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「晴れているのに雨が降る」ことを何という? 東と西で呼び名が違っていた

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2021/07/16 12:00 ウェザーニュース

今週に入って梅雨明けするエリアが増えてきました。長かった梅雨がようやく終わりを迎えたかと思えば、ゲリラ豪雨が増えるなど、何かと雨に悩まされる日々が続いています。

この時期は、空は晴れているのに雨が降っている気象現象も見られ、「天気雨」と呼ばれるほか、「狐(きつね)の嫁入り」という風雅な呼び名にもなっています。ウェザーニュースでは、この「晴れているのに、雨が降るときの表現は?」というアンケートを実施しました。

その結果、全国では「天気雨」が54%、「狐の嫁入り」が44%と、「天気雨」が多数派でしたが、地域別でみると関西では「狐の嫁入り」が83%と圧倒。北陸でも関西に近い福井・石川県が70%以上、東海・中国でも60%前後と、他の地域に比べて明らかな差が見られました。

西日本ではこの現象をなぜ「狐の嫁入り」と呼ぶのか、また、呼び方の地域性について、歳時記×食文化研究所の北野智子さんに考察していただきました。

「狐の嫁入り」以外の呼び名も

「天気雨を狐の嫁入りと呼ぶ確固たる理由はわかりませんが、晴れているのに雨が降るという不思議な現象は、『まるで狐に化かされているようだ』との意味合いで使われてきたようです。

季節の変化が大きい日本には、古くから天気や気象を表す言葉が数多くあります。昔から日本人は自然を友として深いかかわりを持って生活をしてきたので、天気や気象を単なる自然現象としてではなく、親しみや感謝、畏敬の念を込めて、『狐の嫁入り』などといった言葉で呼んだのだろうと思われます」(北野さん)

日が照っているのに小雨が降っている現象は「狐雨」「狐のご祝儀」ともいい、「ひでり雨(日照雨)」「日向(ひなた)雨」「日和(ひより)雨」「戯(そばえ)雨」ともいうようです。

「狐の嫁入りは天気雨のことだけではなく、夜の山野で狐火(狐の口から吐き出された火)が連なって、嫁入り行列の提灯のように見えるものについてもいいます。狐火とは闇夜に山野などで光って見える燐火(りんか)のことで、『鬼火』とも呼ばれています。

江戸時代には狐の嫁入りが伝承として信じられていたようです。浮世絵にも『狐の嫁入図』(葛飾北斎)、『東都飛鳥山の図 王子道 狐のよめ入』(歌川広重)など、有名な作品が伝わっています」(北野さん)

関西で狐が親しまれている理由

アンケートの結果によると、関西では「天気雨」より「狐の嫁入り」の呼び名が圧倒的でした。

「『狐の寒施行(かんせぎょう)』という、関西一帯から中国地方にかけて昔から行われてきた行事が関連しているのではないでしょうか。単に寒施行ともいいますが、狐の餌(えさ)が少なくなる寒中に、赤飯、小豆飯、油揚げなどを田畑の畦(あぜ)や山野、巣穴に置き、施しをする年中行事です。食べものを野に置くので『野施行(のせぎょう)』、狐の穴を見つけて与えるので『穴施行(あなせぎょう)』ともいい、いずれも冬の季語です。

関西人が親しみをこめて『お稲荷さん』と呼ぶ稲荷神社の総本宮・伏見稲荷大社(京都市伏見区)は商売繁盛の神として知られていますが、もともとは『稲生り=稲荷』の農耕神で、五穀豊穣の神さまです。稲荷神の眷属(けんぞく/神の使者)は狐です。

関西は伏見稲荷のおひざ元であることから、お使いである狐への施行は当たり前のことだったのでしょう。狐の存在が身近にあり、親しみさえ持っていたと考えられます。そのため、日が照っているのに小雨が降るという不思議な現象を狐のしわざとみて、狐の嫁入りと呼ぶことが多いのではないでしょうか」(北野さん)

「天気雨」の仕組み

「狐のしわざ」とするのも趣があってよいのですが、現代ではもちろん、天気雨(狐の嫁入り)は科学的に説明できます。ウェザーニュースの山口剛央(たけひさ)気象予報士によると、天気雨が生じる理由は、主に3つだそうです。

「1つ目は、雨を降らせた雲が消えてしまった場合です。雲の中で作られた雨が地上に落ちるまでには案外長い時間がかかります。上昇気流の強さなどによって変わりますが、小さな雨粒の場合、たとえば2000mの高さから地面に落ちてくるのに10分以上かかることがあります。

その間に雲が風に流されるなどして消えてしまったため、雨が地上に落ちてきたときにはもう、雲が消えて晴れ間が見えていたという状況です。

2つ目は、雨を降らせた雲が小さかった場合です。晴れている頭上に雲がなくとも、離れたところに目立たない、小さな雨雲がある場合があります。天気雨のときに周辺の空を注意深く眺めると、それらしい雲を見つけられることもあります。

3つ目は、雨が流されてきた場合です。離れた雲の中で作られた雨が強風に流されて、太陽が出ている場所で地上に落ちてきたというケースです」(山口予報士)

せっかくの晴れ間に天気雨があると、驚くものですが、基本的にすぐにやみます。一方、天気雨では太陽の反対側に虹が出やすい傾向があります。少しの間、雨宿りをしながら虹を探してみてはどうでしょうか。運がよければ巡りあえるかもしれません。
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参考資料など

『美しい日本語の辞典』(小学館)/『柳田国男監修 民俗学辞典』(東京堂出版)/『知識ゼロからの妖怪入門』(小松和彦・幻冬舎)/『俳句歳時記 第四版増補 冬』(角川学芸出版編)

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