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夕暮れのカラスってステキ! 清少納言が推奨する、秋の光景とは?

2021/10/11 11:13 ウェザーニュース

『枕草子』は平安時代中期の女性で歌人の清少納言が綴った随筆です。その『枕草子』は季節に関する話から始まります。

出だしは有名な「春は曙(あけぼの)」。そして「やうやう白くなりゆく山ぎは、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる」と続きます。

さらに「夏は夜」と続き、「冬は早朝(つとめて)」であると、清少納言は書いています。

では、秋はというと、「秋は夕暮(ゆうぐれ)」です。秋は夕暮れがおすすめですよ、と作者の清少納言は言っているのですね。

秋もたけなわの今、『枕草子』が描く秋を見てみましょう。

夕日が沈んだあとの風の音もステキ!

「秋は夕暮~」の箇所を以下に紹介しましょう。

「秋は夕暮。夕日のさして山の端(は)いと近(ちこ)うなりたるに、烏(からす)の寝所(ねどころ)へ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど飛び急ぐさへあはれなり。まいて、雁(かり)などのつらねたるが、いと小さく見ゆるは、いとをかし。日入(ひい)り果てて、風の音(おと)、虫の音(ね)など、はた言ふべきにあらず」

どんな内容でしょうか。ポップに意訳してみましょう。

「秋はなんと言っても、夕暮れ時がいいわね! 夕日がさして、山の端(はし)に落ちかかるころに、カラスがねぐらへ帰ろうとしているの。三羽四羽、二羽三羽と、急いで飛んでいく様子は、しみじみして、心にしみるわ。まして、カリなどが連なって飛んでいくのが、とっても小さく見えるのは、これまたとってもステキなの。日が沈んだあとの、風の音や虫の音などは、もう、言葉では言い表せない。もちろん、すばらしい情景よ」

清少納言が描く虫の世界

「虫の音」といえば、清少納言は『枕草子』で虫についても書いています。

マツムシ、チョウ、スズムシ、コオロギ、キリギリスなどについて、綴っている中、ミノムシについては、ちょっと、というか、かなりひどい書き方をしています。

このミノムシの箇所を意訳して紹介しましょう。

「ミノムシは哀れで、しみじみした虫だよ。ミノムシは鬼が産んだ子。だから、親に似て、子のミノムシも恐ろしい心を持っているだろう。そう思った親は、粗末な着物(簔=ミノ)をミノムシに着せて、『そのうち、秋風が吹き始めたら、迎えに来るよ。待っていなさい』と言い残して、逃げてしまったの。そうとも知らないミノムシは、風の音から秋の訪れを知って、八月ごろ(今の九月ごろ)になると、『ちちよ、ちちよ』と、心細く鳴いている。本当に哀れだわ」

悲しいミノムシの話?

ミノムシはミノ科のガの幼虫で、樹木の枝や葉を糸で綴り合わせ、簔のような巣を作って、その中にいます。

『枕草子』の上の文章の「ちち」は「父」と「乳」の説があります。

父とすれば、ミノムシは「お父さん、お父さん」と鳴いていることになり、乳とすれば、「お乳よ、お乳よ」と鳴いていることになりそうです。

『枕草子』のミノムシのくだりを読むと、なんとなく悲しくなってきますね。

それにしても、ミノムシをこのように見て、感じ、表現するとは、清少納言はやはりただ者ではありません。

秋が深まりつつある今、自然の変化を感じに、散策してみてはどうでしょうか。清少納言なら、この景色をどう表現するかな、などと思いながら、ゆっくりのんびり歩くのも、きっと楽しいでしょう。

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参考資料など

『枕草子 ビギナーズ・クラシックス』(編者/角川書店、角川書店)、『枕草子 いとめでたし!』(著者/天野慶、監修/赤間恵都子、絵/睦月ムンク、朝日学生新聞社)、『枕草子 増補改訂版 絵で見てわかるはじめての古典』(監修/田中貴子・石井正己、学研プラス)、『枕草子 日本の古典をよむ⑧』(校訂・訳者/松尾聰・永井和子)、『枕草子 ビジュアル版 日本の古典に親しむ⑤』(著者/田辺聖子、世界文化社)