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人や犬などが殺虫剤の影響を受けない理由

2019/05/10 10:33 ウェザーニュース

5月に入って気温が上がり、湿度も高くなると、さまざまな害虫が繁殖してきます。ゴキブリ、ダニ、ノミ、蚊などの害虫は衛生害虫と呼ばれ、感染症を媒介するため、殺虫剤などで駆除するケースが増えてきます。

しかし、強い殺虫効果がある薬剤は、人やペットに対して害はないのでしょうか。特に乳幼児や小型犬などは顔の位置が低いため、殺虫剤を吸い込む危険があるので心配です。

選択毒性って何?

殺虫剤の有効成分はピレスロイド系、有機リン系、カーバメート系など数種類あります。このうち、現在の殺虫剤の90%以上はピレスロイド系の成分が使用されています。

結論から言えば、ピレスロイドは人にもペットにもほとんど無害です。その理由は、ピレスロイドの「選択毒性」という性質にあります。

選択毒性とは、特定の生物に対してのみ高い毒性を発揮する性質のことです。例えば、人間はチョコレートを食べてもなんともありませんが、犬が食べると中毒症状を起こすことがあります。選択毒性はこれと似た性質で、人や犬などがピレスロイドを吸い込んでも基本的になんともありませんが、害虫たちが吸い込むと強い毒性を発揮し、死滅させるのです。

コロラド州立大学の化学者、マイケル・エリオットは論文で、有機リンやカーバメートに比べ、ピレスロイドはかなり高い選択毒性を有すると報告しています。下の表は昆虫とラットを比較して、それぞれの殺虫成分をどれだけ投与すると毒性が現れるのかを調べた結果です。
ピレスロイドについてみれば、昆虫は0.45mg/kgで影響が確認されたのに対し、ラットは2000mg/kgまで耐えたというのです。この差は、人やラットなどの温血動物(哺乳類や鳥類など)と昆虫とでは神経系の複雑さが大きく異なることにあります。
温血動物のほうが、昆虫に比べて神経系が複雑なので、ピレスロイドを吸い込んでも、中枢神経に届く前に体内で分解して排泄することができるというわけです。そのため、人だけではなく、犬や猫なども、殺虫剤による害がほとんどないと言えます。

使用上で注意したいこと

その上で、日本では殺虫剤の安全性について、医薬品医療機器等法(2014年に薬事法から改正、略称は「医機法」)に基づき、厚生労働省による一定の審査をクリアしなければ販売できないことになっています。

この審査では、殺虫剤の毒性の有無、殺虫剤としての効果を測定する薬理試験結果、製品の吸収や代謝について審査を行います。その結果一定の基準を満たしたものだけが市場に出回るのです。

ただし、選択毒性があり、かつ製品の安全性に関する法規制があるからといって、完全に安心して良いわけではありません。過剰に吸い込んだり、誤飲したりすれば人や犬などにも毒性を発揮することがあります。

できるだけ吸い込まないように、殺虫剤の使用後は換気をしたり、殺虫剤を小さな子どもの手の届かないところに保管するなどの基本的な用心は怠らないようにしましょう。

参考資料など

Michael L. Elliott, “Synthetic Pyrethroids,” ACS Symposium Series; American Chemical Society: Washington, DC, 1977./安居院宣昭「『医薬品医療機器等法』(旧薬事法)による殺虫剤・殺鼠剤の法規制の現状」(『Pest Control Tokyo』、No.73、2017年)/製品評価技術基盤機構化学物理管理センター『身の回りの製品に含まれる化学物質シリーズ 家庭用防除剤』、2009年/化学ミュージアム「先生は除虫菊、理想的な殺虫成分ピレスロイド」(http://www.chemicalmuseum.jp/professional/report/11/index.html)/日本家庭用殺虫剤工業会「安全性について」(http://www.sacchuzai.jp/safety)