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朝原宣治さんが語る! 100m“9秒台”と風の条件

2021/07/30 19:07 ウェザーニュース

かつて日本人選手は身体能力に勝る外国人に太刀打ちできないとみられていた陸上競技の短距離競走。しかし、現在では合わせて4選手が男子100m競走で9秒台をたたきだすなど、“世界に追い付け、追い越せ”が現実的なものとなっています。

世界のトップレベルが集う競技会では選手個々の実力に加えて競技場の気象条件、とくに「風」が大きく関連するといわれます。2008年北京五輪メダリストの朝原宣治(あさはら・のぶはる)さん(大阪ガス)に、さらなる好記録達成のための必要な気象条件について聞きました。

風が1m/s吹けば0.1秒タイムが伸びる

今年6月には山縣亮太選手(セイコー)が9秒95のタイムで日本記録を更新し、サニブラウン・アブデル・ハキーム(フロリダ大学)、桐生祥秀(日本生命)、小池祐貴(住友電工)の日本人4選手が、すでに9秒台を記録しています(所属は2021年7月現在)。

「好記録を出すためには気象条件が整うこと、とくに追い風であることが不可欠です。山縣選手が日本記録を更新したときも、追い風2.0m/sの記録が出やすいコンディションでした。実はこれまでの日本記録の歴代10傑すべてが追い風となっています。

なお、追い風が2.0m/s を超えると『参考記録』となり、公認されません。100m・200mのほか、障害走(110mハードル・100mハードル)や走幅跳・三段跳などがこれに該当します」(朝原さん)
それでは、具体的に風はどのぐらい記録に影響を与えるのでしょうか?

「体格や走り方などによって差もありますが、100mの場合、風が1m/s吹けば約0.1秒タイムが変わってきます。つまり、追い風2.0m/sだとタイムが約0.2秒速くなるのです。

ただし、山縣選手などスタートを低く出る選手や、サニブラウン選手、ケンブリッジ飛鳥選手(ナイキ)など体が大きくパワーと体重のある選手は、体が軽い選手に比べると風の影響は少ないと思います」(朝原さん)

200mの風の影響は?

短距離では200m競走も注目されますが。

「200mでは風速計の測定値は100mほど参考にならないのです」(朝原さん)

風の向きや強さを測る風向風速計を設置する場所は、「直走路の第1レーンに隣接して、フィニッシュラインから50mの地点」(日本陸上競技連盟競技規則)と定められています。これは100mでもカーブがある200mでも同様で、直走路でしか風を計測していないそうです。

「カーブ部分に風速計を置いていないのは、不思議ですよね。風速計の表示が向かい風でも、カーブで追っていたらタイムは伸びます。とくに200mの直線は加速後のトップスピードに入ってからの状態です。

スピードに乗るまでの走り始め(前半)の方が一般的に風の影響は大きいのです。200mであれば70〜80mあたりでトップスピードに乗っていないと好タイムは出ません。しかし、200mの風速計があるポイントはスピードに乗った最後の直線部分なので、よほどの向かい風でないとあまり影響を受けないことになります」(朝原さん)

気温と湿度と記録の関係

風以外の天候はどう影響しますか。

「気温と湿度も大切な条件になります。気温は高めで湿度は低めの方が体も動きやすく、いわゆる『カラッとした天候』が記録面では有利です。35℃を超えると高すぎですが、25〜30℃ぐらいがベストな条件といえるでしょう。

雨は気温が下がるだけでなく、着地足の離地が悪くなり接地時間が長くなるためグッとタイムが落ちます」(朝原さん)

新型コロナウイルス感染予防対策として、大規模な競技大会でも無観客開催が増え、その場の気象条件を肌で感じるのは難しい状況になっています。しかし、開催スタジアムのピンポイント気象情報も手軽に確認できます。あわせて実況でふれられる風速などの情報にも注目して、テレビ観戦ならではの楽しみ方をしてみてはいかがでしょうか。
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