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なぜ、春には黄色い花が多いのか?

2022/03/05 10:00 ウェザーニュース

気候が暖かくなるにつれ、色とりどりの花が咲き始めます。本格的な春の到来を、楽しみに待っている方も多いかもしれません。ところで、早春から春の盛りにかけて咲く花には、黄色の花が多いと感じたことはありませんか?

今回は「花の色は何のためにあるのか」「春の花に黄色が多い理由」を、日本花の会研究員の小山徹さんに伺いました。

花の色は何のためにある?

「多くの種子植物は種子を形成して次世代の繁殖に備えます。そのため受粉が必要となり、さまざまな受粉戦略を用意しています。結論から言えば花の色は、昆虫を惹きつけるための生き残り戦略の一つなのです」(小山さん)

種子植物を受粉の方法で分けると、次のようになるそうです。

▼虫媒花:昆虫を仲立ちとして受粉を行う花たちです。昆虫を惹きつけるため、香りの良さ、蜜の多さ、花の色で勝負をします。

▼風媒花:風を仲立ちとして受粉を行う花たちです。ピンポイントではなく広範に花粉を飛ばして受粉させます。多くは香りも蜜も持たず、色が目立たない植物です。

▼鳥媒花:方法は虫媒花と同じですが、鳥に仲立ちをしてもらいます。外国にはハチドリによる受粉が多く見られますが、日本にはハチドリがいないので、鳥媒花自体が多くありません。

▼水媒花:方法は風媒花と同じですが、花粉を水の流れに乗せて受粉させます。

「これらの中で、多いのは虫媒花です。そのため、昆虫が花粉を運んでくれるかどうかが、子孫を残せる鍵になります。虫媒花の花たちにとって、花の色は人間の鑑賞のためではなく、昆虫を引き寄せるためにあるのです」(小山さん)

春の花に黄色が多い理由

「早春から春にかけて黄色の花が多いのは、まだ色彩に乏しい山野で、黄色が目立つ色だからです。また、早春からいち早く活動を始める昆虫にはアブやハエの仲間が多く、これらは黄色い色に敏感だと言われています」(小山さん)

小山さんから、興味深い話を伺いました。

「私は10年以上前に、ある博物館の企画展示の中で、虫(ハエ)の眼を通した見え方を体験したことがあります。人の視覚とは違って黄色、緑色、ピンクがはっきり見えず、全体的に青色、紫色系統に見えました」(小山さん)

昆虫と植物の「共進化」を研究した京都大学の発表によると、昆虫が識別できる光の波長は人間より短波寄りで、300から600nm(ナノメーター)の範囲だと言われています。ですから紫外線を含む青色や紫色などの短い波長の光には反応しやすく、赤色などの長い波長の光には反応が鈍いのです。

では、なぜ見えにくい黄色に昆虫が反応するのでしょうか。

花を彩る色素でいうと、カロチンの黄色(タンポポ、レンギョウ、ヤマブキ、キンセンカ、パンジーなど)は紫外線を吸収し、フラボンの黄色(キンギョソウ、バラ、アサガオ、チューリップ、ユリなど)は紫外線を反射します。

同じ黄色でも、虫媒花は色素を使い分けて昆虫へのガイドマークをつくっているのです。

代表的な春の黄色い花たち

小山さんから、都市部でも楽しめる、代表的な春の黄色い花を教えていただきました。

▼菜の花:早春に黄色い花を咲かせるアブラナ科の植物。桜と開花時期が近いので、日本各地の桜並木の近くによく植えられています。

▼ミモザ:別名はアカシア。マメ科の木で、2~3月には樹木全体が黄色く染まるほど、小さな球形の花をびっしりと咲かせます。

▼タンポポ:春の代表的な野草です。開花時期は長く、3~4月に公園で咲く姿がよく見られます。花の後につく綿毛も風情があります。

▼ヤマブキ:バラ科の落葉低木で、春の季語。古くからヤマブキ色と呼ばれる、やや赤みがかった黄金色に近い黄色の花を咲かせます。

▼スイセン:冬から春にかけて黄色い花を咲かせる球根植物です。手間がかからず寒さに強いので、花壇やベランダでの栽培に適しています。

▼レンギョウ:中国原産の落葉低木。繁殖力が強く、よく繁ります。葉が芽吹く前の早春に黄色い花を密生させ、実は漢方薬として使われます。

皆さんも黄色い花を見かけたら「春なんだな」と足を止めて眺めてはいかがでしょうか。

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参考資料など

京都大学「人間の目・昆虫の目・機械の目 自然界における昆虫と植物の共進化」