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「春はあけぼの。」で始まる『枕草子』を綴った清少納言 そのユニークな視点

2021/03/23 14:37 ウェザーニュース

四季のある日本では古来、文学作品に季節の話を織り込むことがしばしば行われてきました。『枕草子』は平安時代中期の女性で歌人の清少納言が綴った随筆です。その『枕草子』は季節に関する話から始まります。

清少納言は四季、とりわけ春をどう捉えていたのでしょうか。

「春はあけぼのがいいね!」

春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。

これが『枕草子』の書き出しです。

「あけぼの」は「夜がほのぼのと明け始めるころ」で「太陽が昇る直前のころ」のことです。「やうやう(ようよう)」は「だんだん」「しだいに」の意で、「山ぎは(山ぎわ/山際)」は「山の稜線と接するあたりの空」のことです。そして「紫だちたる」は「紫がかっている」の意です。

ですから、現代語では次のような意味です。少しポップに訳してみます。

春は明け方がいいわね。だんだんと白んでいく山際の空が少し明るくなって、紫がかっている雲が細くたなびいているのがいいのよ。

「春はあけぼの」と「春眠暁を覚えず」

「春はあけぼの~」と対照的な詩もあります。

春眠不覚暁──春眠暁(しゅんみんあかつき)を覚えず

これは唐の詩人である孟浩然(もうこうねん)が詠んだ漢詩『春暁(しゅんぎょう)』の冒頭です。
「春の眠りは気持ちよく、夜が明けるのにも気がつかない」という意味です。

早起きして、徐々に白んでいく明け方を楽しむか、布団でまどろみながらもうひと眠りするか……。あなたはどちらの春が好きですか。

清少納言のユニークな視点

平安時代、和歌などに詠まれる春の象徴は、花などの自然が多かったようです。

しかし、清少納言は春の“オススメ”に自然を選ばず、「あけぼの」という時間帯をもってきました。「春といったら、あけぼのよ!」と歯切れよく、独自の視点で春を見つめています。

『枕草子』では春に続いて、「夏は夜」「秋は夕暮れ」「冬はつとめて(早朝)」がいいよ、と綴っています。いずれも1日の時間の移り変わりの中から選んでいます。

平安時代、和歌などでは主に、春は花、夏はホトトギス、秋は紅葉(もみじ)や月、冬は雪が好んで詠まれたことを考えると、清少納言の視点はユニークだといえるでしょう。

「あなたの春」は何ですか?

清少納言は「春はあけぼのだよ!」と書きました。

春を迎えた今、現代を生きる私たちにも「それぞれの春」があるでしょう。たとえば──

春は始まり
春は出会い
春は挑戦
春は桜
春はイチゴ
春は若草色
春は公園
春はジョギング
──などなど。

それぞれの春を胸に、新たな一歩を踏み出したいものです。

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参考資料など

『絵で読む日本の古典3 枕草子・徒然草』(監修/田近洵一、ポプラ社)、『枕草子 いとめでたし! 』(著者/天野慶 、監修/赤間恵都子、絵/睦月ムンク、朝日学生新聞社)、『枕草子のたくらみ』(著者/山本淳子、朝日新聞出版)、『あなたを変える枕草子』(著者/清川妙、小学館)