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ノロウイルスはアルコール消毒が効きにくい!? 対策は?

2021/12/16 04:57 ウェザーニュース

新型コロナウイルス感染症への予防から、手指のアルコール消毒が日常の習慣として定着するようになりました。ところが、例年11月から2月にかけての冬場に発症が目立つ感染性胃腸炎の原因となるノロウイルスは、「アルコール消毒が効きにくい」といわれています。

集団食中毒の原因にもなりやすいノロウイルスにアルコール消毒が効きにくいとされる理由や、感染予防対策などについて、横浜鶴見リハビリテーション病院(横浜市鶴見区)の吉田勝明院長に伺いました。

今年はノロウイルスが増加傾向

ノロウイルスにはどのような特性があるのでしょうか。

「ノロウイルスはロタウイルス、サポウイルス、アデノウイルスなどとともに感染性胃腸炎の原因となるウイルスのひとつです。とくにノロウイルスは感染力が極めて強く、わずか10個のウイルスが体内に入っただけで発症する可能性も指摘されています。

感染性胃腸炎は病原体が口から入り込んで感染し、腹痛や下痢、おう吐に加えて発熱症状も起こすことがある病気です。去年に比べて今年は11月中旬以降、ノロウイルスが原因とみられる感染性胃腸炎の感染者数が昨年に比べて増加傾向にあることが、国立感染症研究所の調査で明らかになっています。

感染性胃腸炎の定点当たりの最新の報告数(11月22日〜28日)をみると、都道府県別の上位3位は福岡県(7.59)、埼玉県(7.04)、熊本県(6.54)です」(吉田院長)

何度も罹患する可能性も

例年ノロウイルスによる胃腸炎は、12月から1月にかけてが発症のピークになりますので、この時季こそ注意が必要です。

「ノロウイルスの特徴として、空気感染などによる感染力が強いことに加え、一生のうちに何度も罹患(りかん)してしまう可能性があることが挙げられます。

ノロウイルスには多くの遺伝子の型が存在し、変異を起こしやすいからです。気付かないうちに感染している『不顕性感染』のケースも多く、有効な抗ウイルス剤(ワクチン)もないため、家庭内はもちろん学校や幼稚園、保育園などでの集団感染が発生しやすい、やっかいなウイルスといえます」(吉田院長)

アルコールに対する抵抗性が強い

ノロウイルスにはアルコール消毒が効きにくいと聞きますが。

「感染性胃腸炎の原因となるノロウイルスやロタウイルスは、アルコールに対する抵抗性が強いとされています。インフルエンザウイルスなどは『エンベロープ』と呼ばれる脂質性の膜に覆われた構造になっています。エンベロープは一般に消毒液として使用されている消毒用エタノールに弱いため、被膜が壊されることでウイルスそのものもダメージを受けやすいのです。

これに対して、ノロウイルスやロタウイルスはもともと脂質性の膜をもたず、ある意味ウイルス遺伝子がむき出しの状態です。エタノールだけでなく、乾燥、酸などへの抵抗性も強いウイルスで、一般的な消毒液ではダメージを与えにくいのです。

それが“アルコール消毒がノロウイルスに効きにくい”といわれる理由です」(吉田院長)

感染予防法の基本は念入りな手洗い

ノロウイルスの予防にはどのような方法が有効なのでしょうか。

「ノロウイルス感染予防法の基本は手洗いです。調理や食事の前、トイレに行った後などには、石けんと温水による流水で手を洗ってください。手洗いの際には石けんを十分泡立て、ブラシなどを使用して手指を念入りに洗浄してください。すすぎは流水で十分に行い、清潔なタオルかペーパータオルで拭いて水分を除きます。

手や指に付着しているウイルスの数は流水による15秒の手洗いだけで100分の1に減少し、石けんやハンドソープで10秒もみ洗いの後に流水で15秒すすぐと、1万分の1まで減らせるという厚生労働省の研究結果も示されています。

石けんは、手の脂肪などの汚れを落とすことによって、ウイルスを手指から剥(は)がれやすくする効果もあり、感染予防策として有効です。

なお、調理器具や食器などの消毒には次亜塩素酸ナトリウムを含む塩素系漂白剤などを使いますが、体に悪影響を及ぼすため、手指の消毒に用いては絶対にいけません」(吉田院長)

新型コロナウイルス感染症予防で習慣化された手指のアルコール消毒ですが、ノロウイルス対策としては十分な手段とはいえないようです。冬場に流行する感染性胃腸炎、さらに食中毒の予防に、念入りな“手洗い”を心掛けたいものですね。

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参考資料など

国立医薬品食料衛生研究所「10億個(109/g)のノロウイルスの量とは」、国立感染症研究所「感染症週報 2021年第47週(11月22〜28日)」