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なぜ、関東と関西でいなり寿司の形が違う?

2021/02/11 07:37 ウェザーニュース

2月11日は「初午(はつうま)いなりの日」です。全日本いなり寿司協会が、初午となる日に近い国民の祝日である建国記念の日に合わせて定めました。

初午とは2月最初の午の日のことで、各地の稲荷神社では五穀豊穣(ごこくほうじょう)を願う祭りが行われます。稲荷神のお使い、キツネの好物の油揚げを使った「いなり寿司」をこの日に食べると福を招くといわれています。

全国で広く好まれているいなり寿司ですが、実は地域によって形が大きく違っています。ウェザーニュースが行った独自調査によると、東日本では圧倒的に長方形(俵型)が多く、西日本は三角形、特に近畿・四国では過半数を占める結果となりました。
なぜ東西でいなり寿司の形が違うのか、全国のいなり寿司の歴史や特徴について、歳時記×食文化研究所の北野智子さんに伺いました。

忽然(こつぜん)と現れた“謎の寿司”

「いなり寿司の東西での形の違いについては、以前から話題に出ることが多いのですが、その理由は諸説あり、はっきりしていません。

そもそも、いなり寿司自体が江戸後期に忽然と現れた“謎の寿司”とされているのです。握り寿司のように、すし飯の上にネタをのせるスタイルとは全く異なる、甘辛く煮た油揚げを袋状に開き、そこへ飯を詰めるという形状のすしは、それまでに見当たりません。また江戸時代には多くの料理書が出版されましたが、いずれの書物にもいなり寿司は載っていません。

関東の長方形については、商売繁盛の神として有名な稲荷神はもともと五穀豊穣の神を祀(まつ)る田の神信仰に由来し、『稲生り(いねなり)の神』とされていることから、米を入れた俵に見立てているとの説があります。

関西の三角形については、稲荷神社の総本宮・伏見稲荷大社のある稲荷山の形に見立てた、狐の耳の形に見立てたなどの説があります」(北野さん)

いなり寿司の発祥と歴史はどのようなものと伝えられていますか。

「発祥は尾張名古屋(愛知県名古屋市)という一説があります。1853(嘉永6)年に出版された江戸・京坂の風俗書『守貞漫稿(もりさだまんこう)』に、『尾ノ名古屋等、従来これ有り(以前からある)』と記されていることが理由です。名前については、『野干(やかん、キツネのこと)は油揚げを好む』からとされています。

名古屋に近く豊川稲荷(妙厳寺、みょうごんじ)が鎮座する愛知県豊川市は“いなりずし発祥の地”のひとつをうたい『ご当地グルメまちおこしの祭典 B1グランプリ』に、『豊川いなり寿司』が参加しています。

いなり寿司の原形は棒状で、切り売りをしていたものと考えられます。現在、原形に近い形のいなり寿司を販売しているのは、1839(天保10)年創業という、神奈川県横浜市の泉平(いずへい)かと思われます。この棒状のいなり寿司を、いつ、誰が、四角形や三角形にしたのかも謎です。また、かつては油揚げを飯の上に、握り寿司のようにのせていたという説もあります」(北野さん)

いなり寿司が広まったのはなぜでしょうか。

「いなり寿司は、天保年間(1830~44年)にはすでに江戸で売り出されていました。嘉永年間(1848~54年)に、江戸日本橋十軒店(じっけんだな、現・中央区室町)の稲荷屋治郎右衛門が赤鳥居を描いた行灯(あんどん)をつけて行商したので、いなり寿司の名が広く一般に浸透したといわれています。

天保の改革でぜいたくが禁じられ、それまで江戸で人気があった著名な寿司店が廃業に追い込まれました。そこへ安価ないなり寿司が登場し、大人気を得たのです。

ただ、安価ないなり寿司を買うことは人目をはばかり、夜になってこっそりと買う者が多かったといいます。料理書にも出ていないことから、料理屋や家庭料理の品目ではなく、屋台や行商人から買い求めて食べる性格のものだったと思われます」(北野さん)

関西の方が具沢山!?

形のほか、具材などにも違いはありますか。

「関東(名古屋以東)は、濃口醤油で味付けするので色が濃く、中身は白い寿司飯のみか、ごま、麻の実を混ぜるぐらいです。

関西以西では薄揚げを使い、淡口(うすくち)醤油で味付けするので色が薄く、濃い色に煮るのは嫌われます。中身はニンジン、シイタケ、ささがきゴボウなどを煮て寿司飯に混ぜた、具だくさんです。

いなり寿司を『しのだ寿司』とも呼ぶのは、大阪府和泉市の信太森(しのだのもり)葛葉稲荷神社に伝わる、『恩返しのため人間に化けた白狐が助けてくれた人と夫婦になりますが、3年後に、〔恋しくば尋ね来てみよいづみなるしのだの森のうらみ葛の葉〕の一首を残し去って行く』という悲しい伝説によります。

珍しいものとしては、茨城県笠間市の笠間稲荷神社門前の『そば処 つたや』で、そば入りのいなり寿司が販売されています。

また、高知県の郷土料理『田舎ずし』は山の幸をすし種にしたものですが、その中のひとつに油揚げの代わりにコンニャクをつかった『こんにゃくいなり(こんにゃくずし)』があります。素朴な味わいがよく、私はこれが好きで、関西の百貨店で開催される四国物産展などの催事で出店していたら、必ず買います」(北野さん)

「初午いなりの日」に運気を上げるため、住んでいる地域ならではのいなり寿司を味わってみてはいかがでしょうか。
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