえ)は使用していません。ネモフィラは乾燥した環境を好み、栄養分の要求量も高くありませんので、種まき後に水や肥料を与える事は基本的にしません。なお、生育の芳しくない箇所については水やりや肥料散布を行う場合もあります」(星さん)

ネモフィラが終わった後はどうなる?

10月中旬には真っ赤に紅葉するコキア
ネモフィラの時期を終えたみはらしの丘は、どんな様子になるのでしょうか。

「ネモフィラに替わって、例年6月下旬からコキアの苗の植え付けを手作業で行います。夏の日差しを浴びて成長が進み、8月いっぱいかけて大きくなります。

夏のみはらしの丘には、ふんわりもふもふとしたライムグリーンのコキアが並び、9月上旬には小さな花が咲き、全体的に黄色味を帯びてきます。10月上旬から色づき始め、緑と赤の美しいグラデーションに。10月中旬には真っ赤に紅葉。その後徐々に赤みが抜けて、10月下旬には黄金色へと変化します。

例年11月最初の休園日(火曜日)にコキアの抜き取りを行い、再び翌年春のネモフィラに向けた準備が始まるのです」(星さん)

国営ひたち海浜公園での今年のネモフィラの見頃は、ちょうどGW最後の日曜日にあたる5月8日までの予想です。見頃時期の予想は今後の天候により変化するため、同園HPで随時更新しているとのこと。機会があれば新型コロナウイルス感染症対策を十分に施したうえ、みはらしの丘の「絶景」を楽しんでみてはいかがでしょうか。

また、みはらしの丘のネモフィラ「インシグニスブルー」は流通量の多い品種なので、園芸店やホームセンターなどで手軽に購入することができるそうです。自宅で絶景気分を味わってみるのも、いいかもしれません。
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参考資料など

取材協力・写真提供/国営ひたち海浜公園