端午の節句は身体と心のケアと収穫を願う日
端午の節句を菖蒲の節句とも呼ぶ理由は、新緑の頃に葉をいっぱいに茂らせる香りの高いショウブやヨモギが邪気を祓(はら)うとされたことにあります。そのため古代中国の人々はこの時季、菖蒲酒を飲んだり菖蒲湯に浸かったり、軒先にヨモギで作った人形(ひとがた)を飾ったりして邪気祓いを行ったといいます。
これらの風習が平安時代の日本に伝わり、「端午の節会(せちえ)」という宮廷行事になりました。ショウブやヨモギなどの薬草を丸く編んだ薬玉(くすだま)を柱に掛けたり腰に下げたり、互いに贈り合ったりすることで邪気を払うという習慣が根付きました。
日本で旧暦の5月5日(2021年は6月14日)頃といえば、ちょうど梅雨どきに当たります。食べ物や、当時は水も腐りやすくなるこの時季、高貴な人々は疫病(伝染病)にかかることを恐れて、ショウブやヨモギで邪気を祓い病気予防を図るようになったのです。
一方、農民にとって梅雨どきは、忙しかった田植えまでの作業が一段落した時季でもありました。端午の節句は農耕社会では重労働で疲れた身体の休養と滋養強壮のため、栄養のある食べ物を食べたり薬草を煎じて飲んだりする日になっていったのです。ショウブの根には解毒・強壮作用があり、菖蒲湯には日焼けや虫刺されから皮膚を守り、心を落ち着ける効果もあるとみられていました。
そうして農耕社会では端午の節句が身体と心のケアを行い、自らと子どもたちの健康、さらに安定した収穫を願う日になったのです。
これらの風習が平安時代の日本に伝わり、「端午の節会(せちえ)」という宮廷行事になりました。ショウブやヨモギなどの薬草を丸く編んだ薬玉(くすだま)を柱に掛けたり腰に下げたり、互いに贈り合ったりすることで邪気を払うという習慣が根付きました。
日本で旧暦の5月5日(2021年は6月14日)頃といえば、ちょうど梅雨どきに当たります。食べ物や、当時は水も腐りやすくなるこの時季、高貴な人々は疫病(伝染病)にかかることを恐れて、ショウブやヨモギで邪気を祓い病気予防を図るようになったのです。
一方、農民にとって梅雨どきは、忙しかった田植えまでの作業が一段落した時季でもありました。端午の節句は農耕社会では重労働で疲れた身体の休養と滋養強壮のため、栄養のある食べ物を食べたり薬草を煎じて飲んだりする日になっていったのです。ショウブの根には解毒・強壮作用があり、菖蒲湯には日焼けや虫刺されから皮膚を守り、心を落ち着ける効果もあるとみられていました。
そうして農耕社会では端午の節句が身体と心のケアを行い、自らと子どもたちの健康、さらに安定した収穫を願う日になったのです。
ヨモギは古くから薬草だった
草餅に練り込まれるヨモギは、踏みつぶされたり引きちぎられたりしても、日当たりさえ良ければ荒れ地でも育ち、根が丈夫で引き抜くことさえ難しい植物です。ヨーロッパでは「ハーブの女王」とも呼ばれ、古代エジプトやローマではパンに混ぜたり、リキュールにしたりしました。漢方でも浄血・造血作用、むくみ・冷え性の改善にも効果のある薬草とされています。
日本でも平安時代の歴史書『日本文徳(もんとく)天皇実録』(850-858年)に「薬草として使った」と記され、近年ではデトックス(老廃物の排出)効果の高さにも注目が集まっています。
昔の人々はそんなヨモギの優れた生命力にあやかろうと、食べたり煎じて飲んだりしてきました。さらに生命力の強さに「子孫繁栄」の思いを託し、子どもへのお祝いの日ともなった端午の節句に、餅に練り込んで食べさせるようになったことがヨモギの草餅の由来とされています。
端午の節句に食べられるちまきも、中国から伝わりました。春秋戦国時代の楚(そ)の政治家で詩人としても知られた屈原(くつげん/紀元前340年頃-紀元前278年)の命日である5月5日、彼を慕った人々が川にちまきを流したという言い伝えがあります。屈原は対立する秦(しん)の策謀に乗せられようとした楚の懐王をいさめたものの聞き入れられず、絶望のあまり入水自殺を遂げたとされる非業の人物です。
人々は屈原の鎮魂のために流したちまきが川にひそむ「蛟龍(こうりゅう)」に盗まれないように、蛟龍が嫌う楝樹(れんじゅ/センダン)の葉で包んだと伝わります。センダンにはサポニンという毒性の強い物質が含まれているため、日本ではちまきを同じく香りがよく抗菌作用や薬効があるとされるササなどの葉で包むようになりました。
ゴールデンウィークが終われば、もうすぐ梅雨の時季がやってきます。子どもの日はヨモギの草餅や菖蒲湯などで、新型コロナウイルス感染予防で滅入りがちな心のケアをしてみてはいかがでしょうか。
» ウェザーニュース記事一覧
日本でも平安時代の歴史書『日本文徳(もんとく)天皇実録』(850-858年)に「薬草として使った」と記され、近年ではデトックス(老廃物の排出)効果の高さにも注目が集まっています。
昔の人々はそんなヨモギの優れた生命力にあやかろうと、食べたり煎じて飲んだりしてきました。さらに生命力の強さに「子孫繁栄」の思いを託し、子どもへのお祝いの日ともなった端午の節句に、餅に練り込んで食べさせるようになったことがヨモギの草餅の由来とされています。
端午の節句に食べられるちまきも、中国から伝わりました。春秋戦国時代の楚(そ)の政治家で詩人としても知られた屈原(くつげん/紀元前340年頃-紀元前278年)の命日である5月5日、彼を慕った人々が川にちまきを流したという言い伝えがあります。屈原は対立する秦(しん)の策謀に乗せられようとした楚の懐王をいさめたものの聞き入れられず、絶望のあまり入水自殺を遂げたとされる非業の人物です。
人々は屈原の鎮魂のために流したちまきが川にひそむ「蛟龍(こうりゅう)」に盗まれないように、蛟龍が嫌う楝樹(れんじゅ/センダン)の葉で包んだと伝わります。センダンにはサポニンという毒性の強い物質が含まれているため、日本ではちまきを同じく香りがよく抗菌作用や薬効があるとされるササなどの葉で包むようになりました。
ゴールデンウィークが終われば、もうすぐ梅雨の時季がやってきます。子どもの日はヨモギの草餅や菖蒲湯などで、新型コロナウイルス感染予防で滅入りがちな心のケアをしてみてはいかがでしょうか。
» ウェザーニュース記事一覧
参考資料など
『食べる日本史』(著者/樋口清之、朝日文庫)、『パートナー生薬学(改訂第3版増補)』(編著/竹谷孝一ほか、南江堂)、『漢方実用大事典』(編/学習研究社、学習研究社)、『全季俳句歳時記』(編著/柳川彰治、青弓社)、『事典 和菓子の世界 増補改訂版』(著者/中山圭子、岩波書店)