1970年代から被害報告相次ぐ
1970年代になると、日本でも酸性雨による被害報告が相次ぎました。
「雨に打たれた野菜の葉が変色した」「雨が目にしみる」「山の木が枯れている」などなど。建築物の被害は、銅ぶきの屋根が腐食した、コンクリートが溶けてつらら状に垂れ下がる、鉄筋の腐食が進んでいるといった報告が上がりました。
酸性雨は最大の地球環境問題となったのです。
「雨に打たれた野菜の葉が変色した」「雨が目にしみる」「山の木が枯れている」などなど。建築物の被害は、銅ぶきの屋根が腐食した、コンクリートが溶けてつらら状に垂れ下がる、鉄筋の腐食が進んでいるといった報告が上がりました。
酸性雨は最大の地球環境問題となったのです。
京都大学・地球環境学堂 特定研究員の村野健太郎さん(72歳)が酸性雨の研究を始めたのは、国立公害研究所(現・国立環境研究所)にいた1984年。手がけたのは赤城山(群馬県)の酸性霧(さんせいぎり)でした。
立ち込めている霧を捕集して分析してみると、多くはpH(ピーエッチ)4台でした。pH7が中性で、数値が低くなるほど酸性度が強くなります。赤城山ではpH2.9と酸性度が高い日もあり、針葉樹も広葉樹も枯れているエリアが点在していたのです。
立ち込めている霧を捕集して分析してみると、多くはpH(ピーエッチ)4台でした。pH7が中性で、数値が低くなるほど酸性度が強くなります。赤城山ではpH2.9と酸性度が高い日もあり、針葉樹も広葉樹も枯れているエリアが点在していたのです。
今も酸性雨が降っている
1983年には環境庁(現・環境省)が北海道から沖縄までの全国で酸性雨調査を開始し、調査結果を毎年公表しています。観測地点で若干の差がありますが、おおむねpHは4.6〜4.7でした。
それは今も大差ありませんが、2013年の中国でのPM2.5高濃度問題をうけて、中国政府が大幅な大気汚染物質削減対策を採り始めたので、日本国内の酸性雨のpHは上昇気味になっています。
pH5.6以下を酸性雨と定義する見方もあるので、1980年代から現在まで酸性雨は降り続けているのです。しかし、昨今は酸性雨という言葉を耳にする機会がなくなりました。なぜでしょうか?
「酸性雨に関して風向きが変わったのは、2000年頃です。植物学者が酸性度の違う水を樹木にかけて生育度を調べました。すると、pH3までは影響がなく、pH2になると生育が悪くなることがわかったのです」(村野さん)
pH3でも樹木は枯れないことが分かったのです。欧州でも酸性雨による森林被害が報告されていましたが、実際はどうだったのでしょうか。現地を視察したことがある村野さんが話します。
「旧西ドイツの黒い森(シュヴァルツヴァルト)は第2次世界大戦後、酸性雨の被害で多くの木々が枯死したと言われましたが、今は乾燥が原因とされています。一方、チェコ・旧東ドイツ・ポーランド国境に広がる黒い三角地帯は半数以上の樹木が枯死しましたが、こちらは硫黄酸化物または硫酸等が高濃度で降り注いだことから、酸性雨による唯一の森林被害とされています」
それは今も大差ありませんが、2013年の中国でのPM2.5高濃度問題をうけて、中国政府が大幅な大気汚染物質削減対策を採り始めたので、日本国内の酸性雨のpHは上昇気味になっています。
pH5.6以下を酸性雨と定義する見方もあるので、1980年代から現在まで酸性雨は降り続けているのです。しかし、昨今は酸性雨という言葉を耳にする機会がなくなりました。なぜでしょうか?
「酸性雨に関して風向きが変わったのは、2000年頃です。植物学者が酸性度の違う水を樹木にかけて生育度を調べました。すると、pH3までは影響がなく、pH2になると生育が悪くなることがわかったのです」(村野さん)
pH3でも樹木は枯れないことが分かったのです。欧州でも酸性雨による森林被害が報告されていましたが、実際はどうだったのでしょうか。現地を視察したことがある村野さんが話します。
「旧西ドイツの黒い森(シュヴァルツヴァルト)は第2次世界大戦後、酸性雨の被害で多くの木々が枯死したと言われましたが、今は乾燥が原因とされています。一方、チェコ・旧東ドイツ・ポーランド国境に広がる黒い三角地帯は半数以上の樹木が枯死しましたが、こちらは硫黄酸化物または硫酸等が高濃度で降り注いだことから、酸性雨による唯一の森林被害とされています」
酸性雨の人的被害は?
1970年代に酸性雨が騒がれたとき、「雨が目にしみる」といった被害を訴える人がいましたが、今はあまり聞くことがありません。
「当時は車の排気ガスや工場の煤煙(ばいえん)に対する規制がゆるく、硫黄酸化物や窒素酸化物などの濃度が高く、局所的に人的被害をもたらしたと考えられます。日本の環境規制が厳しくなるにつれ、そうした人的被害は聞かれなくなりました」(村野さん)
「当時は車の排気ガスや工場の煤煙(ばいえん)に対する規制がゆるく、硫黄酸化物や窒素酸化物などの濃度が高く、局所的に人的被害をもたらしたと考えられます。日本の環境規制が厳しくなるにつれ、そうした人的被害は聞かれなくなりました」(村野さん)
まだ終わっていない酸性雨問題
日本国内では酸性雨の被害とされたものが次々に否定されました。環境省によると「酸性雨被害は認定されていないし、因果関係が証明されたものはない」とのこと。酸性雨研究を30数年間続けてきた村野さんが説明します。
「酸性雨が報じられなくなったといって、問題が解決したわけではありません。環境省は酸性雨調査を継続していますし、環境省が主導して進めてきた東アジア酸性雨モニタリングネットワークは試行稼動を経て2001年から正式稼働し、現在は13ヵ国が参加しています。既に18年以上の酸性雨データがとられ、東アジア地域の酸性雨の実態が明らかになると同時にこの地域の大気環境管理に大きく貢献しています」
国立環境研究所が、日本の酸性雨の原因となる硫黄酸化物などがどこで発生するのかを調べたところ、次のような結果が得られたのです。
「酸性雨が報じられなくなったといって、問題が解決したわけではありません。環境省は酸性雨調査を継続していますし、環境省が主導して進めてきた東アジア酸性雨モニタリングネットワークは試行稼動を経て2001年から正式稼働し、現在は13ヵ国が参加しています。既に18年以上の酸性雨データがとられ、東アジア地域の酸性雨の実態が明らかになると同時にこの地域の大気環境管理に大きく貢献しています」
国立環境研究所が、日本の酸性雨の原因となる硫黄酸化物などがどこで発生するのかを調べたところ、次のような結果が得られたのです。
PM2.5(微小粒子状物質)と同様、大陸から飛散してくる原因物質が多いことが分かりました。「この調査は1995年のデータを基にしているので、原因物質の半数を占める中国が排出ガス規制を強化しないと、日本の酸性雨がより酸性化する恐れがあります」(村野さん)
かつては最大の地球環境問題だった酸性雨は、今や地球温暖化にとって代わられているが、酸性雨問題が終わったわけではありません。
「酸性雨について報道されなくなったため、『酸性雨問題は解決した』と勘違いしている人も多いでしょう。幸い国内で酸性雨被害と断定されるものは見つかっていませんが、酸性雨がより酸性化するとどうなるか、また酸性雨による酸が蓄積されるとどうなるかはわかっていません。今後とも酸性雨に注目する必要があります」(村野さん)
かつては最大の地球環境問題だった酸性雨は、今や地球温暖化にとって代わられているが、酸性雨問題が終わったわけではありません。
「酸性雨について報道されなくなったため、『酸性雨問題は解決した』と勘違いしている人も多いでしょう。幸い国内で酸性雨被害と断定されるものは見つかっていませんが、酸性雨がより酸性化するとどうなるか、また酸性雨による酸が蓄積されるとどうなるかはわかっていません。今後とも酸性雨に注目する必要があります」(村野さん)