関東と関西では「爪」の向きが逆
熊手は竹で作られた熊手(古くからの掃除道具)に、さまざまな神様や縁起物をつけた華やかな飾り物です。とくに商売を営む人々にとっては、「金運を搔き寄せる」という意味合いから店に置かれてきました。発祥は定かではありませんが、江戸時代中〜後期には庶民生活に定着していたようです。
「享保年間(1716〜36年)に刊行された地誌『続江戸砂子』に、早くも大鷲神社の酉の市の記述があります。この時代の熊手がどのようなものかは不明ですが、江戸時代中期以降の浮世絵には、今日とほとんど変わらない熊手が描かれています。面白いのは、関東の熊手は爪の向きが手前、関西の熊手は爪の向きが逆で後ろ側に向いている点です」(町田さん)
「享保年間(1716〜36年)に刊行された地誌『続江戸砂子』に、早くも大鷲神社の酉の市の記述があります。この時代の熊手がどのようなものかは不明ですが、江戸時代中期以降の浮世絵には、今日とほとんど変わらない熊手が描かれています。面白いのは、関東の熊手は爪の向きが手前、関西の熊手は爪の向きが逆で後ろ側に向いている点です」(町田さん)
熊手に飾られた神様や縁起物は数十種類
違いは爪の向きだけではありません。関東では11月の酉の日に開かれる酉の市で販売されますが、関西では恵比須様の縁日である十日戎(1月9・10・11日)で販売されます。
関西ほど盛んではありませんが、関東でも十日戎は行われています。逆に関西に酉の市はありません。東京都台東区浅草の鷲神社の酉の市や兵庫県西宮市の西宮神社の十日戎は、年末・年初の歳時記となり、立錐(りっすい)の余地がないほどの人出となります。
「関東では熊手の中心におかめの面(天照大神の象徴)を据えますが、関西では大黒様や恵比須様が主役となる点も異なります。そのほかの飾り物は、大福帳・小判・宝船・打出の小槌・千両箱といった金運を象徴するアイテムから、鶴亀・松竹梅・鯛・当たり矢・注連縄・枡・米俵・鯱鉾・鳥居・神輿などと盛りだくさん。
これが一つに合体されます。だから招福パワーがあるのです。“ラッキーゴッド”のオンパレードという感じですね。熊手は最強の招福アイテムではないでしょぅか」(町田さん)
十日戎では福笹(笹に縁起物をぶらさげたもの)や福笊(福箕〔ふくみの〕とも/笊に縁起物を飾ったもの)も人気があります。笊には「福をさらう」「熊手で集めた福をすくう」という意味が込められ、笹も常緑で縁起のいいアイテムです。
関西ほど盛んではありませんが、関東でも十日戎は行われています。逆に関西に酉の市はありません。東京都台東区浅草の鷲神社の酉の市や兵庫県西宮市の西宮神社の十日戎は、年末・年初の歳時記となり、立錐(りっすい)の余地がないほどの人出となります。
「関東では熊手の中心におかめの面(天照大神の象徴)を据えますが、関西では大黒様や恵比須様が主役となる点も異なります。そのほかの飾り物は、大福帳・小判・宝船・打出の小槌・千両箱といった金運を象徴するアイテムから、鶴亀・松竹梅・鯛・当たり矢・注連縄・枡・米俵・鯱鉾・鳥居・神輿などと盛りだくさん。
これが一つに合体されます。だから招福パワーがあるのです。“ラッキーゴッド”のオンパレードという感じですね。熊手は最強の招福アイテムではないでしょぅか」(町田さん)
十日戎では福笹(笹に縁起物をぶらさげたもの)や福笊(福箕〔ふくみの〕とも/笊に縁起物を飾ったもの)も人気があります。笊には「福をさらう」「熊手で集めた福をすくう」という意味が込められ、笹も常緑で縁起のいいアイテムです。
「赤物熊手」と「青物熊手」とは?
熊手は大きさや値段に大きな差があります。これには特別な理由がありました。必ずしも財布に余裕がある人が大きな熊手、というわけではないのです。
「基本的に商売繁盛の招福アイテムですから、最初は小さい熊手を飾り、商売が軌道に乗って御利益を感じたら、年を追うごとに大きくしていく。これが金運をアップさせる購入法です。飾るのは人目に多く触れる場所が原則で、寝かせずに立てて飾ることが大切です。
あまり知られていませんが、熊手には手工品の赤物熊手と大量生産の青物熊手があります。
高価な赤物熊手は、主に料亭や花街、歌舞伎界や芸能界などで利用される味のある工芸品です(一般の人も酉の市で購入できます)。
青物熊手はプラスチックを主体とした安価で派手な熊手です。これが通常の熊手です。通常といったのは、「赤物熊手」の生産者は現在、浅草よし田という老舗ただ1社のみで、供給量が圧倒的に少ないためです」(町田さん)
「基本的に商売繁盛の招福アイテムですから、最初は小さい熊手を飾り、商売が軌道に乗って御利益を感じたら、年を追うごとに大きくしていく。これが金運をアップさせる購入法です。飾るのは人目に多く触れる場所が原則で、寝かせずに立てて飾ることが大切です。
あまり知られていませんが、熊手には手工品の赤物熊手と大量生産の青物熊手があります。
高価な赤物熊手は、主に料亭や花街、歌舞伎界や芸能界などで利用される味のある工芸品です(一般の人も酉の市で購入できます)。
青物熊手はプラスチックを主体とした安価で派手な熊手です。これが通常の熊手です。通常といったのは、「赤物熊手」の生産者は現在、浅草よし田という老舗ただ1社のみで、供給量が圧倒的に少ないためです」(町田さん)
「粋」な買い方に挑戦してみよう
酉の市や十日戎で熊手を購入するとき、現在ではつけ値で購入するお客がほとんどです。関西はともかく、関東では値切ること自体が少なくなってきています。しかし、本来は値切って買うのが当たり前でした。
「値切るといっても、そこには暗黙のルールがあります。例えば江戸っ子は売り手と丁々発止の末に極限まで値切り、支払いのあとに値切った分だけご祝儀として店に渡すという〈粋〉な買い方をしていました。値切ったことにはならないわけですが、ご祝儀とした分だけ、神様の御利益が高くなるという理屈です」(町田さん)
かつては「これ、もらおうか。いくら?」「はいよ!5万円」「もっとまかんない? 5千円でどうだい」「あいよ、売った!」「うれしいねえ。それじゃ5千円、それに4万5000円はご祝儀だ」「毎度あり!」。
こんなやりとりが普通に行われていました。年配の常連さんは、今でもこの「値切ってご祝儀」という方法で購入しているといいます。
なかなか勇気がいる買い方ですが、挑戦してみてはいかがでしょう。
ご祝儀となる理由は、露天で熊手を購入しても、建前的は神社から熊手を「授与」されたことになるためです。つまりご祝儀を神社に奉納したことになり、御利益が高まるのです。
» ウェザーニュースの記事をアプリで見る
「値切るといっても、そこには暗黙のルールがあります。例えば江戸っ子は売り手と丁々発止の末に極限まで値切り、支払いのあとに値切った分だけご祝儀として店に渡すという〈粋〉な買い方をしていました。値切ったことにはならないわけですが、ご祝儀とした分だけ、神様の御利益が高くなるという理屈です」(町田さん)
かつては「これ、もらおうか。いくら?」「はいよ!5万円」「もっとまかんない? 5千円でどうだい」「あいよ、売った!」「うれしいねえ。それじゃ5千円、それに4万5000円はご祝儀だ」「毎度あり!」。
こんなやりとりが普通に行われていました。年配の常連さんは、今でもこの「値切ってご祝儀」という方法で購入しているといいます。
なかなか勇気がいる買い方ですが、挑戦してみてはいかがでしょう。
ご祝儀となる理由は、露天で熊手を購入しても、建前的は神社から熊手を「授与」されたことになるためです。つまりご祝儀を神社に奉納したことになり、御利益が高まるのです。
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参考資料など
『町田忍の縁起物のひみつ』(町田忍/天夢人)、『招福縁起物大図鑑』(荒俣宏/ワールドマガジン)