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気象学分野の研究にノーベル物理学賞 真鍋淑郎さんの受賞に専門家は

2021/10/12 11:38 ウェザーニュース

米国プリンストン大学の上級研究員、真鍋淑郎(まなべ しゅくろう/90歳)さんがノーベル物理学賞を受賞しました。

地球の気候をコンピューターで再現する方法を開発し、気候変動(温暖化)の予測に関する研究を先駆的に切り開いたことなどが高く評価されました。

多くの研究者や気象関係者が、真鍋氏のノーベル物理学賞受賞を驚きと賞賛をもって、受け止めています。

この受賞には、どんな意味があるのでしょうか。

依田司さん「100年後『地球を救った救世主』に」

理化学研究所・計算科学研究センター データ同化研究チーム・チームリーダーの三好建正さんは、真鍋さんのノーベル物理学賞受賞を次のように受け止めています。

「地球科学分野でのノーベル物理学賞の受賞は初めてではないでしょうか。地球科学分野では、これまでに、大気中の化学反応などで化学賞はありました。しかし、地球物理は物理学とは見なされないといった感覚を、この分野の専門家は持っていたと思います。

その思い込み、いわば常識を破壊するような驚きの気持ちを抱いています。優れた研究を行えば、地球科学分野でも物理学賞がありうることが示されました。この受賞は勇気と希望を研究者に与えてくれます」

気候科学者で、国立環境研究所地球システム領域・副領域長の江守正多さんも、真鍋さんのノーベル物理学賞受賞に驚きつつ、たたえます。

「スウェーデンのラジオで候補として名前が挙がっていたようなので、可能性はあると聞いていました。しかし、気象学は物理学の対象分野ではないと思われていたので、難しいのではないかと思っていました。そんな中、本当に受賞されたので、びっくりしています。とんでもなくすごいことです。物理学として評価されたことは、我々の分野全体として非常に大きな意味があります。

大気と海を物理法則でシミュレーションするという、誰もやったことがなかったところから、真鍋さんはモデルを作りました。(真鍋さんは)『気候モデリングの父』と呼べる研究者です。現在の地球温暖化に関する我々の理解や将来予測に欠くことができない研究分野を作り、その礎があって、私たちが今、地球温暖化の予測ができています」

ウェザーニューズ社所属の気象予報士で、テレビ朝日系『グッド!モーニング』などに気象キャスターとして出演している依田司は、次のように熱く語ります。

「真鍋先生、ノーベル物理学賞受賞、おめでとうございます。我々が日頃からお世話になっている長期予報などの数値計算の礎を築かれた方の受賞は感慨深いです。

真鍋先生は二酸化炭素の増加による地球温暖化を突き止められました。かつてはほとんど注目されませんでしたが、時代が追いつき、世界は今、元の地球を取り戻そうと大きく舵を切りました。

50年後、100年後も、真鍋先生の名前は『地球を救った救世主の一人』として語り継がれていると思います。真鍋先生は我々日本人の誇りです」

気象や地球環境の物理学研究の発展がますます期待される

真鍋さんの受賞は気候変動問題に今後、どのような影響を与えるのでしょうか。三好さんと江守さんの2人に聞きました。

「以前、IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)の活動がノーベル平和賞を受賞して、平和な人類社会に向けて、気候変動問題の重要性が改めて高く評価されました。

今回は、地球システムモデルのシミュレーション研究が、物理学の研究として、高く評価されました。これにより、気象や地球環境の物理学研究がますます発展し、さらには、地球システムの変動メカニズムの理解が深まり、予測や制御といった対応能力の向上がよりいっそう加速することを期待します」(三好さん)

「気候変動問題は人類の問題で、気候変動問題の基礎には物理学がある。そのことを私たちは社会全体として受け止め、気候変動対策に真剣に向き合っていかなくてはいけない。今回のノーベル物理学賞からは、そうしたメッセージも受け取れると思います」(江守さん)

近年、世界各地で異常気象が発生している現状を考えても、気候変動問題が私たちの日常に密接に関わっていることがわかります。真鍋淑郎さんのノーベル物理学賞の受賞を、気候変動問題を改めてしっかり考える契機にしたいものです。
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