「余震」という表現を「同程度の地震」に変更
大地震の後に気象庁が発表する「今後の見通し」から「余震」という表現が消えました。背景には短い間に2度の激しい揺れが襲うという、これまでの経験則では予測できなかった事象が熊本地震で発生したからです。
2016年4月14日21時26分。熊本県熊本地方を震源とする最大震度7(M6.5)の地震が発生しました。この直後の気象庁の発表は、次の通りでした。
「揺れの強かった地域では、家屋の倒壊や土砂災害などの危険性が高まっているおそれがありますので、今後の余震活動や降雨の状況に十分注意してください」(気象庁)
ところが約28時間後の4月16日1時25分、ほぼ同じ震源で再び最大震度7の地震(M7.3)が発生したのです。続けて発生した2つの大地震「熊本地震」は熊本地方に壊滅的な被害をもたらしましたが、実は「余震」のほうが規模は大きかったのです。
最初の大地震より大きな「余震」が発生するという異例の事態を受けて、熊本地震から約4か月後の2016年8月19日、政府の地震調査研究推進本部(地震本部)は次のような見解を公表しました。
「1998年以来、気象庁は震度5弱以上の大地震の後に余震の発生確率を発表していましたが、熊本地震ではこの手法が適用できない事態が発生しました。
今後は余震という言い方はせず、最初の大地震と『同程度の地震』への注意を呼びかけることを基本とします」(地震本部)
「余震」というとどうしても「本震より規模の小さな地震」という印象を与えてしまいがちです。地区の住民や関係者らの“気の緩み”を避けるためにも「同程度の地震」への備えを呼び掛けることになったのです。
地震本部の見解公表からおよそ2か月後、2016年10月21日に鳥取県中部地震(最大震度6弱)が発生しました。その際の気象庁の発表は、次のようなものでした。
「揺れの強かった地域では地震発生から1週間程度、最大震度6弱程度の地震に注意してください。とくに地震発生から2~3日程度は、規模の大きな地震が発生することが多くあります」(気象庁)
このスタイルによる発表は、2018年6月18日に発生した大阪北部地震(最大震度6弱)や9月6日の北海道胆振(いぶり)東部地震(最大震度7)、2019年1月3日の熊本県熊本地方の地震(最大震度6弱)でも踏襲されています。
2016年4月14日21時26分。熊本県熊本地方を震源とする最大震度7(M6.5)の地震が発生しました。この直後の気象庁の発表は、次の通りでした。
「揺れの強かった地域では、家屋の倒壊や土砂災害などの危険性が高まっているおそれがありますので、今後の余震活動や降雨の状況に十分注意してください」(気象庁)
ところが約28時間後の4月16日1時25分、ほぼ同じ震源で再び最大震度7の地震(M7.3)が発生したのです。続けて発生した2つの大地震「熊本地震」は熊本地方に壊滅的な被害をもたらしましたが、実は「余震」のほうが規模は大きかったのです。
最初の大地震より大きな「余震」が発生するという異例の事態を受けて、熊本地震から約4か月後の2016年8月19日、政府の地震調査研究推進本部(地震本部)は次のような見解を公表しました。
「1998年以来、気象庁は震度5弱以上の大地震の後に余震の発生確率を発表していましたが、熊本地震ではこの手法が適用できない事態が発生しました。
今後は余震という言い方はせず、最初の大地震と『同程度の地震』への注意を呼びかけることを基本とします」(地震本部)
「余震」というとどうしても「本震より規模の小さな地震」という印象を与えてしまいがちです。地区の住民や関係者らの“気の緩み”を避けるためにも「同程度の地震」への備えを呼び掛けることになったのです。
地震本部の見解公表からおよそ2か月後、2016年10月21日に鳥取県中部地震(最大震度6弱)が発生しました。その際の気象庁の発表は、次のようなものでした。
「揺れの強かった地域では地震発生から1週間程度、最大震度6弱程度の地震に注意してください。とくに地震発生から2~3日程度は、規模の大きな地震が発生することが多くあります」(気象庁)
このスタイルによる発表は、2018年6月18日に発生した大阪北部地震(最大震度6弱)や9月6日の北海道胆振(いぶり)東部地震(最大震度7)、2019年1月3日の熊本県熊本地方の地震(最大震度6弱)でも踏襲されています。
災害救助法の一部が改正され「救助実施市制度」に
災害時には被災自治体の首長が被災者の救助ニーズを把握し、適切な救助を一刻も早く実施する必要があります。ところが、熊本地震発災時の災害救助法では、各種の救助活動が「救助の基準」に適合するか否かを判断する権限は熊本市長でなく、熊本県知事にありました。
これに対して熊本市長を含む指定都市市長会(会長・林文子横浜市長、2014年~)は2018年、熊本地震をはじめとする災害対応についての検証を踏まえ、「希望する指定都市は救助実施主体として、直接災害対応を行いたい」との要望書を政府に提出しました。
これらを受けて政府は2018年5月、災害救助法の一部を改正し、「救助実施市制度」が2019年4月1日から施行されたのです。
なお、災害救助法について熊本市の大西一史(おおにし・かずふみ)市長は、次のように述べています。
「災害救助法の一部が改正されたことにより、要件を満たし希望する指定都市は救助実施主体(救助実施市)として直接災害対応を行うことが可能となりました。
一方で、現行の災害救助法は『応急的に被災者を救う』ことを主たる目的としており、仮設住宅のプレハブなど建物の維持管理や入居者の生活・住まい再建に関して規定されていません。
これまでの災害対応などの教訓を生かし、応急的な被災者救助だけでなく、復旧・復興までを見据え、災害救助法の抜本的な見直しが求められていると感じています」(大西市長)
これに対して熊本市長を含む指定都市市長会(会長・林文子横浜市長、2014年~)は2018年、熊本地震をはじめとする災害対応についての検証を踏まえ、「希望する指定都市は救助実施主体として、直接災害対応を行いたい」との要望書を政府に提出しました。
これらを受けて政府は2018年5月、災害救助法の一部を改正し、「救助実施市制度」が2019年4月1日から施行されたのです。
なお、災害救助法について熊本市の大西一史(おおにし・かずふみ)市長は、次のように述べています。
「災害救助法の一部が改正されたことにより、要件を満たし希望する指定都市は救助実施主体(救助実施市)として直接災害対応を行うことが可能となりました。
一方で、現行の災害救助法は『応急的に被災者を救う』ことを主たる目的としており、仮設住宅のプレハブなど建物の維持管理や入居者の生活・住まい再建に関して規定されていません。
これまでの災害対応などの教訓を生かし、応急的な被災者救助だけでなく、復旧・復興までを見据え、災害救助法の抜本的な見直しが求められていると感じています」(大西市長)
熊本地震で初めて国のプッシュ型支援が実施
2011年3月11日に発生した東日本大震災での支援物資の供給状況を踏まえ、国土交通省国土交通政策研究所は2013年10月、政府が自治体からの要請を待たずに物資を送る「プッシュ型支援」関連事項を含む「支援物資ロジスティクスに関する調査研究」「支援物資供給の手引き」を取りまとめました。プッシュ型支援については、次の通り記されています。
「支援物資のニーズ情報が十分に得られない被災地へ、ニーズ予測に基づき緊急に物資を供給する場合の輸送方法」(国土交通省による定義)
プッシュ型支援が初めて実施されたのが熊本地震でした。政府は2016年4月16日の本震後、パン、おにぎり、パックご飯、カップ麺、レトルト食品など、約263万食の食料。そのほか米約126トン、水約24万本、清涼飲料水約21万本、粉ミルク約2トン。さらに、衣類、マスク、ハンドソープ、ウェットティッシュ、ブルーシート、仮設トイレなどを調達しています。
政府によるプッシュ型支援はその後も行われ、2018年7月の西日本豪雨(平成30年7月豪雨)では経済産業省が岡山・広島・愛媛県内へ食料のほか、クーラー計約280台も届けています。同年9月6日に発生した北海道胆振東部地震の際は、8日から13日の間に合計26万点以上の食料品を提供。道指定の1次拠点などを経由して避難所などに届けました。
プッシュ型支援は災害発生直後、一定の成果を収めたと評価されています。しかし一方で、現場との「ミスマッチ」も生じました。
熊本市では熊本地震後すぐに「政府から届いた支援物資と避難所のニーズとの間に乖離(かいり)が出た」といいます。西日本豪雨の際も愛媛県内の避難所となったある公民館では、水洗トイレが使用できる状態だったにもかかわらず、仮設トイレが届いたそうです。
「仮設トイレを使えば糞尿(ふんにょう)をくみ取るための段取りが生じます。その対応は考えておらず、かえって困りました。結局『使用禁止』として放置せざるを得ない結果になりました」(公民館担当者)
そこで政府は2020年度から、新たに「物資調達・輸送調整等支援システム」を稼働させました。
被災した自治体側が、食料や衣類、段ボールベッドなどの支援物資が「どこの避難所にいくつある」「至急送ってほしい不足品はこれ」などの情報をパソコンに入力します。政府側はリアルタイムで同じ画面を確認し、ニーズに応じた物資を手配する仕組みです。迅速で無駄のない支援を行うため、約1億円かけて開発されたといいます。
それでもいったん、災害が起きてしまうと、在庫の把握やシステムへの入力作業に職員を配置できなくなる自治体も複数あったといいます。「令和2年7月豪雨」では、被害が特に深刻だった熊本県内のある自治体では、必要な物資の入力作業が開始できたのは発災から1週間以上も後のことでした。
熊本地震から5年の間にさまざまな対応策が取られ、一定の成果を挙げているのは間違いありません。しかし、どれほど事前の予測に基づいた備えを施したとしても、“想定外”の事象が生じるのが自然災害の恐ろしさです。
南海トラフ地震の発生が迫っているとの見方も強まっています。防災対策を国や自治体任せで済ませることなく、一人ひとりが日頃から“いのちを守るすべ”を準備しておきましょう。
>>熊本地震から5年 震災の教訓を次につなげる
>>ウェザーニュース記事一覧
「支援物資のニーズ情報が十分に得られない被災地へ、ニーズ予測に基づき緊急に物資を供給する場合の輸送方法」(国土交通省による定義)
プッシュ型支援が初めて実施されたのが熊本地震でした。政府は2016年4月16日の本震後、パン、おにぎり、パックご飯、カップ麺、レトルト食品など、約263万食の食料。そのほか米約126トン、水約24万本、清涼飲料水約21万本、粉ミルク約2トン。さらに、衣類、マスク、ハンドソープ、ウェットティッシュ、ブルーシート、仮設トイレなどを調達しています。
政府によるプッシュ型支援はその後も行われ、2018年7月の西日本豪雨(平成30年7月豪雨)では経済産業省が岡山・広島・愛媛県内へ食料のほか、クーラー計約280台も届けています。同年9月6日に発生した北海道胆振東部地震の際は、8日から13日の間に合計26万点以上の食料品を提供。道指定の1次拠点などを経由して避難所などに届けました。
プッシュ型支援は災害発生直後、一定の成果を収めたと評価されています。しかし一方で、現場との「ミスマッチ」も生じました。
熊本市では熊本地震後すぐに「政府から届いた支援物資と避難所のニーズとの間に乖離(かいり)が出た」といいます。西日本豪雨の際も愛媛県内の避難所となったある公民館では、水洗トイレが使用できる状態だったにもかかわらず、仮設トイレが届いたそうです。
「仮設トイレを使えば糞尿(ふんにょう)をくみ取るための段取りが生じます。その対応は考えておらず、かえって困りました。結局『使用禁止』として放置せざるを得ない結果になりました」(公民館担当者)
そこで政府は2020年度から、新たに「物資調達・輸送調整等支援システム」を稼働させました。
被災した自治体側が、食料や衣類、段ボールベッドなどの支援物資が「どこの避難所にいくつある」「至急送ってほしい不足品はこれ」などの情報をパソコンに入力します。政府側はリアルタイムで同じ画面を確認し、ニーズに応じた物資を手配する仕組みです。迅速で無駄のない支援を行うため、約1億円かけて開発されたといいます。
それでもいったん、災害が起きてしまうと、在庫の把握やシステムへの入力作業に職員を配置できなくなる自治体も複数あったといいます。「令和2年7月豪雨」では、被害が特に深刻だった熊本県内のある自治体では、必要な物資の入力作業が開始できたのは発災から1週間以上も後のことでした。
熊本地震から5年の間にさまざまな対応策が取られ、一定の成果を挙げているのは間違いありません。しかし、どれほど事前の予測に基づいた備えを施したとしても、“想定外”の事象が生じるのが自然災害の恐ろしさです。
南海トラフ地震の発生が迫っているとの見方も強まっています。防災対策を国や自治体任せで済ませることなく、一人ひとりが日頃から“いのちを守るすべ”を準備しておきましょう。
>>熊本地震から5年 震災の教訓を次につなげる
>>ウェザーニュース記事一覧